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1巻
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イーサンが指を押し込もうと力を入れる。わたしはまた叫びそうになって、息を呑んだ。
「……っ! やっぱり、無理……かも」
「…………」
「痛くて……」
イーサンが指を挿れたまま、わたしをじっと見ている。
「もしかして、あんた」
「は、はい」
「処女なのか?」
ば、ばれた……
うん、あたり前だよね。わたしも前世の初体験から年月が経ちすぎていて、初めての痛みなんて忘れていた。
媚薬で体はとろけているし、もっとこう、ツルンといくものかと思っていたのに。
「ご……」
「…………」
「ごめんなさい!」
体がすごく熱いし、イーサンの指が内側のうずく場所に届かないのがもどかしくて、涙がにじみそうになる。
「ほんとは、あの人たちに最後までされてない。でも、体がたまらないのは嘘じゃないの。媚薬を無理やり飲まされて……」
「わ、泣くなよ。わかった。悪かったって。勝手に誤解したのは俺だ」
「ごめ……なさ……」
「ううー、止まれよ、俺」
イーサンがうなって、煩悩を払うように頭を振った。
「惜しいけど、そういうことなら抱きはしないさ。あんたの発情だけしずめてやるから、もう泣くなって」
わたしの狭いそこに入ったイーサンの指が、浅い位置でゆっくりと動きはじめた。同時に腫れた芯芽も軽く刺激する。
「安心しな。中も気持ちよくなれるように、膣壁もちゃんと刺激するよ。指と舌だけで満足させてやる」
「でも、あなたは……?」
「いいんだ。俺のことは気にしなくていいから」
「……ごめんなさい」
「あとで、ひとりで抜くさ。あんたのいやらしい姿を思い出すのだけは許してくれよ?」
それで、いいの? 前世で『据え膳食わぬは男の恥』って言葉を聞いたことがあるけど、男の人ってこの状態で我慢できるもの?
イーサンは片方の眉を上げてふざけたように笑い、中に入れた指を軽く前後させる。
「この膣の締めつけを思い出すだけで、いくらでも抜けそうだ」
「あんっ、ばか……!」
少なくとも佳奈の記憶では、わたしだけを気持ちよくさせてくれて、自分はなにもしなくてもいいなんていう彼氏はいなかった。
「あ……ん……」
寄せては返す波のように、媚薬によって増幅された快楽が何度も押し寄せる。
ゆるゆると動く指が、ある場所をノックするように軽くたたくと、鈍い快感が湧きあがった。
わたしは前世で、いわゆる中イキをしたことがない。もしかしてここが膣の中にあるという、いいところなの?
もっと刺激が欲しくてイーサンを見あげると、彼は目を閉じてきつく眉をひそめていた。眉間に寄った深いしわと額に浮かんだ汗だけを見ていると、まるで苦悶の表情のようだ。
「あんたの襞が、俺の指をしごくみたいにうごめいている」
「やあ……そんなこと、言わないで。わたし初めてなのに、すごく淫らみたい」
「気持ちいいよ。この指が俺自身だったらって想像したら、それだけで射精できそうだ」
「や、ああんっ! あっ……そんなこと言われたら……」
ひどく苦しそうな顔はイーサンが感じているからなんだと思ったら、なぜか余計に気持ちよくなってしまった。
「あ、だめ……。イーサン、ああ! また、いっちゃう!」
「アナ……」
「いくっ! あっ、あ、やん、ああ、いく、いっちゃう、あああぁぁぁん!!」
ぜいぜいと息を吐くわたしの上で、もう隠し切れないほどイーサンの呼吸も上がっていた。
太ももに彼の硬い屹立があたる。
やっぱりイーサンもわたしに欲情しているんだ――そう思うと、さらに欲望が燃えあがって、蜜壺の中に入ったままの男の指をぎゅっと締めつけてしまう。
「アナ、そんなにあおるなよ」
イーサンが低くかすれた声でわたしを制止するけれど、自然にうごめく膣を止めることはできない。
わたしが終わらない快感にひたっていることに気づくと、イーサンはまた指を動かして、早速見つけた内側の敏感な場所を刺激してくれた。
「あっ、あっ、やっ、いい、そこ、あっ、ああっ」
膣壁が脈動して、彼の指をこすりあげる。
さっき彼が言ったみたいに、この指が彼の欲望そのものだったらと想像してしまった。
それは指なんか比べものにならないほど、太くて長いのだろう。きっと、指ではどうしても届かない奥を思い切り突いてくれるはずだ。
満たされない部分を埋めて、満たして、深い快感を与えてほしい。
彼の分身の代わりに指をくわえ込んで、わたしは繰り返し絶頂に達した。
「これだけ誘われても我慢しなきゃならないなんて、マジかよ……」
イーサンの苦悶のうめき声を遠くに感じながら気を失うように眠ったのは、炉の炎が消え、小鳥たちのさえずりが聞こえてくるころだった。
小屋の板戸の隙間から、青い朝の光がうっすらとにじみはじめている。
夜明けの薄明かりの中でまどろみつつ、わたしは今世と乙女ゲームとの違いをぼんやりと考えていた。
前世でやり込んだ、十八禁乙女ゲーム『異世界プリンスと恋の予感』。キャラクターもシチュエーションも怖いくらい一致しているけれど、現実のこの世界にはゲームとは違う要素もあった。
イーサンだ。
攻略対象者に匹敵するほどのイケメン。しかも、もふもふな黒豹に変身する獣人だなんて、登場したら絶対に覚えているはずなのに、そんな記憶はまったくない。
でも、それ以外の流れは、ゲームのシナリオどおり……
わたし――アナスタージアは幼いころから、穏やかで優しい王太子のヴィンセントが好きだった。前世の記憶を取り戻した今となってはもう、遠い初恋の思い出のようなものだけど。
ヴィンセントとは三年前にようやく正式に婚約したけれど、その後も彼との関係は、アナスタージアの期待どおりには進まなかった。
あれは二年ほど前の秋のことだ。
婚約者同士の定期的な交流の一環としてヴィンセントがクラリース伯爵邸を訪問したとき、ふたりで庭を散策した。よく晴れた暖かい日で、赤や黄に色づいた木々の葉が美しかった。
『アナスタージアは私のことを信じているかい?』
青空を見あげながら、ヴィンセントがつぶやいた。独り言のような小さな声だった。
『ヴィンセントさま?』
なんのことかわからなくて問いかけると、ヴィンセントは頬に、どこか苦く見えるような複雑な微笑みを浮かべた。
『あなたは美しく堂々としていて、いつも自信に満ちている。私も含めて、世界が自分に従うことがあたり前だと考えているようだ』
『そんなことはございませんわ。それに、わたくしはヴィンセントさまをお慕いし、ご信頼申しあげております』
ヴィンセントはアナスタージアの返事には応えず、ふっと目をそらして秋の風に揺れる紅葉を見つめた。
『ありがとう。ただ時々、あなたは周囲にそう思わせようとしているだけで、本当はだれも信じていないのではないかと感じるんだ。いつか人は裏切ると思っている。違うかな』
『それは、わたくしへのお叱りでしょうか』
『ああ、いや。戯れ言だ。忘れてくれ』
苦笑したヴィンセントはアナスタージアの手を取り、礼儀正しく教科書どおりのエスコートをして屋敷に戻った。それ以来、その話はおくびにも出さなかった。
アナスタージアはほっとしていた。心あたりがあった。それは心の柔らかいところに隠された、ふれられたくない部分だった。
王太子妃にふさわしいように外見を磨き、広く深く教育を受け、歯を食いしばって努力して社交の力を身につけた。
だけど、アナスタージアは――わたしは、根本的に自信がなかった。自分のような矮小で価値のない人間はいつか裏切られて、すべてを失うのではないかと恐れていた。
それは自分ではどうにもならない心の澱のようなもので、上手に隠してはいたけれど、ずっと気持ちの片隅に居座っていたのだ。今思うと、前世で結婚を約束するほど好きだった人に裏切られた思いが残っていたのかもしれない。
そのときのことで、ふたりの仲がこじれたわけではない。けれど、心の距離が縮まらないのをアナスタージアは強く感じた。
焦りと劣等感の裏返しで、アナスタージアはどんどん嫉妬深くなっていった。
自分はヴィンセントが好きだけど、ヴィンセントには愛されていない。政略としての婚約なのだからあたり前ではある。でも、彼が少しでもほかの女性に笑いかけると妬ましさが止まらなくなり、裏から手を回してその令嬢にいやがらせをしたりもした。
今回、婚約破棄の場でヴィンセントの隣に立っていたジュリエットも、いやがらせの対象となったひとりだった。
一年半前、突然平民から貴族になり王立学園へと編入したジュリエットは、生粋の貴族令嬢にはないフレンドリーな魅力で、有力な貴族の子弟とみるみるうちに親しくなっていった。生徒会の会長をしていたヴィンセントが貴族社会に慣れない彼女の面倒を見ている姿は、とてもリラックスしていて楽しそうで、アナスタージアのプライドは傷つけられた。
『あんな平民あがりの小娘のどこが、わたくしより勝っているというの?』
――なぜ、わたくしは愛されないの?
ヴィンセントだけではない。アナスタージアはそのころ、家族にも距離を置かれたように感じていた。子供のときはみんなかわいがってくれていたはずなのに、周囲の人々がどんどん離れていく。
思春期の不安定さもあったのか、アナスタージアの振る舞いはさらに激しくなった。
『こんな流行遅れのドレスは着られないわ。ヴィンセントさまに嫌われてしまったら、あなた責任が取れるの!? お金なら払うから、こんなものは破いてしまいなさい』
気に入らないドレスを床に投げ捨て踏みつけて、クラリース伯爵家お抱えの仕立て屋を屋敷から追い返したこともある。母にはきつく注意されたが、アナスタージアは反発し、しばらく家の中がぎすぎすした雰囲気になった。
貴族の令嬢が集まるお茶会では、宰相の娘を舌戦でやり込めて泣かせたという事件もあった。
令嬢の父親である宰相が、政治の場で消極的なヴィンセントに苦言を呈したのが、そもそもの原因だった。宰相ごときがヴィンセントを悪く言うなんて、と腹が立って仕方なかったのだ。娘はアナスタージアに八つあたりされたようなものだ。
やがてヴィンセントへの執着はさらに強まり、彼と自分の間に割って入ろうとするものがますます許せなくなっていった。
乙女ゲームに登場する〝悪役令嬢〟のできあがりだった。
子供時代とは性格が変わってしまったようなアナスタージアを、家族は腫れものにさわるように扱った。とくに父親は、宰相の娘の件もあって、アナスタージアがクラリース伯爵家に泥を塗るようなことをやらかさないかとハラハラしていたに違いない。
自業自得なのだけれど、もっと早く前世の記憶を思い出していたら、と思ってしまう。佳奈の性格のほうがまだ生きやすかったのではないかしら。
いや、そんなことはないか。自信がないのはどちらも一緒だ。
それを隠そうとはったりをかけ、気づいたときには引けなくなって、結局みんなから見捨てられ追放されてしまうのだろう。
運命はなにも変わらなかったに違いない。
「……アナ、起きろ。大丈夫か? アナスタージア?」
だれかに軽く肩を揺すられて、わたしはゆっくりと目を覚ました。
「ん……」
なぜかまぶたが腫れぼったくて見えづらい。薄く開いた目の前にあるのは、肌? 裸?
うん、裸になった男の胸だ。しかも、すごくたくましい。これは男性に腕まくらされている状態なのかな。
今、わたし、彼氏いたっけ……
甘えてこない自立した女がいいと言っていた同じ職場のあいつは、後輩のかわいい女の子を選んだ。その前の男は工場勤務で夜勤が多く、一緒に朝まで過ごしたことはなかった。大学時代につきあっていた初めての恋人も、夜は必ず実家に帰っていたし、こんなふうに朝まで抱きしめてくれる人なんてひとりもいなかった。
身じろぎすると、肩から男物のシャツが滑り落ちる。そのシャツを大きな手が拾って、またわたしの体にかけてくれた。
黒いマントが床に敷かれており、わたしの上にはシャツがかけられている。そうか、だからイーサンは上半身裸なんだわ。
「あ……」
イーサン。彼はイーサンと名乗った黒豹の獣人で、わたしの命の恩人だ。
意識がようやく現実に戻ってきた。
「うなされていたけど。どこか痛む?」
甘い響きを持つ低音が頭の上から降ってくる。声優さんみたいにいい声だった。前世だったらイケボって言われていたかも……
まだぼんやりしていると、ふしくれだった指がそっとわたしの目もとをぬぐった。その指先が濡れている。
あれ、涙? わたし、泣いているの?
「……大丈夫。なんともないわ」
筋肉痛なのか疲労なのか体中が軋んでいるけれど、泣くほど痛いわけではない。けれど、涙が止まらなかった。
「強がらなくてもいいよ。いくら泣いても構わない。こんなときにだれも責めやしないさ」
無骨な剣だこのある手が、優しく頬をなでる。
婚約を破棄されて家から追われるときですら泣けなかったのに、素性もわからない獣人の胸の中で、わたしはもう思い出せないほど久しぶりに涙を流している。
「ごめんなさい。変な夢を見ていたみたい。すぐに泣きやむから」
「今は無理をしなくてもいいって。それに、まだあんた、媚薬が抜けていないだろ?」
媚薬……
体の中に意識を向けると、たしかにまだ小さな炎がくすぶっている気がする。
「……ん……」
ゆっくりと深呼吸をしてみると、予想していたのよりもずっと熱い吐息がこぼれた。
その吐息を覆いかぶさってきたイーサンの唇が拾う。あたたかい舌がわたしの唇を舐めて、中に入ってきた。
口の中も敏感になっているみたい。気持ちよくて息が上がる。
「んん……っ」
かぶせられたシャツの内側にイーサンの手が入ってきて、ゆっくりと胸をもみはじめる。すぐに尖ってしまった乳首にもっと刺激が欲しくて、わたしは胸をそらしてイーサンの手のひらにこすりつけた。
「もっと……」
「素直にしているとかわいいな、あんた」
イーサンの声も低くかすれている。すでに兆している男の象徴が太ももにあたる。
「あっ」
「おっと、悪い」
イーサンが腰を引いて、少し決まり悪そうに謝った。
「あんたの涙を見ていたら……」
「えっ、なにそれ。もしかしてSっけあり?」
「ん? エスってなに?」
あ、うっかり口走ってしまったけれど、〝S〟は前世の言葉だった。
「ううん、なんでもない。泣いてるところを見てかわいいなんて言うから、もしかしていじめっ子気質なのかしらって思ったの」
「そんなことはないはずだけどな。……でも、うん、乱暴者と言われたことはあるか」
わたしのまぶたや頬に口づけながら、胸をもみしだいていた彼の動きが急にぴたりと止まった。
なにかまずいことを言ってしまったのかしら。わたし、イーサンが言われたくないことを言っちゃった?
じいっと見つめると、彼は気まずそうに眉を下げて、幼い子供のようにふいっと目をそらす。黒い豹の耳がピクピクと動いた。大の男の子供っぽい仕草と素直な獣耳がちょっとかわいらしい。
わたしがくすっと笑うと、イーサンがますますすねたような様子で腕の中のわたしをくるりと回転させて、背後から抱きしめてくる。
硬い指先がぴんと乳首をはじいた。
「んっ、あっ、やあぁ……」
もう片方の手はわたしのおなかを優しくなでる。まるで愛しい妻が身ごもったかのようにゆったりと。
また涙がこぼれそうになって、歯を食いしばった。
気づかれてはいけない。あふれそうな涙を。
ちょっといい加減に見えるけれど、わたしにふれる唇や指先は優しくて、あたたかくて。
勘違いしてしまいそうになる。少しはわたしに好意を持ってくれているんじゃないかって。
イーサンが言っていたとおり、子供の父親になってもらって、イーサンの横で笑って、ともに生きていけたら。そんな将来を夢見てしまう。
幸せになりたい。……幸せになりたかった。
でも、だめなんだ。愛なんて求めちゃだめ。望んではいけない。
期待さえしなければ、裏切られないのだから。
「お願い、もう」
「アナ? どうかした?」
忘れてはいけない。これは媚薬の副作用に苦しむわたしに対する治療行為。
「んっ、なんでもない。あぁ……」
イーサンの指が芯芽をなで、昨夜より柔らかくなっているそこに入ってくる。潤んだ場所はそれほど抵抗せずに彼の指を呑み込んだ。
きつい膣口をマッサージするようにゆっくりと指を動かすイーサン。感じやすいクリトリスと内側を同時にさわられることで、中も感じるようになってきていた。
「あぁ、あっ、イーサン! そこ……あぁぁぁん!」
媚薬のせいもあるけれど、イーサンの指の動きは巧みだった。直接的な快感とは違って、膣の中を刺激されることで得られる悦楽はもどかしくて深い。どこまで感じるようになってしまうのか怖いほどだ。
わたしはなにもかも忘れて、ただ毒のように甘ったるい媚薬の熱に身を任せた。
まだ午前中だろうか。日は中空に昇り切っておらず、やや肌寒い。
森の奥にはうっすらと霧が巻いていた。昨日の出来事が嘘のように周囲は静かで、聞こえるのは葉擦れの音ばかりだ。
なんとか媚薬が抜けたので、わたしはイーサンに背負われて森番の小屋を出た。
イーサンのマントをぼろぼろになったドレスの上に巻きつけているため、彼自身は外套もなく薄いシャツだけ着ている。
「……寒くない?」
「動いていれば、すぐ暑くなる。それか、あんたがあっためてくれる?」
「え? どうやって?」
「こうして、こう」
「わっ!」
イーサンは少しかがむと、背負ったわたしを腕一本で支えて自分の前に回した。くるんと視界が変わって目の前に彼の顔が来る。
おんぶから抱っこに早変わりだ。
「なにするの!?」
しかも、わたしは大きく足を開いているので、大木にしがみつくコアラのようになっている。
「この状態で歩けば、お互い運動になるだろ?」
イーサンがリズムをつけるようにして歩きはじめた。彼が前に進むとわたしの体も規則正しく跳ねて、はしたなく開いた足の間が彼の下腹部に押しつけられる。
「これって、〝駅弁〟の体位じゃないの! イーサンのエッチ!!」
「エキベン? エッチってなんだ?」
「な、なんでもない。とにかくおんぶに戻して」
「詳しく教えてくれたら戻してあげてもいいよ」
「ほんとにだめだったら。……あん!」
そのときイーサンの硬い腹筋に秘所がこすれて、わたしは思わず変な声を上げてしまった。
「アナ、誘ってる?」
「そんなんじゃ! あ、ああん!」
足の間、腹筋だと思っていたところに、なんだか違う感触が……。いや、さっきまではたしかに平らな腹筋だったはず。でも、今はもっと硬いものが盛りあがっている。
「そんなに色っぽい顔したら、しゃれにならないでしょ」
イーサンはため息をついて、わたしを地面に下ろした。もともと足腰が立たなかったところに微妙な刺激を受けて、腰が砕ける。
倒れかけたわたしをイーサンが支えて、ふたたび背負ってくれた。
「その……それ、大丈夫?」
肩の上からのぞくと、イーサンの下腹部は大きく布地がふくらんでいる。
彼は意味ありげに含み笑いをした。
「なに? 責任取ってくれるの?」
「イーサンのばか!」
「ははっ」
わたしはイーサンの背中に顔を伏せた。
先ほどつい出てしまった前世の言葉についてはなんとかごまかしつつ、そのままおんぶで移動した。
力強い背中はわたし程度の重みでは揺らぎもしない。馬車の轍を避けて、舗装のされていない土の道をしっかりと歩いていく。
道みちイーサンに事情を聞かれた。
でも、正直には話せない。人族の王国を追放された伯爵令嬢だなんて知られたら、さすがに最悪の事態になりかねない。
えーっと、わたしはレスルーラ王国の国境沿いの町に住んでいた商人の娘。親を亡くしてから貴族の屋敷へ奉公に行っていた。わけあって奉公先をやめ、地元に帰ろうと馬車を雇って町を出た。
ところが、森の奥に連れていかれて、急に馬車を降ろされ、そのまま置き去りにされた。そこにあの盗賊たちがやってきた。と、いうことで……
うん。嘘をつくときは、ほんの少しの真実をまぜたほうがそれらしく聞こえるというしね。
「元の奉公先か、あんたの地元の町まで送ろうか?」
「えっ、それはだめ!」
「なんでだよ」
「奉公先をやめたのは、お屋敷のご主人さまにひどいことをされそうになったからなの! それに実は、地元でも町長の息子に言い寄られて、用事をすませたらすぐに別の仕事を探そうと思っていて……。帰りたくない」
ああ、しどろもどろなのが自分でもわかる。作り話ってばれちゃうかしら。
イーサンは急遽捏造したわたしの話を聞いて、からかうように笑った。
「もてもてだなー」
「それって、いやみ?」
ばれ……なかったのかな?
「いやいや、いい女はあちこちから狙われて大変だ」
「やっぱり皮肉なんでしょ!?」
緊張したぶん、にやにやした顔が気にさわった。
盗賊から助けてくれて、媚薬の後始末もしてくれたイーサンには感謝してもし切れないのに、ついけんか腰になってしまう。彼のからかっているような口調とふざけた表情がいけないのだ。
「……っ! やっぱり、無理……かも」
「…………」
「痛くて……」
イーサンが指を挿れたまま、わたしをじっと見ている。
「もしかして、あんた」
「は、はい」
「処女なのか?」
ば、ばれた……
うん、あたり前だよね。わたしも前世の初体験から年月が経ちすぎていて、初めての痛みなんて忘れていた。
媚薬で体はとろけているし、もっとこう、ツルンといくものかと思っていたのに。
「ご……」
「…………」
「ごめんなさい!」
体がすごく熱いし、イーサンの指が内側のうずく場所に届かないのがもどかしくて、涙がにじみそうになる。
「ほんとは、あの人たちに最後までされてない。でも、体がたまらないのは嘘じゃないの。媚薬を無理やり飲まされて……」
「わ、泣くなよ。わかった。悪かったって。勝手に誤解したのは俺だ」
「ごめ……なさ……」
「ううー、止まれよ、俺」
イーサンがうなって、煩悩を払うように頭を振った。
「惜しいけど、そういうことなら抱きはしないさ。あんたの発情だけしずめてやるから、もう泣くなって」
わたしの狭いそこに入ったイーサンの指が、浅い位置でゆっくりと動きはじめた。同時に腫れた芯芽も軽く刺激する。
「安心しな。中も気持ちよくなれるように、膣壁もちゃんと刺激するよ。指と舌だけで満足させてやる」
「でも、あなたは……?」
「いいんだ。俺のことは気にしなくていいから」
「……ごめんなさい」
「あとで、ひとりで抜くさ。あんたのいやらしい姿を思い出すのだけは許してくれよ?」
それで、いいの? 前世で『据え膳食わぬは男の恥』って言葉を聞いたことがあるけど、男の人ってこの状態で我慢できるもの?
イーサンは片方の眉を上げてふざけたように笑い、中に入れた指を軽く前後させる。
「この膣の締めつけを思い出すだけで、いくらでも抜けそうだ」
「あんっ、ばか……!」
少なくとも佳奈の記憶では、わたしだけを気持ちよくさせてくれて、自分はなにもしなくてもいいなんていう彼氏はいなかった。
「あ……ん……」
寄せては返す波のように、媚薬によって増幅された快楽が何度も押し寄せる。
ゆるゆると動く指が、ある場所をノックするように軽くたたくと、鈍い快感が湧きあがった。
わたしは前世で、いわゆる中イキをしたことがない。もしかしてここが膣の中にあるという、いいところなの?
もっと刺激が欲しくてイーサンを見あげると、彼は目を閉じてきつく眉をひそめていた。眉間に寄った深いしわと額に浮かんだ汗だけを見ていると、まるで苦悶の表情のようだ。
「あんたの襞が、俺の指をしごくみたいにうごめいている」
「やあ……そんなこと、言わないで。わたし初めてなのに、すごく淫らみたい」
「気持ちいいよ。この指が俺自身だったらって想像したら、それだけで射精できそうだ」
「や、ああんっ! あっ……そんなこと言われたら……」
ひどく苦しそうな顔はイーサンが感じているからなんだと思ったら、なぜか余計に気持ちよくなってしまった。
「あ、だめ……。イーサン、ああ! また、いっちゃう!」
「アナ……」
「いくっ! あっ、あ、やん、ああ、いく、いっちゃう、あああぁぁぁん!!」
ぜいぜいと息を吐くわたしの上で、もう隠し切れないほどイーサンの呼吸も上がっていた。
太ももに彼の硬い屹立があたる。
やっぱりイーサンもわたしに欲情しているんだ――そう思うと、さらに欲望が燃えあがって、蜜壺の中に入ったままの男の指をぎゅっと締めつけてしまう。
「アナ、そんなにあおるなよ」
イーサンが低くかすれた声でわたしを制止するけれど、自然にうごめく膣を止めることはできない。
わたしが終わらない快感にひたっていることに気づくと、イーサンはまた指を動かして、早速見つけた内側の敏感な場所を刺激してくれた。
「あっ、あっ、やっ、いい、そこ、あっ、ああっ」
膣壁が脈動して、彼の指をこすりあげる。
さっき彼が言ったみたいに、この指が彼の欲望そのものだったらと想像してしまった。
それは指なんか比べものにならないほど、太くて長いのだろう。きっと、指ではどうしても届かない奥を思い切り突いてくれるはずだ。
満たされない部分を埋めて、満たして、深い快感を与えてほしい。
彼の分身の代わりに指をくわえ込んで、わたしは繰り返し絶頂に達した。
「これだけ誘われても我慢しなきゃならないなんて、マジかよ……」
イーサンの苦悶のうめき声を遠くに感じながら気を失うように眠ったのは、炉の炎が消え、小鳥たちのさえずりが聞こえてくるころだった。
小屋の板戸の隙間から、青い朝の光がうっすらとにじみはじめている。
夜明けの薄明かりの中でまどろみつつ、わたしは今世と乙女ゲームとの違いをぼんやりと考えていた。
前世でやり込んだ、十八禁乙女ゲーム『異世界プリンスと恋の予感』。キャラクターもシチュエーションも怖いくらい一致しているけれど、現実のこの世界にはゲームとは違う要素もあった。
イーサンだ。
攻略対象者に匹敵するほどのイケメン。しかも、もふもふな黒豹に変身する獣人だなんて、登場したら絶対に覚えているはずなのに、そんな記憶はまったくない。
でも、それ以外の流れは、ゲームのシナリオどおり……
わたし――アナスタージアは幼いころから、穏やかで優しい王太子のヴィンセントが好きだった。前世の記憶を取り戻した今となってはもう、遠い初恋の思い出のようなものだけど。
ヴィンセントとは三年前にようやく正式に婚約したけれど、その後も彼との関係は、アナスタージアの期待どおりには進まなかった。
あれは二年ほど前の秋のことだ。
婚約者同士の定期的な交流の一環としてヴィンセントがクラリース伯爵邸を訪問したとき、ふたりで庭を散策した。よく晴れた暖かい日で、赤や黄に色づいた木々の葉が美しかった。
『アナスタージアは私のことを信じているかい?』
青空を見あげながら、ヴィンセントがつぶやいた。独り言のような小さな声だった。
『ヴィンセントさま?』
なんのことかわからなくて問いかけると、ヴィンセントは頬に、どこか苦く見えるような複雑な微笑みを浮かべた。
『あなたは美しく堂々としていて、いつも自信に満ちている。私も含めて、世界が自分に従うことがあたり前だと考えているようだ』
『そんなことはございませんわ。それに、わたくしはヴィンセントさまをお慕いし、ご信頼申しあげております』
ヴィンセントはアナスタージアの返事には応えず、ふっと目をそらして秋の風に揺れる紅葉を見つめた。
『ありがとう。ただ時々、あなたは周囲にそう思わせようとしているだけで、本当はだれも信じていないのではないかと感じるんだ。いつか人は裏切ると思っている。違うかな』
『それは、わたくしへのお叱りでしょうか』
『ああ、いや。戯れ言だ。忘れてくれ』
苦笑したヴィンセントはアナスタージアの手を取り、礼儀正しく教科書どおりのエスコートをして屋敷に戻った。それ以来、その話はおくびにも出さなかった。
アナスタージアはほっとしていた。心あたりがあった。それは心の柔らかいところに隠された、ふれられたくない部分だった。
王太子妃にふさわしいように外見を磨き、広く深く教育を受け、歯を食いしばって努力して社交の力を身につけた。
だけど、アナスタージアは――わたしは、根本的に自信がなかった。自分のような矮小で価値のない人間はいつか裏切られて、すべてを失うのではないかと恐れていた。
それは自分ではどうにもならない心の澱のようなもので、上手に隠してはいたけれど、ずっと気持ちの片隅に居座っていたのだ。今思うと、前世で結婚を約束するほど好きだった人に裏切られた思いが残っていたのかもしれない。
そのときのことで、ふたりの仲がこじれたわけではない。けれど、心の距離が縮まらないのをアナスタージアは強く感じた。
焦りと劣等感の裏返しで、アナスタージアはどんどん嫉妬深くなっていった。
自分はヴィンセントが好きだけど、ヴィンセントには愛されていない。政略としての婚約なのだからあたり前ではある。でも、彼が少しでもほかの女性に笑いかけると妬ましさが止まらなくなり、裏から手を回してその令嬢にいやがらせをしたりもした。
今回、婚約破棄の場でヴィンセントの隣に立っていたジュリエットも、いやがらせの対象となったひとりだった。
一年半前、突然平民から貴族になり王立学園へと編入したジュリエットは、生粋の貴族令嬢にはないフレンドリーな魅力で、有力な貴族の子弟とみるみるうちに親しくなっていった。生徒会の会長をしていたヴィンセントが貴族社会に慣れない彼女の面倒を見ている姿は、とてもリラックスしていて楽しそうで、アナスタージアのプライドは傷つけられた。
『あんな平民あがりの小娘のどこが、わたくしより勝っているというの?』
――なぜ、わたくしは愛されないの?
ヴィンセントだけではない。アナスタージアはそのころ、家族にも距離を置かれたように感じていた。子供のときはみんなかわいがってくれていたはずなのに、周囲の人々がどんどん離れていく。
思春期の不安定さもあったのか、アナスタージアの振る舞いはさらに激しくなった。
『こんな流行遅れのドレスは着られないわ。ヴィンセントさまに嫌われてしまったら、あなた責任が取れるの!? お金なら払うから、こんなものは破いてしまいなさい』
気に入らないドレスを床に投げ捨て踏みつけて、クラリース伯爵家お抱えの仕立て屋を屋敷から追い返したこともある。母にはきつく注意されたが、アナスタージアは反発し、しばらく家の中がぎすぎすした雰囲気になった。
貴族の令嬢が集まるお茶会では、宰相の娘を舌戦でやり込めて泣かせたという事件もあった。
令嬢の父親である宰相が、政治の場で消極的なヴィンセントに苦言を呈したのが、そもそもの原因だった。宰相ごときがヴィンセントを悪く言うなんて、と腹が立って仕方なかったのだ。娘はアナスタージアに八つあたりされたようなものだ。
やがてヴィンセントへの執着はさらに強まり、彼と自分の間に割って入ろうとするものがますます許せなくなっていった。
乙女ゲームに登場する〝悪役令嬢〟のできあがりだった。
子供時代とは性格が変わってしまったようなアナスタージアを、家族は腫れものにさわるように扱った。とくに父親は、宰相の娘の件もあって、アナスタージアがクラリース伯爵家に泥を塗るようなことをやらかさないかとハラハラしていたに違いない。
自業自得なのだけれど、もっと早く前世の記憶を思い出していたら、と思ってしまう。佳奈の性格のほうがまだ生きやすかったのではないかしら。
いや、そんなことはないか。自信がないのはどちらも一緒だ。
それを隠そうとはったりをかけ、気づいたときには引けなくなって、結局みんなから見捨てられ追放されてしまうのだろう。
運命はなにも変わらなかったに違いない。
「……アナ、起きろ。大丈夫か? アナスタージア?」
だれかに軽く肩を揺すられて、わたしはゆっくりと目を覚ました。
「ん……」
なぜかまぶたが腫れぼったくて見えづらい。薄く開いた目の前にあるのは、肌? 裸?
うん、裸になった男の胸だ。しかも、すごくたくましい。これは男性に腕まくらされている状態なのかな。
今、わたし、彼氏いたっけ……
甘えてこない自立した女がいいと言っていた同じ職場のあいつは、後輩のかわいい女の子を選んだ。その前の男は工場勤務で夜勤が多く、一緒に朝まで過ごしたことはなかった。大学時代につきあっていた初めての恋人も、夜は必ず実家に帰っていたし、こんなふうに朝まで抱きしめてくれる人なんてひとりもいなかった。
身じろぎすると、肩から男物のシャツが滑り落ちる。そのシャツを大きな手が拾って、またわたしの体にかけてくれた。
黒いマントが床に敷かれており、わたしの上にはシャツがかけられている。そうか、だからイーサンは上半身裸なんだわ。
「あ……」
イーサン。彼はイーサンと名乗った黒豹の獣人で、わたしの命の恩人だ。
意識がようやく現実に戻ってきた。
「うなされていたけど。どこか痛む?」
甘い響きを持つ低音が頭の上から降ってくる。声優さんみたいにいい声だった。前世だったらイケボって言われていたかも……
まだぼんやりしていると、ふしくれだった指がそっとわたしの目もとをぬぐった。その指先が濡れている。
あれ、涙? わたし、泣いているの?
「……大丈夫。なんともないわ」
筋肉痛なのか疲労なのか体中が軋んでいるけれど、泣くほど痛いわけではない。けれど、涙が止まらなかった。
「強がらなくてもいいよ。いくら泣いても構わない。こんなときにだれも責めやしないさ」
無骨な剣だこのある手が、優しく頬をなでる。
婚約を破棄されて家から追われるときですら泣けなかったのに、素性もわからない獣人の胸の中で、わたしはもう思い出せないほど久しぶりに涙を流している。
「ごめんなさい。変な夢を見ていたみたい。すぐに泣きやむから」
「今は無理をしなくてもいいって。それに、まだあんた、媚薬が抜けていないだろ?」
媚薬……
体の中に意識を向けると、たしかにまだ小さな炎がくすぶっている気がする。
「……ん……」
ゆっくりと深呼吸をしてみると、予想していたのよりもずっと熱い吐息がこぼれた。
その吐息を覆いかぶさってきたイーサンの唇が拾う。あたたかい舌がわたしの唇を舐めて、中に入ってきた。
口の中も敏感になっているみたい。気持ちよくて息が上がる。
「んん……っ」
かぶせられたシャツの内側にイーサンの手が入ってきて、ゆっくりと胸をもみはじめる。すぐに尖ってしまった乳首にもっと刺激が欲しくて、わたしは胸をそらしてイーサンの手のひらにこすりつけた。
「もっと……」
「素直にしているとかわいいな、あんた」
イーサンの声も低くかすれている。すでに兆している男の象徴が太ももにあたる。
「あっ」
「おっと、悪い」
イーサンが腰を引いて、少し決まり悪そうに謝った。
「あんたの涙を見ていたら……」
「えっ、なにそれ。もしかしてSっけあり?」
「ん? エスってなに?」
あ、うっかり口走ってしまったけれど、〝S〟は前世の言葉だった。
「ううん、なんでもない。泣いてるところを見てかわいいなんて言うから、もしかしていじめっ子気質なのかしらって思ったの」
「そんなことはないはずだけどな。……でも、うん、乱暴者と言われたことはあるか」
わたしのまぶたや頬に口づけながら、胸をもみしだいていた彼の動きが急にぴたりと止まった。
なにかまずいことを言ってしまったのかしら。わたし、イーサンが言われたくないことを言っちゃった?
じいっと見つめると、彼は気まずそうに眉を下げて、幼い子供のようにふいっと目をそらす。黒い豹の耳がピクピクと動いた。大の男の子供っぽい仕草と素直な獣耳がちょっとかわいらしい。
わたしがくすっと笑うと、イーサンがますますすねたような様子で腕の中のわたしをくるりと回転させて、背後から抱きしめてくる。
硬い指先がぴんと乳首をはじいた。
「んっ、あっ、やあぁ……」
もう片方の手はわたしのおなかを優しくなでる。まるで愛しい妻が身ごもったかのようにゆったりと。
また涙がこぼれそうになって、歯を食いしばった。
気づかれてはいけない。あふれそうな涙を。
ちょっといい加減に見えるけれど、わたしにふれる唇や指先は優しくて、あたたかくて。
勘違いしてしまいそうになる。少しはわたしに好意を持ってくれているんじゃないかって。
イーサンが言っていたとおり、子供の父親になってもらって、イーサンの横で笑って、ともに生きていけたら。そんな将来を夢見てしまう。
幸せになりたい。……幸せになりたかった。
でも、だめなんだ。愛なんて求めちゃだめ。望んではいけない。
期待さえしなければ、裏切られないのだから。
「お願い、もう」
「アナ? どうかした?」
忘れてはいけない。これは媚薬の副作用に苦しむわたしに対する治療行為。
「んっ、なんでもない。あぁ……」
イーサンの指が芯芽をなで、昨夜より柔らかくなっているそこに入ってくる。潤んだ場所はそれほど抵抗せずに彼の指を呑み込んだ。
きつい膣口をマッサージするようにゆっくりと指を動かすイーサン。感じやすいクリトリスと内側を同時にさわられることで、中も感じるようになってきていた。
「あぁ、あっ、イーサン! そこ……あぁぁぁん!」
媚薬のせいもあるけれど、イーサンの指の動きは巧みだった。直接的な快感とは違って、膣の中を刺激されることで得られる悦楽はもどかしくて深い。どこまで感じるようになってしまうのか怖いほどだ。
わたしはなにもかも忘れて、ただ毒のように甘ったるい媚薬の熱に身を任せた。
まだ午前中だろうか。日は中空に昇り切っておらず、やや肌寒い。
森の奥にはうっすらと霧が巻いていた。昨日の出来事が嘘のように周囲は静かで、聞こえるのは葉擦れの音ばかりだ。
なんとか媚薬が抜けたので、わたしはイーサンに背負われて森番の小屋を出た。
イーサンのマントをぼろぼろになったドレスの上に巻きつけているため、彼自身は外套もなく薄いシャツだけ着ている。
「……寒くない?」
「動いていれば、すぐ暑くなる。それか、あんたがあっためてくれる?」
「え? どうやって?」
「こうして、こう」
「わっ!」
イーサンは少しかがむと、背負ったわたしを腕一本で支えて自分の前に回した。くるんと視界が変わって目の前に彼の顔が来る。
おんぶから抱っこに早変わりだ。
「なにするの!?」
しかも、わたしは大きく足を開いているので、大木にしがみつくコアラのようになっている。
「この状態で歩けば、お互い運動になるだろ?」
イーサンがリズムをつけるようにして歩きはじめた。彼が前に進むとわたしの体も規則正しく跳ねて、はしたなく開いた足の間が彼の下腹部に押しつけられる。
「これって、〝駅弁〟の体位じゃないの! イーサンのエッチ!!」
「エキベン? エッチってなんだ?」
「な、なんでもない。とにかくおんぶに戻して」
「詳しく教えてくれたら戻してあげてもいいよ」
「ほんとにだめだったら。……あん!」
そのときイーサンの硬い腹筋に秘所がこすれて、わたしは思わず変な声を上げてしまった。
「アナ、誘ってる?」
「そんなんじゃ! あ、ああん!」
足の間、腹筋だと思っていたところに、なんだか違う感触が……。いや、さっきまではたしかに平らな腹筋だったはず。でも、今はもっと硬いものが盛りあがっている。
「そんなに色っぽい顔したら、しゃれにならないでしょ」
イーサンはため息をついて、わたしを地面に下ろした。もともと足腰が立たなかったところに微妙な刺激を受けて、腰が砕ける。
倒れかけたわたしをイーサンが支えて、ふたたび背負ってくれた。
「その……それ、大丈夫?」
肩の上からのぞくと、イーサンの下腹部は大きく布地がふくらんでいる。
彼は意味ありげに含み笑いをした。
「なに? 責任取ってくれるの?」
「イーサンのばか!」
「ははっ」
わたしはイーサンの背中に顔を伏せた。
先ほどつい出てしまった前世の言葉についてはなんとかごまかしつつ、そのままおんぶで移動した。
力強い背中はわたし程度の重みでは揺らぎもしない。馬車の轍を避けて、舗装のされていない土の道をしっかりと歩いていく。
道みちイーサンに事情を聞かれた。
でも、正直には話せない。人族の王国を追放された伯爵令嬢だなんて知られたら、さすがに最悪の事態になりかねない。
えーっと、わたしはレスルーラ王国の国境沿いの町に住んでいた商人の娘。親を亡くしてから貴族の屋敷へ奉公に行っていた。わけあって奉公先をやめ、地元に帰ろうと馬車を雇って町を出た。
ところが、森の奥に連れていかれて、急に馬車を降ろされ、そのまま置き去りにされた。そこにあの盗賊たちがやってきた。と、いうことで……
うん。嘘をつくときは、ほんの少しの真実をまぜたほうがそれらしく聞こえるというしね。
「元の奉公先か、あんたの地元の町まで送ろうか?」
「えっ、それはだめ!」
「なんでだよ」
「奉公先をやめたのは、お屋敷のご主人さまにひどいことをされそうになったからなの! それに実は、地元でも町長の息子に言い寄られて、用事をすませたらすぐに別の仕事を探そうと思っていて……。帰りたくない」
ああ、しどろもどろなのが自分でもわかる。作り話ってばれちゃうかしら。
イーサンは急遽捏造したわたしの話を聞いて、からかうように笑った。
「もてもてだなー」
「それって、いやみ?」
ばれ……なかったのかな?
「いやいや、いい女はあちこちから狙われて大変だ」
「やっぱり皮肉なんでしょ!?」
緊張したぶん、にやにやした顔が気にさわった。
盗賊から助けてくれて、媚薬の後始末もしてくれたイーサンには感謝してもし切れないのに、ついけんか腰になってしまう。彼のからかっているような口調とふざけた表情がいけないのだ。
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