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蜜月はいつまでも ①
しおりを挟む初めて体を重ねた夜から三日後。
わたしを心配して騎士団を休んでいたクリストフが、ようやく出仕していった。
そしてその日の夕方、彼は意外な人たちと一緒に帰宅した。
「お姉さま? それにお義兄さま!?」
クリストフのうしろからラーシェン伯爵邸の玄関ホールに現れたのは、姉のアレクシスと彼女の夫で侯爵のヴィリアムだった。
どうやらクリストフが仕事帰りに寄って、わたしをまじえて話をするために連れてきたらしい。
金髪碧眼の美女であるアレクシスと並ぶと、ヴィリアムは至極平凡に見える。黒髪に黒い瞳、ひょろりと細長い体格で銀縁の眼鏡をかけている。
地味な文官のような見た目だが、実はヴィリアムはこの国の宰相補佐。将来有望な次期宰相候補らしい。
「ミルドレッドちゃん、体調はどう?」
アレクシスが青白い顔で駆け寄ってきた。
「もう大丈夫。普通に過ごせているわ」
「よかった。やっぱり顔を見ないと心配で……」
ぎゅっと抱きしめられる。
一応大丈夫だと連絡は入れていたのだけど、相当心配をかけてしまっていたようだ。
ひととおりあいさつを済ませてから客間に移動し、改めて話を始めた。
口火を切ったのは、姉の夫のヴィリアムだ。
「クリストフ、ミルドレッド、今回は当家の雇った家庭教師が大変な迷惑をかけました。心よりお詫びします」
ソファーに座ったヴィリアムとアレクシスが深く頭を下げる。
ヴィリアムは侯爵なので、クリストフよりも身分が上になる。その立場の貴族が、ここまで謝罪の意思を明らかにするのは珍しいことだ。
それだけわたしが被害に遭ったことを申し訳なく思ってくれているのだろう。
「クリストフさまが助けてくれましたし、わたくしはもう平気です」
隣に座るクリストフを見ると、心配そうに眉をひそめている。姉夫婦の前だけど、彼の手を握って微笑んでみせる。
甥っ子の家庭教師であり、わたしを襲ったデリックのことを思い出しても、もう怖くない。
「あ……」
けれど、ふと思いついたことがあって、義兄に尋ねた。
「それよりも、ライリーは大丈夫だったのですか? あの人、変な趣味があったみたいですけど」
デリックは、甥のライリーの家庭教師。小さな女の子が好きとか言っていたけど、男の子は被害に遭っていないのだろうか。
ヴィリアムは眼鏡のつるにさわりながら、顔をしかめる。
「ああ、ライリーに対してはごく普通に振る舞っていたようです。それで、あの男の危険性に気づくのが遅れたのですが」
「ライリーには今回のことはなにも伝えていないの。ただ、前の先生と同じようにおうちの事情でやめることになった、とだけ。本当のことを言えなくてごめんなさいね、ミルドレッド」
アレクシスが申し訳なさそうに胸の前で指を組んだ。
「お姉さま、ライリーの心に傷を残さないのが一番大事だと思うわ。だから、それは気にしないで」
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