最愛の幼馴染みに大事な××を奪われました。

月夜野繭

文字の大きさ
上 下
1 / 8

二十歳の衝動 1

しおりを挟む


 背中につけられた爪の痕が、ひりひりと痛む。
 熱いシャワーを浴びながら、俺はひどく後悔していた。やはり一線を越えるべきではなかった。これで、俺たちは終わりだ。二十年間続けてきた幼馴染みの関係は、一夜にして壊れてしまった。
 シャワーから出たら、あいつはもういないだろう。もともと荷物の少ないワンルームマンションには、冬の冷えた空気だけが留まっていることだろう。


   * * *


「涼介、今夜泊まりに行っていい? 親がさー、旅行でいないんだよ。飯、作って!」
「またかよ。俺はおまえのママじゃねえぞ」

 家事能力が壊滅的な幼馴染みは、片道一時間半以上かかる大学に実家から通っていた。
 高校卒業と同時に家を出た俺は、文句を言いながらもつい孝太の面倒を見てしまう。孝太から離れるために、違う大学へ行って、一人暮らしを始めたというのに。

「だってさ、涼介の飯、うまいんだもん」

 甘えたように見上げてくる幼馴染みから目をそらす。可愛いんだよ、ばーか。
 そうだ。俺はまだ幼稚園のころから、こいつに恋をしていた。孝太は男だから嫁にできないと親に諭された日は、駄々をこねて大泣きしたものだ。

「……何、食いたい?」
「やった! 俺ねー、ハンバーグがいいな。中にチーズが入ったやつ。あと、プリン!」
「面倒くせぇな。ハンバーグは作るけど、プリンは無理。セブンマートのプリンに勝るものは、だれにも作れねえだろ」
「おまえ、好きだよなー、セブマのプリン」
「おう」

 なんだかんだ言いながらも、俺は大学の講義のあとスーパーに寄って、ひき肉とタマネギを買う。結局俺は、孝太には絶対敵わないのだ。
 ピザ用チーズはまだ冷蔵庫に残っていると思ったら見当たらなかった。普通のハンバーグを作ったけれど、孝太は喜んで食べていたから、まあいいだろう。洗い物は孝太にやらせて、風呂に入る。
 孝太はいつもどおり泊っていくことになった。孝太が泊まるとき、俺はなんだかんだ理由をつけて彼より遅く寝るようにしている。
 その晩も、俺はシングルベッドを占領して先に寝てしまった孝太の寝顔を、飽きずに眺めていた。遅く寝る理由はこれだ。孝太の寝顔を見たいから。
 小ぶりな顔に、長い睫毛。小さな鼻。半開きの唇。昔から童顔で、女子みたいに見られるのが嫌だと、夏の間に焼いていた肌は、もうすっかり白くなっている。
 孝太の顔をまじまじと見られる機会なんて、こんなタイミングくらいしかない。

「……孝太」

 綺麗な顔だけれど、性格はガサツで大雑把。でも、おおらかで明るくて、いつも機嫌が悪そうだと言われる無愛想な俺に対しても、ずっと親友だと笑いかけてくれる。

「……好きだ、孝太……」

 暗闇に溶けるように、小さくつぶやいたそのとき、孝太のまぶたが震えた。黒目がちの大きな瞳がぱちりと開いて、俺を見つめる。

「マジ……? 涼介は俺のこと、好きなの?」
「おまえ、起きてたのか!?」
「今、起きた。なんか気配がして」
「野生動物かよ……」
「で? どうなの? 涼介は、俺を女みたいに思ってるの?」

 じとっとした目つきで、俺をにらむ孝太。俺は頭が真っ白になってしまって、慌てて否定した。

「違う! ……違うんだ」
「…………」
「孝太が男だなんて、よくわかってるさ。おまえはぐずぐずと意気地のない俺なんかよりも、ずっと男らしいよ」
「じゃあ、なんで」

 なんで。なんで好きなのか。本気で好きなのか。
 それを俺に聞くのか。物心がつくかつかないかのころからの、長い初恋をこじらせた俺に。

「しょうがないだろ!? ずっと……ずっと好きだったんだ」
「そっか、わかった。いいよ」
「笑いたきゃ笑えよ。――って、『いいよ』? は?」
「俺を好きでいていいってこと。許す」

 ベッドから起き上がり、偉そうにうんうんとうなずく孝太に、俺は抑えに抑えていた気持ちが爆発するのを感じた。
 なんだよ、それ。ふざけているのか。冗談だと思っているのか。

「孝太、俺の気持ちを舐めるな」
「え?」
「俺はな、本気なんだよ!」

 ぽかんとする孝太をベッドに押し倒し、深く口づける。
 孝太は最初もがいたけれど、口の中に舌を差しこみ衝動のままに舐めまわすと、そのあとはほとんど抵抗しなかった。俺はやけになって、孝太のパジャマに手をかけた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

幸せな復讐

志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。 明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。 だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。 でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。 君に捨てられた僕の恋の行方は…… それぞれの新生活を意識して書きました。 よろしくお願いします。 fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

変異型Ωは鉄壁の貞操

田中 乃那加
BL
 変異型――それは初めての性行為相手によってバースが決まってしまう突然変異種のこと。  男子大学生の金城 奏汰(かなしろ かなた)は変異型。  もしαに抱かれたら【Ω】に、βやΩを抱けば【β】に定着する。  奏汰はαが大嫌い、そして絶対にΩにはなりたくない。夢はもちろん、βの可愛いカノジョをつくり幸せな家庭を築くこと。  だから護身術を身につけ、さらに防犯グッズを持ち歩いていた。  ある日の歓楽街にて、β女性にからんでいたタチの悪い酔っ払いを次から次へとやっつける。  それを見た高校生、名張 龍也(なばり たつや)に一目惚れされることに。    当然突っぱねる奏汰と引かない龍也。  抱かれたくない男は貞操を守りきり、βのカノジョが出来るのか!?                

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

中国ドラマの最終回で殺されないために必要な15のこと

神雛ジュン@元かびなん
BL
 どこにでもいる平凡な大学生・黒川葵衣(くろかわあおい)は重度の中国ドラマオファン。そんな葵衣が、三度も飯より愛するファンタジードラマ「金龍聖君(こんりゅうせいくん)」の世界に転生してしまった! しかも転生したのは、ドラマの最終回に主人公に殺される予定の極悪非道皇子。  いやいやいや、俺、殺されたくないし。痛いのイヤだし。  葵衣はどうにか死亡フラグを回避しようと、ことなかれの人生を歩もうとする。  とりあえず主人公に会わなきゃよくない?  が、現実は厳しく、転生したのは子供時代の主人公を誘拐した直後。  どうするの、俺! 絶望まっしぐらじゃん!  悩んだ葵衣は、とにかく最終回で殺されないようにするため、訳アリの主人公を育てることを決める。  目標は自分に殺意が湧かないよう育てて、無事親元に帰すこと!    そんなヒヤヒヤドキドキの溺愛子育てB L。 ==================== *以下は簡単な設定説明ですが、本文にも書いてあります。 ★金龍聖君(こんりゅうせいくん):中国ファンタジー時代劇で、超絶人気のWEBドラマ。日本でも放送し、人気を博している。 <世界>  聖界(せいかい):白龍族が治める国。誠実な者が多い。  邪界(じゃかい):黒龍族が治める国。卑劣な者が多い。 <主要キャラ>  黒川葵衣:平凡な大学生。中国ドラマオタク。    蒼翠(そうすい):邪界の第八皇子。葵衣の転生先。ドラマでは泣く子も黙る悪辣非道キャラ。  無風(むふう):聖界の第二皇子。訳があって平民として暮らしている。  仙人(せんにん):各地を放浪する老人。  炎禍(えんか):邪界皇太子。性格悪い。蒼翠をバカにしている。  

【完結】泡の消えゆく、その先に。〜人魚の恋のはなし〜

N2O
BL
人間×人魚の、恋の話。 表紙絵 ⇨ 元素🪦 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定です ※◎は視点が変わります(俯瞰、攻め視点etc)

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

処理中です...