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蜜月はいつまでも ③
しおりを挟む「アレクシス? 僕は、愛するあなたの家族は自分の家族同様だと考えていますよ。それとも、僕の愛を信用できないとでも?」
「いえいえ、そんなことないわ。信じてます、心から信じてますとも!」
姉の額に冷や汗がにじんでいる。
勝ち気なアレクシスが大人しい夫を尻に敷いてうまくやっている夫婦なのかと思っていたのだけど、それも違っていそう……?
今回の事件で、姉夫婦の隠されたものを垣間見てしまった気がするけれど、仲がよいのは変わらなさそうでほっとする。
大切な姉には幸せでいてほしいもの。
それからしばらく話をしてから、ふたりは夕食も食べずに帰っていった。
一緒にディナーを食べたかったのに、残念。ずいぶん急いでいたけれど、なにか用事があったのかな?
* * *
それからは、いつも遅くまで働いていたクリストフが早い時間に帰宅するようになった。
もちろん騎士団のお仕事が忙しいときは遅いけど、まめに連絡をくれるし、それ以外の日はまっすぐに帰ってきてくれる。
「おかえりなさい。最近、早く帰ってきてくださってうれしいわ」
さらにいろいろ改修して明るい雰囲気になった屋敷の玄関ホールで、クリストフを迎える。
クリストフはわたしの額にチュッと口づけると、とろけるように甘い視線を向けた。
「独り身のころは寝るためだけに帰ってきていたし、新婚のときは気持ちを抑えようと、できるだけきみを見ないようにしていたからな」
「まあ」
「だが、今はミルドレッドとできるかぎり一緒にいたい」
まだ周囲に執事や侍女が残っている玄関ホールで、躊躇なく抱きしめられた。
熱を持ったわたしの頬に、彼の唇がふれる。
両頬に口づけたあと唇と唇が合わさり、深い口づけになった。
「んっ、あ……今はだめです」
「じゃあ、あとで倍にして返してもらおうか」
「もう、旦那さまのばか」
クリストフの頬が少し赤くなった。
結局、彼が最初のころ『旦那さま』と呼ばれるのをいやがっていたのは、わたしへの愛があふれて抑えられなくなるかららしい。
わたしは、抑えてくれなくても全然かまわないんだけど――と考えてから思い直した。
やっぱり、ちょっと無理かも。
ひと晩に何度も抱かれるのは、週に一度くらいにしておきたい。さすがに体力が持たないもの。
(でも、もう手遅れかな?)
クリストフの瞳の奥に、炎のような情熱が垣間見える。
「ミルドレッド、俺を煽るとどうなるか、まだわかっていないようだな」
「旦那さまの……ばか」
わたしだって、本当にいやなわけじゃない。
今夜も大好きな人のすべてを受け止める覚悟を決めて、わたしは彼の胸にしがみついた。
一日働いて、少し埃っぽくなった騎士服のにおい。食堂から漂ってくる今夜の食事の匂い。
クリストフのおなかがグーッと鳴って、わたしたちは目を見合わせて笑った。
窓から差し込む優しい夕暮れの光が、ラーシェン伯爵邸をあたたかく包み込んでいた。
* Happily Ever After *
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