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1巻

1-2

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 腕も足も拘束されて動けないけれど、精いっぱい抵抗した。すると、ひとりの男にうしろから羽交い締めにされて、もうひとりに鼻をつままれる。
 息ができない。苦しい!
 思わず口を開いたところに大きめの丸薬を突っ込まれた。苦そうな黒っぽい色をしているのに薬は甘く、口内ですぐに溶けはじめる。
 獣人のリーダーが、ふところから取り出した小型のナイフでドレスの前身頃を引き裂くと、大きめの胸がまろび出る。

「いい体をしているな」

 男たちがごくりとつばを呑んだ。
 ああ、せっかく前世を思い出したのに、なにか役に立つ知識はないの!?
 焦りと恐怖で頭が空転する。嫌悪感しかないはずなのに、下品に笑う男たちにまさぐられているうちに体が熱くなってきた。これが媚薬の効果なのか。
 次第に、頭が朦朧もうろうとしてくる。下半身がずくずくとうずき、足の間がおもらししたように濡れてきたのを感じた。

「いや……」

 息を荒らげたリーダーの男が、陰茎をわたしの足の間に何度かこすりつける。ただ順番を待っている状況に我慢できなくなったのか、残りのふたりもわたしの手を使って自慰を始めた。

「おまえら、そんなに慌てるな」

 リーダーはそう言いながらも、さらに彼らをあおるように、硬く張りつめた欲望をわたしの芯芽に押しあてる。ぐりぐりとえぐられると、鋭い快感が脳裏を駆け抜けた。

「やぁっ、あぁぁっ、あぁぁん!」

 絶対に感じたくなんかないのに体が反応してしまう。
 悔しくて男を睨みつけると、彼は楽しそうに大声で笑った。

「いいねえ。もっとらしてやろうか」

 リーダーの男は小さな虫をなぶり殺しにするように、わたしにじわじわと屈辱を与えることにしたらしい。一気に挿入はせず、手に持った陰茎でクリトリスの周辺をこする。

「あっ、ああっ! だ、だめぇっ……!」
「すげえ色気だな。兄貴、すみません。先に一回いくぜ。ううぅっ」
「俺も、もう我慢できない。で、出る!」

 獣人の濃い白濁が、ものすごい勢いでわたしの手のひらを汚していく。
 明かり取りの小窓では換気が間に合わないくらい、狭い山小屋に精液の生臭いにおいが充満した。

「もうやめて。お願い」
「くくっ、もっと懇願してみろよ。言うことは聞かねぇけどな。さぁ、そろそろ本番だ。俺のでかいのを挿れてやる」
「だめ……」

 抵抗の言葉が口をついて出るけれど、その叫びとは裏腹に心をあきらめがおおっていく。
 もう本当にだめなのかもしれない。わたしの今世も、これで終わるのかも。
 国を追放され暴漢に襲われた挙げ句、娼館に売られてしまう――〝悪役令嬢〟の最悪のエンディング。
 わたしはゲームのシナリオからは逃れられないんだ。本当に、媚薬漬けの娼館エンドになってしまうのね。
 絶望がぼんやりと麻痺した頭の中に居座っていた。

「あ、ん、やぁ……ああぁぁっ」

 獣人の大きな亀頭が、媚薬にとろけた蜜穴にめり込みかける。
 その瞬間――
 バタンと大きな音がした。
 そして、閉ざされた空間に、涼しい風のような低い声が響く。

「――間に合わなかったか」

 わたしを犯そうとしている男たちの声ではない。

「……え?」

 出入り口から、扉の形に切り取られた夕日が差し込む。どうやらさっきの大きな音は木の扉が蹴破られた音だったらしい。
 その壊れた扉から入ってきたのは、背の高い男だった。

「あ、あなたは?」

 この男も、獣人だ。
 ネコ科の獣人なのか、頭に丸みを帯びた三角形の耳が生えていて、うしろには細く長いしっぽも見える。
 いったい、だれなの? 敵? それとも味方?

「おい、てめぇ何者だ!?」
「下手なことをすると、命はねぇぞ!」

 下半身を露出したままのふたりが、黒いシルエットに飛びかかっていった。

「うわっ」

 けれど、ふたりはあっという間に吹っ飛ばされ、壁に激突する。激しく砂ぼこりが舞った。
 何事もなかったかのように静かにたたずむ彼は、今まさに処女を失いかけているわたしをじっと見た。

「生きたいか?」

 この人は少なくとも暴漢の仲間ではない。それだけは、はっきりとわかった。
 男の単純な問いかけが、媚薬で濁った脳に染み込んでくる。
 わたしは、生きたいの?
 こんなろくでもない男たちにドレスを引き裂かれ、あられもない姿で押し倒されているさまを見られてしまった。
 生粋きっすいの淑女なら自害して果ててしまいそうなそんな状況で、わたしは生きていたいのか?
 それに、たとえ助けられても伯爵令嬢だったときのような経済力も権力もなく、それどころか生活を助けてくれるうしろ盾もなく、本当に生きていけるのか。いっそここで死なせてもらったほうが楽なのではないか。
 わたしは――

「……生きる。生きたい」 

 できるかぎりの力を瞳に込めて、わたしは男を見つめた。

「わたしを助けて!」

 突然、白い閃光せんこうが走った。
 まぶしい光がおさまったかと思うと、その中から急に現れた真っ黒な豹が大きな咆哮ほうこうを上げた。黒豹は、わたしの上にいる男に食らいつく。
 だが、ならず者もさすがは獣人で、素早くそれを避け、飛びすさった。しかし、黒い猛獣は瞬時に体勢を立て直し、ふたたび男に襲いかかる。

「ぎゃっ」

 男が叫んだのと、黒豹が男の喉もとに噛みついたのは、ほぼ同時だった。
 黒豹は叫び声を上げつづける男をくわえたまま、わたしにうかがうような視線を向けた。そして、ふいと顔を背けると、男を軽々と小屋の外に引きずっていく。
 外から、切れ切れに断末魔の声が聞こえた。
 もしかしたらあの黒豹は、わたしに血を見せないようにと気を遣ってくれたのかしら。まさか、ね。
 黒豹は男の悲鳴が消える前に戻ってくると、壁際にうずくまる男たちをひとりずつ外に連れ出していった。
 ……終わったの? わたしは助かったの?
 まだわからない。あの黒豹の獣人が何者かも判明していないのに、油断してはいけない。
 そう思いながらも、わたしの緊張の糸はぷつっと切れ、視界がたちまち真っ暗になったのだった。


 わたくしはアナスタージア・クラリース。
 黄金色の髪と氷のような青い瞳を持つ〝レスルーラの金の薔薇〟。人族の国、レスルーラ王国の伯爵令嬢で社交界の花。将来の王母となることを約束された、王太子の婚約者だった。
 そして、わたしは小山佳奈。
 今、この体の決定権はわたし、佳奈にある。アナスタージアの意識はたぶん佳奈に塗り替えられていて、その記憶だけが古い思い出のようにわたしの中に存在している。
 そんなわたしの前世は庶民も庶民。しがない中小企業の事務職をしていた、享年きょうねん二十八歳の会社員だった。彼氏いない歴二年。二十八年間でつきあった人は三人。
 最後の彼氏とは結婚する予定だったけれど、会社の後輩に略奪され、結婚直前にふられた。佳奈の地味な人生で、もっともドラマチックな出来事だった……

裏切られたの、わたし?』

 国境の森で馬車から降ろされたとき、真っ先に思ったことがそれだったのは、その佳奈の記憶があったからだ。
 わたしは前世で恋人に裏切られ、今世でも婚約者の王太子に捨てられた。捨てられたというのは単なる比喩ひゆではなく、物理的な話でもある。
 わたしを修道院に送るはずだった馬車は、わたしひとりを置いて去っていったのだ。人けのない深い森の中に。
 佳奈としての前世とアナスタージアの過去がマーブル模様のように脳内で入りまじり、うなされながら寝返りを打つ。すると、まぶたの裏に、赤い光がちらちらと点滅しているのに気づいた。

「光……?」

 うっすらと目を開けたら、小さな炉の炎が見えた。暗い小屋の中をほのかに照らす、煮炊き用のかまど。男の大きな背中がそのかたわらで暖を取っている。
 春先の夜はまだ少し冷える。それなのに。

「……熱い……」

 甘ったるい熱が体をむしばんでいた。皮膚は冷たいのに、皮一枚を隔てたほんの数ミリ内側が燃えるように熱い。
 媚薬のせいかしら。
 ん? ……媚薬?
 そうだ。わたしはあのいやしい男たちに媚薬を飲まされたのだった。

「いや……」

 ぎゅっと目をつぶる。体の奥のほうから熱が込みあげて下腹部にしたたり落ちる。まるで性感帯が発火したようだ。

「水、飲めるか?」

 ふたたび目を開けると、すでに黒豹の姿を解いた黒い髪の獣人がわたしの唇に水筒の口をあてていた。
 ああ、たしかにすごく喉が渇いている。
 少し口を開くと、ぬるい水がゆっくりと喉を潤していった。

「……痛っ」

 もっと飲みたくて体を起こそうとしたけれど、あちらこちらが痛くてうまく動けない。黒豹の獣人がそっと背中に手を回して、起こしてくれた。
 勢いよく飲みたくて水筒を傾けようとする。でも、一定の角度から動かない。

「……?」
「ゆっくり飲めって。急に喉を刺激したらむせるだろ」
「あ……はい」

 どうやら水筒は彼の手で押さえられていたようだ。高級な葡萄酒ぶどうしゅを味わうように、慎重に水を口に含んでいく。熱と渇きがだいぶ楽になった。

「少しは意識がはっきりした?」
「ええ、そうね」

 まだわたしの背中を支えてくれている男を見あげる。
 瞳は琥珀色こはくいろ。襟足が隠れるくらいの少し長めの髪は真っ黒で、わずかに癖があった。わたしよりも少し年上だろうか。二十二、三歳に見える。
 黒豹の青年は軽く肩をすくめた。

「それはよかった。まぁ、最高の状態ってわけじゃないが、とりあえず生きたいというあんたの望みは叶ったもんな」

 彼は男らしい美形だったけれど、おどけたような表情を浮かべていて、ちょっと軽薄そうな雰囲気だった。
 ならず者たちと戦っていたあの精悍せいかんな黒豹とは、イメージがずいぶん違う。
 豹というよりも、気まぐれな大型の猫みたい。

「助けてくれてありがとう。……助けて、くれたのよね?」
「まあ、一応ね」
「あなたのお名前は? わたしはアナスタージア。家の名はないわ」

 一瞬なにかを躊躇ちゅうちょするかのように間を置いたあと、彼は名乗った。

「俺は、イーサン。アナって呼んでもいいかな?」

『アナ』と親しげに呼ばれ、思わず胸の奥が震えた。これまでにわたしを愛称で呼んだのは、子供のころの両親だけだ。
 懐かしさと切なさに胸が締めつけられた。
 黒豹の獣人――イーサンはわたしを助けてくれたけれど、本当に信頼できる人なのかはわからない。前世風にいうとチャラそうなイメージで、なりゆきで助けてくれただけの遊び人の可能性もある。それなのに、その胸にすがりたくなった。
 相手はだれでもいいのかもしれない。ただ、心が他人に甘えたがっている。
 だめ。しっかりしなくちゃ。
 これからなにが待ち受けているのかわからない。どんな状態でも生きると決めたのだから、自分の足で立たなければ。

「実は話があるんだ、アナ」

 イーサンはわたしを横目で見て、あっさりとした口調で告げた。

「あのさ、あんた、ほぼ確実に妊娠すると思うよ」
「え?」
「三人がかりじゃな。やつらがそこらへんのチンピラだったとしても、数打ちゃあたるだろう。獣人は、人族よりも精が強い。おそらく妊娠させられるはずだ」

 もしかして、彼、誤解している? わたしがもうやつらに凌辱りょうじょくされたあとだって。
 たしかに、あの惨状だ。
 わたしの太ももの間ではリーダーの男が腰を前後させて、勃起した陰茎を秘所になすりつけていた。それにほかのふたりも両側でたっぷりと射精し、周囲にはすでにツンとした独特の精子のにおいが漂っていたのだ。
 もう乱暴されてしまったあとに見えたかもしれない。
 どうしよう。なんて説明したらいいんだろう。

「あの……」

 わたしはドレスの胸もとをぎゅっと握りしめようとして、気がついた。
 ドレスはあの男にナイフで破られたはずだった。それなのに、体が布におおわれている。
 ドレスの代わりにつかんでいたのは、質素な黒いマント。

「これは?」

 イーサンを見あげると、彼の表情が消えていた。彼はわたしの疑問には答えず、なにを考えているのかわからない無表情な瞳でわたしを見つめる。
 そして、ひと呼吸置いてから、口を開いた。

「俺が、あんたを抱いてやるよ」
「え? ……は?」

 わたしはびっくりして、口をぽかんと開けたままイーサンを凝視した。

「なにを、えぇぇ!?」

 まさか、そんなことを言われるとは思いもしなかった。やっぱりこの人も、あの男たちと同じで体が目当てなの?

「落ち着いて聞けって。いいか? 獣人との性交や、妊娠の特徴については知ってる?」
「それは一応。その……複数の獣人と関係を持った場合、より強い者の子を身ごもるって聞いたことがあるわ」
「そう。俺が抱けば、あんたはあいつらではなく俺の子をはらむことになる。俺のほうが断然強いからなー」

 イーサンはわたしから目をそらし、ため息をついてかまどの火を見つめた。

「もし子ができたら、まぁそれなりに面倒は見るさ」
「それなりにって」
「盗賊の子として生まれてくるよりはマシだろ?」
「そうじゃなくて……」
「あんたが満足できるような暮らしができるかどうかは、わからないけどな」

 えーと。わたしの頭、ぼんやりしていないで、もう少し働こうか!
 つまり彼はわたしが妊娠する可能性があるから、それを無効にして、代わりに自分の子を生んだほうがいいって言っているの?
 そのうえ、路頭に迷いかけたわたしの生活の面倒を見てくれると?

「それって、わたしに都合がよすぎない? 通りすがりのわたしを助けてくれたうえに、子供まで……」
「ふーん、なんか文句でもあんの? 俺じゃ不満だとでも?」

 挑発するようにあごを上げて、わたしを見おろすイーサン。

「だって」

 次第にうさんくさく思えてきた彼の顔を斜めに見あげる。
 この人、わたしをだまそうとしてる? もしかしてていのいい詐欺師なのかしら。
 イーサンはにやりと笑った。

「ま、なんだかんだ言っても、これからあんたを抱くから覚悟して」

『あんたを抱く』という彼の声に誘われるように、体の芯から熱が込みあげてくる。媚薬のせいか、ずっと熾火おきびのような欲望が胎内にくすぶっていたのだ。

「…………」

 でも、うずくのは体だけじゃなかった。胸の奥がじくじくと鈍く痛む。
 なんの地縁もない国で、ひとり生きていかなければならない。いくら前世の記憶があるといっても、今世はお嬢さま育ちのわたしにできるのか。
 そんな不安が一瞬胸をよぎって、イーサンに真実を打ち明けるタイミングを失った。
 この人に抱かれてしまえば、とりあえず生活していけそうだという女の打算と、苛酷な状況で頼れる相手を逃したくないという心細さ。
 自分の力で生きると決めたそばから、こんなふうに心が揺れるなんて。
 わたしはずるい。臆病者だ。
 イーサンの薄い唇がゆっくりと近づいてきて、静かにわたしの唇に重なる。唇から全身へと甘美なしびれが走った。

「あぁ、イーサン……」

 イーサンの舌が優しい愛撫のようにわたしの上唇を舐める。わずかに口を開くと、舌が熱い口内に入り込んできた。

「……アナ」

 腰に響く低い声。わたしの名前が、ひどく甘く感じる。
 こんなに頭がくらくらするのは、単なる薬の副作用だ。このときめきは、危険な薬が見せる幻にすぎないのに――

「体が熱いの。もっと口づけて」

 わたしは恋人にねだるような甘えた口調で、自分から口づけを求めた。
 男の舌がさらに深いところをかきまわす。上あごをくすぐり、下あごをねぶり、わたしの舌に食らいつく。
 彼の舌で口の中がいっぱいになる。同時に彼の口内にはわたしの舌が入り込み、ふたりの舌が一匹の獣のようにひとつになって絡みあった。

「んっ、あ、あぁ、あん……」

 こんなに口づけが気持ちいいのは、媚薬のせい。
 危機を救ってくれた人、行き場所のないわたしを受け入れてくれるかもしれない男に、気持ちが揺れているわけじゃない。
 イーサンが黒いマントをわたしの肩からはずした。その厚手のマントを床に敷き、わたしをそっと押し倒す。
 盗賊たちに襲われたときのような痛みを背中に感じることはなくて、ひそかにほっとした。

「……あっ」

 大きな影にのしかかられ、胸の先端を吸われる。ツンと立ちあがった乳首が、薄い唇に挟まれて震える。厚い舌がその尖りを舐め、乳房に食い込むほど強く押し潰す。

「やぁっ、ああん……。あっ、ああっ……」

 乳首をくわえられているだけなのに、すさまじい快感だった。
 器用な指先にもう片方の先端をくりくりといじられると、足の間から愛液があふれる。

「ぁ……っぁ、だめ、だめ! だめ、乳首だけでいっちゃう……っ」

 すると、イーサンが顔を離してしまった。

「え……どうして?」
「あんたがだめだって言ったんだろ? 乳首でいきたくない? 中がいい?」
「そんな、わたし……」

 いただきにのぼり切れずに放置され、どうしようもなく体がうずくけれど、さすがにあからさますぎる言葉を口にするのは恥ずかしい。
 でも、物欲しそうな表情をしてしまったはずだ。
 薄暗い小屋の端でチロチロと小さく燃える炎が、わたしたちをほのかに照らしている。イーサンの顔は影になって見えないけれど、少し笑った気配がした。
 彼の長い指が両方の乳首を柔らかくこねまわす。
 優しい手つきに、また快感がふくらんだ。

「ん、あぁ……」

 見かけどおり、女性の扱いに慣れている。

「あぁ、だめ……。もう、おかしくなるから」

 丁寧な愛撫に感じすぎて苦しい。いっそもっと乱暴に扱ってほしいくらいだった。
 いっとき和らいでいた媚薬の効果が完全に戻ってきていた。
 頭がぼうっとして痛さや疲れが遠ざかる。ただ性感だけが鋭く尖り、皮膚の表面が怖いほど敏感になっていた。
 乳首を舐めるイーサンの頭を押しのけようとしたはずなのに、なぜか抱え込んでしまう。
 黒髪の中に指を入れて衝動のままにかきまわすと、イーサンが顔を上げて、また口づけてきた。

「おかしくなれよ」
「イーサン……」

 琥珀色こはくいろの瞳がわたしを見つめる。

「あんたが気持ちいいことだけしてやるよ。だから、いくらでも感じろ」

 片手はわたしの頭をなで、もう片方の手は太ももをさする。柔らかな気持ちよさが太ももから上半身へと静かにいのぼってくる。

「あぁ、それいいの。優しくなでて……」
「わかった。大丈夫だ、アナ。優しくする。安心していいから」
「うん……もっとして」
「これでいい?」
「……好き。イーサン……あっ、それ好きなの……!」

 一瞬、イーサンが動きを止めて息を呑んだ気がした。けれど目を開ける前に、男らしい指に繊細なタッチでウエストやおしりをなでられて、今まで感じたことのない心地よさに溺れてしまった。
 やがてイーサンの指が、蜜を垂れ流す秘所にたどりつく。
 とろけたぬかるみの淫らな汁を指にまとわせると、彼は敏感な突起にそっとふれた。電流のような激しいしびれが頭を突き抜ける。

「あぁ、あぁぁん!」
「痛い?」
「ちが……っ、いいの、気持ちいい!」

 そのままゆるくこすられ、あっという間にのぼりつめそうになる。

「快感に逆らわずに、いけ」
「あ……ん、いく! いく、いっちゃう……!」

 イーサンが強めに芯芽を押さえると、わたしはすぐ絶頂に駆けのぼった。

「はあああぁぁんっ!」

 体がぴくぴくと痙攣けいれんする。

「あっ、あっ、ああ……」

 欲情を発散したことで、少しだけ媚薬の効果が薄らいだ気がした。
 息を荒らげて快感の余韻にひたっていたら、イーサンの指が潤んで脈打つ蜜口を探りはじめる。指の先端が差し込まれたとき、わたしは思わず悲鳴を上げてしまった。

「……痛いっ」
「アナ?」
「う、ううん、なんでもないわ、平気」

 いくら濡れているとはいえ、未経験のこの体は彼の指に抵抗する。指一本なのに、痛い。なにもないところをこじ開けられるような痛みだ。


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