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旦那さま、やっぱりお覚悟ください ①

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 すっかり夜が更けていた。

 夕食の時間も、もうとっくに過ぎている。
 話を始める前にクリストフが執事を呼んで、「食事は部屋に運ぶように」と命じていたので、あとで食事を載せたワゴンが来るはずだ。

 でも、今は緊張しているせいもあって、まだ空腹を感じない。
 そして、なぜかわたしはベッドで、ヘッドボードに寄りかかったクリストフに背後から抱え込まれていた。肩に彼のあごがのっているので、表情は見えない。

「あの……この体勢、ドキドキするんですけど」

 ぴったりくっついているので、背中があたたかい。
 広い胸にすっぽりうずもれて、彼に拘束されているような、また逆にすがられているような矛盾した感覚を覚える。

「ミルドレッドはいい匂いがするな」

 首すじを嗅がれるのが恥ずかしくて、クリストフに話の続きをうながした。

「それよりも、本当のことってなんですか?」

 彼はひとつ息を吐くと、低い声で話しはじめた。

「さっきも言ったように、結婚式のあと――初夜に、なにもしなかった理由なんだが」
「はい」
「やはりきみが幼く見えたから、というのが大きかった。もちろんきみが大人だとはわかっているんだが、そのときはもう少し成長を待ったほうがいいのではないかと思ったんだ」

 わたしの髪に顔をうずめたまま、クリストフは少し沈黙した。

「だが、それは言い訳だ」
「えっ? 言い訳?」
「やっときみが俺のものになった。そう思ったら、暴走してしまいそうだった。自分の衝動を抑えるのに精いっぱいで、きみを思いやれなくて申し訳なかった」

 暴走……。
 そんなふうに表現するほど、激しく求められるなんて怖いはずだ。それなのに、胸が痛いくらいにときめいた。

 求めているのは、クリストフだけじゃない。
 求められてうれしい。わたしも彼を求めている。

 クリストフにこの気持ちを伝えようと口を開いたら、彼がまたぼそりと話しはじめた。

「きみが誤って媚薬を飲んだ夜は、まさに暴走だった。初めて愛する女性と愛し合うのだと思ったら、理性が飛んだ」
「わたしが痛がったせいで、途中になってしまって……」
「あとで親友に聞いたら、初体験ならなおさら、慎重にほぐさなければ入らないと教えられた」

 ほぐす、と言われて顔が熱くなった。
 秘所を舌で愛撫された夜を思い出してしまって。
 ものすごく恥ずかしかったけれど、ふたりが結ばれるために必要なら、わたしは受け入れたいと思っている。

「クリストフさま、あの、わたくし」
「すまない。もう少し聞いてくれないか」

 おなかに回した太い腕で、ぎゅーっと抱きしめられる。
 クリストフの顔はわたしの肩口に伏せられたままだ。

「実は、俺はこの年になっても、女性経験がない。きみは笑うか?」
「…………え?」

 どういうこと?
 思わず振り向いて彼の顔をのぞき込もうとしたら、片手で頬を押さえられ動けなくなる。

 この年になっても女性経験がないって――えーと、クリストフさまは、童貞ってこと?
 ……本当に?

「ミルドレッド、きみには情けないところばかり見せているな」

 クリストフが自分を軽蔑するように苦笑する。

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