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書籍化記念番外編
その獣、嫉妬中につき ★
しおりを挟む彼の爪が、旗袍の布地の上から乳首をコリコリと引っかく。
「あんっ、ん……! やっ、あぁっ」
すでに硬く尖っていたそこから、痺れるような快感が全身に伝わった。
わたしは彼の首に両腕でしがみついた。
「イーサン、そこばっかりさわらないで」
「ん? ここ、好きだよな?」
「好き……だけど、もう切ないの」
くす、と小さく笑う声が耳に吹き込まれて、思わず彼の屹立をきゅっと締めつけてしまう。
「……っ!」
彼の眉間にしわが寄る。もともとかっこいい人だけど、そういう表情をすると男の色気がすごい。
寝台であぐらをかいている彼は黒豹の獣人で、この地方の領主である夫のイーサン。わたしはたくましい彼の太ももの上で、横座りになっていた。
実はわたしたちは今、服を着たままつながっている。でも、旗袍の裾で隠れているので、傍からはただ抱っこされているようにしか見えないだろう。
前からでもうしろからでもなく、斜めに膣壁を押される。いつもの気持ちいい場所に届くようで届かない感覚がもどかしい。
イーサンが「ふーっ」と長くため息をついた。
「この体勢だと、いつもより狭いんだ。これ以上、締めつけないでくれ」
「そんなこと言われても」
彼は今日、早朝からずっと留守にしていた。領主として、遠方の領地の視察に出かけていたのだ。
そして帰ってきて夕食を終えるなり、寝室へと連れてこられた。
『アナが足りない』
たった一日離れていただけで大げさだと思うけど、がっつくようにキスをされ、かすれた声で求められたら、とても止めることはできない。
彼は前戯もそこそこにすぐ挿入したのに、それからこうして愛撫ばかりしていた。イーサンだって、そろそろ限界のはずよね……。
窓の外はもう真っ暗だ。夕方のオレンジ色の光を残していた空は、すっかり暮れていた。
「アナ……」
腰をゆらゆらと揺らされる。
ふだんの激しい抽挿とは違うゆったりとした動きに、わたしの快感も高まりっぱなしだ。
「あ……ふぅ、ん……んぁ、あぁ……」
「今夜はずっと入っていたい」
吐息まじりの低い声に胸がきゅんとした。
イーサンは性欲を解消したいわけではなくて、じゃれるようにふれあっていたいのかも。服の陰で局部だけつながっているなんて、いやらしすぎるふれあいだけど。
「でも、つらくないの?」
「ん?」
「だって、イーサンはまだ一度も……」
「ああ。射精はしたいけど、子種を中に出すわけにはいかないだろう? 外出しするために抜きたくないんだ」
「あ……」
獣人の精子の生命力は強い。腟内に射精されたらすぐに妊娠してしまうから、わたしは息子が生まれてからもう三年、彼の子種を中で受けとめていない。
結婚した次の年に、わたしたちの間にはかわいい息子が生まれた。
わたしはそろそろ次の子も欲しいんだけど、時期を見て、というのがふたりの暗黙の了解だ。主な原因は、イーサンの焼きもち。
「ユーハンばかり、あんたと一緒にいられてずるいな」
「なに言ってるの、イーサン。わたしたちの子供よ?」
ユーハンはひとり息子の名前だ。
そう、イーサンは幼い息子に焼きもちを妬いているのだ。
「でも、俺もずっとアナのそばにいたい。視察なんか行きたくない」
そんなことを言っていても、イーサンの責任感が強いのは知っている。彼がわたしと息子を愛してくれているのも、よくわかってる。
ただちょっと独占欲が強いだけなのだ。息子にも嫉妬してしまうくらい、ね。
「ふふ。甘えてるの?」
たくましい夫が駄々をこねている様子がなんだかかわいくなって、つい彼の頭を子供にするみたいになでてしまった。
イーサンは抗議するように無言で腰を突きあげた。硬い陰茎がぐりっと子宮口をえぐる。
突然の強烈な刺激に、わたしはとうとう絶頂に達した。
「あっ、だめっ、いっちゃうっ……ああっ、あ、あああああ!」
イーサンのひざの上で、体が跳ねるように震える。柔襞が子種を求め収縮して、彼の欲望を吐き出させようとする。
でも、イーサンはこらえた。
「く……っ」
「あ、あぁっ、イーサン、あなたも……」
「もう少し……だけ」
その瞬間、ガタッと大きな音がした。寝室の入り口のほう――扉が開いたようだ。
「え!? ちょっと待って」
人が入ってきたらまずい。
いくら挿入している部分は隠れていても、こんなところを見られるのは恥ずかしすぎる。
でも、領主夫妻の寝室に、許可も取らずに入ってこられるのは――
「……ユーハン!?」
ちょこちょことおぼつかない足取りで、小さな男の子が駆けてくる。
黒髪の中からぴょこんと生えているのは、かわいらしい獣の耳。うしろでは細長いしっぽが揺れている。
黒豹の獣人であるイーサンと、人族のわたしの間にできる子は、どちらになるのだろうと考えたこともあるけれど、息子はイーサンによく似た黒豹の獣人だった。
今年三歳になるユーハンは、なんの躊躇もなく駆け寄ってきてわたしのひざに上った。
「ははうえー」
「あ、ゆ、ユーハン、あとで行くから、い、今はお部屋に戻ってもらえる? 痛っ」
焦りまくって舌を噛む。
平然とわたしと息子を抱えていたイーサンが、ちょっと笑った。
わたしは彼を睨みつけて、ユーハンにはにっこりと微笑んでみせる。今、両親がなにをしているのか、絶対に悟られてはならない。
ユーハンは眠そうに、小さな手で目をこすった。
「えー、なんで? ぼく、ねむくなっちゃったの」
「あ、ああ、ごめんね」
この国の貴族の習慣で、夫婦と子供の寝室は別だ。
子供には世話係がつけられ、夜の間も様子を見ていてくれる。
ただ寝かしつけだけは、いつもわたし自身がしていた。ユーハンと一緒に寝たくてもできないので、せめてそれくらいは、と思って。
でも、今日は食事を終えてすぐイーサンに拉致されたため、寝かしつけも世話係に任せていたのだ。だけど、ユーハンは寝つけなかったようだ。
「ははうえー、だいすき」
「わたしも大好きよ、ユーハン」
小さな子供が眠そうに、わたしの胸に顔をうずめてくる。
まだ体重も軽いので、ひざに乗せるのは全然かまわないんだけど、今の状態は非常にまずい。
「イーサン、どうしたらいいの」
「さて、どうしたもんかな」
「のんきなことを言っていないで、なんとかして」
わたしは思わず泣きそうになってしまった。
そんなわたしたちを見たユーハンが、不満そうに口を尖らせた。
「ちちうえとばっかり、なかよくしてずるい」
「えぇっ、違うのよ、これはね」
「ちがわないもん。ぼくも、なかよしする!」
ユーハンはわたしにしがみついて、頬にちゅっとキスしてくる。
イーサンの目がきらりと光った。
「じゃあ、俺も負けていられないな」
「イーサン!?」
ユーハンがしたのとは反対側の頬に口づけるイーサン。
「ぼくだってまけないもん!」
そう叫んだユーハンが、またちゅーっとキスをして……。
繰り返される左右のほっぺたへの口づけ。
いつの間にか、わたしの頬は、父と息子のキス合戦の戦場になっていた。
「なんの勝負!? ちょ、ちょっとイーサン! あんっ!」
ふたりを止めようと動いた瞬間、イーサンの屹立が奥にあたってしまった。その刺激に、つい声が出る。
慌てて手のひらで口を押さえたとき、女性の咳払いの音がした。
「ノックをしたのですが……申しわけございません。ユーハン坊っちゃまは、こちらにいらっしゃいますでしょうか」
中華風の美しい彫刻がほどこされた衝立の向こうから聞こえる、落ち着いた声。
姿は見えないが、ユーハンの世話係の声だった。三十代半ばくらいの未亡人で、控えめな口の堅い女性だ。
でもほんと、とりあえず衝立があってよかった……。
「ユーハン、ごめんね」
わたしは冷や汗をかきながらも、できるだけ穏やかな笑顔を作ってユーハンに話しかけた。
「やっぱり今日はひとりで寝られるかしら。ユーハンのお父さまがね、今日一日ずっとお仕事で留守にしていたでしょう? だから、さみしいんですって」
「アナ!? 俺はそんなガキじゃないぞ!」
子供と真面目に話しているのに、イーサンがわかり切ったことを抗議してくる。
「イーサンは黙ってて。ユーハン、だからね、今夜はあなたのお父さまを寝かしつけてあげたいの。今日だけ、お父さまに譲ってもらえる?」
「ちちうえ、さみしいの?」
無邪気に父親を見上げた三歳児が、わたしに向き直ってきりっとした顔つきになった。
「うん、わかった。じゃあ、ぼく、ひとりでねるね」
「ありがとう。ほら、イーサンも」
「あ、ああ。ユーハン、母上を譲ってくれてありがとうな。助かったよ」
「えへへ。ぼく、もうおおきいから、だいじょうぶだよ!」
ユーハンはわたしのひざから滑りおりると、衝立の向こうの世話係のもとに駆けていった。
その姿を見送って、胸がいっぱいになる。つい最近まで赤ちゃんだった気がするのに、どんどん成長していく息子。母親としてはうれしいことなのだけど、ちょっぴりさみしい。
扉が閉まり、ふたりの気配が消える。
わたしがしみじみと感慨にふけっていると、急にイーサンが腰を突きあげてきた。
「えっ、イーサン!? あんっ! あ、やあぁぁん」
「ずっと我慢してた。もう限界だ」
「あっ、あんっ、あぁっ」
この体位で腰を動かすのはすごく筋力がいると思うのに、どうということもなさそうに繰り返し奥を突かれる。
「イーサン、いっちゃう! またいっちゃうからぁ!」
「いっていいよ。俺もすぐに……」
イーサンの苦しそうな吐息に子宮がうずく。わたしも、もう我慢できない。
彼のたくましい肩にしがみつき、快感に身を任せると、自然に本心がこぼれた。
「お願い……! 中で……中で出して」
「アナ?」
「欲しいの。イーサンの子種を中にちょうだい」
それは、もうひとり子供が欲しいという、ひそかな願い。
たくさんの子供に囲まれたあたたかい家庭を作りたい。もちろん、イーサンが同意してくれたらだけど。
「……うーん……」
ところが、イーサンは律動をぴたりと止めた。
眉間にしわを寄せ悩んでいる様子に、少し不安になる。イーサンはもしかして、もう子供が欲しくないのかしら。
じっと見つめていると、真剣な目をしたイーサンがぼそりとつぶやいた。
「またライバルが増えるのか」
「……え?」
ライバル? つまり、まだ生まれていない子供に嫉妬しているの?
わたしはつい笑ってしまった。
「うふふ。イーサン、子供も大切だけど、あなたの代わりなんていないわ」
「……出すぞ。今夜は寝かせないからな」
数回腰を突きあげると、イーサンはすぐに放った。彼の昂りがドクドクと脈動しているのがわかる。
わたしの中が彼を最奥へと迎え入れるようにうごめいた。
「ん……あぁ……」
潤んだ視界の片隅に、明るい光が差し込んだ。真っ暗な夜空に満月が昇っている。
静かな月の光に照らされて、イーサンの長いしっぽがゆらゆらと揺れた。
「このまま、もう一度……」
彼の低い声が耳の奥に吹き込まれる。
わたしはうなずく代わりに、イーサンの胸にぎゅっとしがみついた。
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Siceraria様
アナとイーサンを見守ってくださってうれしいです!
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いつか子供たちとの話も書けたらいいなあ(*´▽`*)
ご感想ありがとうございました!!
素敵なお話でした! 面白かったです!!!
最後にラブラブな二人も読めて、嬉しいです~!!!
完結おめでとうございます!!!
季邑 えり様
うわー、読んでくださったんですね!
うれしいですヽ(*^^*)ノ
えりさんも完結までかんばってくださいね。
本当にありがとうございました!!