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初恋の人はあなたです ④

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 彼は勘違いをしている。
 今日はたしかに怖い事件があったけど、わたしにだってわかる。
 デリックとクリストフは同じ男でも、全然違う人間なのだ。わたしの髪をなでるクリストフの手は、デリックの手とは違う。

 それに、彼はこのまま欲望をくすぶらせた状態でいられるのだろうか。
 わたし以外の女性で、二度とその欲を解消してほしくない。あの夜は本当に悲しかった。

「クリストフさまは今、高ぶっていらっしゃるのでしょう?」
「高ぶる!? いやまあ、間違ってはいないが」
「お願い。ほかの人のところに行かないで。お体を静めるためとはいえ、クリストフさまがわたくし以外の女性にふれるのだと思うと、嫉妬でおかしくなりそうなのです」

 クリストフは目を見開いた。
 そして、不思議そうに首をかしげる。

「嫉妬? ほかの女? なんのことだ」
「だって、わたくしが間違えて媚薬を飲んでしまった夜、クリストフさまは娼館に行ったのですよね?」
「ちょっと待て。どうしてそんな話になっているんだ」

 焦ったように体を起こしたクリストフは、わたしのことも抱き起こした。
 ベッドの上に座って、ふたりで見つめ合う。
 クリストフの額には冷や汗が浮かんでいるけれど、その目はまっすぐにわたしを見ていた。

「誤解があるようだ。ちゃんと話そう」
「は、はい」
「俺はあの夜、たしかに頭を冷やしたくて外に出たが、女など抱いていない。騎士団の団員がよく使う酒場に行っていただけだ」
「酒場……?」
「ああ。最近はあまり行かないが、以前はよく飲みに行っていたんだ。そこで朝まで過ごして、そのまま騎士団に出仕した」

 娼館に行ったのではなかった……?
 わたしが思い込んでいただけで、彼は潔白だったの?

 目を見開いたまま硬直してしまったわたしの前で、クリストフが深く頭を下げた。

「誤解させてすまなかった。俺がきみに一番つらい思いをさせていたんだな」
「うそ……」
「神に誓って真実だ。本当に申し訳なかった」

 クリストフはベッドのシーツに赤い髪がつくほどの勢いで頭を下げたまま、何度も謝ってくれた。

「クリストフさま、頭を上げてください。わたくしが勝手に思い込んでいただけですから。わたくしが悪いんです」
「いや、俺は無粋な人間で、昔からああいう場所が苦手でな。娼館に行くなど考えてもいなかったのだが、言われてみれば、誤解されてもしょうがない行動だった」

 そして、やっと頭を上げたクリストフは、両手でわたしの手を握った。

「本当のことを打ち明けよう。ミルドレッド、聞いてくれるか?」
「本当の……」

 クリストフの真剣な表情で、彼が大切なことを言おうとしているのがわかった。

 なんの話なのか想像がつかない。
 でも、わたしたちの夫婦としての未来にかかわる話であるのはたしかだ。

 わたしはごくりとつばを呑んで、無言でうなずいた。

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