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初恋の人はあなたです ②
しおりを挟む彼の照れている様子で、本気なのだとわかったから。
初めてもらった愛の告白に、胸がときめきすぎて壊れてしまいそうだ。
「クリストフさまは、おっさんなんかじゃありません。素敵でかっこいい騎士さまです。わたしの初恋の……騎士さまです……」
クリストフは今度こそ、はっきりと顔を赤くした。
「覚えていますか? 十年前、わたくしはまだ八歳でした。パーティーで誘拐されかけた幼いわたくしを助けてくれたのが、クリストフさまでした」
「ああ、あの功績で騎士団の中での序列が上がったし、もちろん覚えている。ただ、あのときの小さなお嬢さんを妻にしていると思うと、ちょっと罪悪感を覚えるな」
眉を下げて苦笑する彼を、わたしはまっすぐに見つめた。
「あのとき、わたくしは恋をしたのです。あれがわたくしの初めてで、唯一の恋です」
クリストフの緑色の瞳も、優しくわたしを見つめ返す。
「実は、俺の初恋もミルドレッドだ」
「は……? ええぇぇぇぇっ!?」
まさか、本当に?
でも、クリストフはこんなときに嘘をつく人じゃないのもわかっている。
あまりの驚きで開いた口がふさがらなかった。今日はびっくりすることばかりで、どう反応したらいいのかわからない。
それでつい、言わなくてもいいことを言ってしまった。
「まさか、クリストフさまも幼げな少女が趣味……とか!?」
「いや、子どものきみにじゃないぞ」
慌てて否定するクリストフ。
そうよね、ほんの一瞬だけ疑ってしまったけれど、クリストフはデリックとは違うわよね。
「さすがに婚約の打診があるまでは、年齢差がありすぎて、まったくそんな対象だとは考えていなかったからな」
「そう、ですよね」
じゃあ、いつから?
クリストフはさっき『初恋』と言った。でも、婚約したのは一年ほど前、我が家から内々に打診したのはそのさらに一年前だ。
当時わたしは十六歳、彼は二十八歳。
クリストフは、それまで恋したことがなかった……?
混乱してクリストフを見上げると、彼は困ったような笑みを浮かべた。
「そんなに目を見開いたら、大きな瞳がこぼれてしまいそうだな」
「だって……だって……」
「これまで、女性に本気になったことはなかった。若いころから騎士団の役割や父の補佐で忙しかったし、俺は怖がられているからな」
「そんなことありません! クリストフさまに憧れている女性はたくさんいます」
「そう言ってくれるのはミルドレッドくらいなものだ」
クリストフは心の底からそう思っているように笑った。
でも、そんなわけない。
鍛え上げられた肉体を持つ近衛騎士団の団長で、本当は優しい名門伯爵家の嫡男、悪い噂のない独身男性。わたしが知っているだけでも、彼に接近しようとした女性はこれまでたくさんいた。
「うーん、そうだな。きみを意識しはじめたのは、去年婚約してからか。最初は、もう結婚しろと周囲からさんざん言われて、しょうがなく受けた婚約話だった」
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