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俺の××を返せ 3

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 欲望を吐き出し切ったあと、シングルベッドでくっついて横になりながら、俺たちはぽつりぽつりと話していた。

「俺、好きだって言ってなかったっけ?」
「聞いてねえ」

 俺の胸に乗り上げてきた孝太が、悪戯っぽく微笑む。これは確信犯だ。微笑みがニヤニヤとした笑いに変化した。

「俺、最初からおまえのこと、好きだったよ? 気がつかなかった?」
「最初っていつだよ」
「んー、子供のころ?」

 嘘だろ。そんなそぶり、あったか?
 そりゃあ、ずっと幼馴染みで、親友で。ほかのやつらに比べたら距離感は近かったけど、恋愛感情かどうかなんて、まるでわからなかった。

「俺だけが惚れてるんだと思ってた……。俺だって、幼稚園のときから好きだった。俺のほうが早い」
「どうかなー?」

 真意が読めない笑みを浮かべる。そして、孝太は少し切なそうに目を伏せた。俺の心臓の音を聞くように、左胸に耳を当てる。

「俺さ、涼介をこっちの世界に引きずりこんだらだめだって、自分に言い聞かせてた」
「こっち?」
「うん。男同士の恋だとか、欲だとか。だからずっと、涼介から手ぇ出してくれたらいいのにと思ってたのに、いざそうなったらなんか不安で、恥ずかしくて……。半月も連絡しなくてごめんな」

 最初の夜から今日まで連絡がなかったことを、俺は孝太に嫌われたんだろうと勝手に決めつけていた。
 俺は意気地なしだ。本当に好きなら、俺はあきらめるべきじゃなかった。どんな答えであろうと、俺が惚れた孝太は、この気持ちを適当に扱うやつじゃない。俺は孝太を信じなきゃいけなかったんだ。

「俺こそ、ごめん。孝太に拒絶されるのが怖くて、いろいろ自分に言いわけして、連絡できなかった」

 孝太は茶化すように、大きな黒い目を細める。

「そうだよ。俺をお嫁に行けない体にしておいて、ひでぇよ」
「は?」
「だって、俺、もう涼介以外じゃ勃たないもん。今度、俺にも挿れさせてね?」
「……は? え?」

 戸惑う俺に、孝太は今度こそ大笑いした。

「あはは! 嘘、嘘! 冗談。誘惑したのは俺なんだから、おまえはそんなに気にしなくていいんだよ」
「誘惑?」
「そう。こんなふうに……」

 黒目がちの上目遣いでじいっと俺を見つめてから、子供のように破顔すると、俺の髪に手を差しこんでぐしゃぐしゃとかきまぜた。

「おまえ、よくそうやって上目遣いで見るよな」
「うん。涼介、俺の顔、好きだろ? ちょっとでも誘惑できたらなーと思ってたんだけど、涼介、意外と自制心強かったよね」
「な……、どれだけ俺が我慢したと思ってるんだ。おまえ……」

 ――俺の純情を返せ。
 ケラケラと笑う孝太をヘッドロックで締め上げる。

「うわ、痛いよ。ギブギブ!」
「許さねえ」

 けれど。
 孝太があんまり楽しそうに笑うから、ついつられて俺も笑ってしまった。



   * * *



 二十歳の冬。俺と孝太は、地元で開催された成人式に出席していた。
 大きめのホールには、振袖姿の女子が目立つ。男たちもあちこちに集っていて、その中に高校のクラスメートもいた。

「涼介、孝太、久しぶり~」
「おう」
「みんなスーツかよ。羽織袴はいないのかー」
「孝太もスーツ似合ってるじゃん。七五三みたい」
「うるせぇわ!」

 たちまち旧友たちの中にとけこんでいく孝太を、俺は少し離れて見ていた。
 そんな俺に声をかけてくる女性がいた。

「涼介くん、久しぶり。元気だった?」
「ああ……、青木か。変わったな」

 一瞬わからなかったけれど、元図書委員の青木アヤだ。高校のとき、孝太が告白しようかと言っていた女子生徒。
 ストレートの黒髪で大人しい印象だった青木は、ゆるくウェーブのかかった髪型で明るい色合いのワンピースを着ていた。青木は俺に顔を近づけて、小さな声でささやく。

「ねえ、涼介くん。よかったら成人式のあと、飲みに行かない?」
「……いや、俺は」

 なんと言って断ろうかと逡巡していたら、いつの間に来たのか、孝太が俺と青木の間に割って入った。

「アヤちゃん、ごめん! 涼介は俺と約束してるからさ」
「えー、いつも二人でいるじゃない。たまには」
「いーの! 俺たち、これからもずっと一緒だから。な、涼介?」
「ああ」

 孝太が無邪気ににこにこしながら、俺の腕をつかんだ。思い切り抱きしめたかったけれど、今は自重するしかない。

「あっちに陸上部の連中もいたよ。行こうぜ、涼介」
「おう」

「もたもたすんな」とつぶやいて、孝太はせっかちな動きで俺の胸もとに無遠慮に手を突っこみ、内ポケットから何かを引っ張り出した。

「ヒトジチ! 返してほしければ、早く来い」

 俺のスマートフォンを持ったまま、走っていく孝太。

「子供かよ……」

 青木がぽかんとした顔で、俺と孝太を見ている。俺は苦笑して、彼女に軽くあいさつした。

「じゃあ、青木、またな」
「う、うん」

 またな、とは言ったが、次の機会はないだろう。孝太がずっと一緒にいると言ったら、それは俺にとって絶対なのだ。俺は孝太に逆らえないし、孝太が悲しむようなことはしたくない。

「涼介!!」

 だいぶ先から焦れたように呼ぶ孝太に、俺は笑って手を振った。

「今、行くから。俺の大事なもん、ちゃんと持っとけよ」

 もう、俺の心を返せなんて思わない。
 すべて持っていけばいい。未来まで。




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