白い結婚なんてお断りですわ! DT騎士団長様の秘密の執愛

月夜野繭

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かわいくなんかありません ③

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 わたしは震えながら、はっきりとデリックに告げた。

「わたくしは、お姉さまとは違います」
「そうだよ。全然違う。ミルドレッドはかわいい」
「かわいくなんかありません!」

 わたしはデリックの腕の中で一生懸命もがいた。やっと体が少し動く。
 でも、気持ち悪い腕はなかなか外れない。

「そんなことはない。かわいいよ、とても」
「違います! 離して!」

 せめて外にいる人に聞こえないだろうか、と必死に大声を出すけれど、反応はない。
 次第に絶望が胸を覆っていく。

 だけど、あきらめたら負けだ。
 ほかの人が助けてくれなくても、絶対に彼だけは来てくれるはず。
 八歳の少女を誘拐犯から救ってくれた、永遠の英雄。幼い少女の心を奪っていった、初恋泥棒の彼が。

「助けて……クリストフさま!!」

 もう一度、力を振り絞って叫んだとき――。
 扉の向こうで、ダダダダッと音がした。廊下を人が走っているような音。
 その足音は、すぐに扉の前に到着した。
 バタンと大きな音を立てて、部屋の扉が開く。

「ミルドレッド!!」 
「あ……」

 わたしの名前を呼んだのは、彼だ。
 愛しい人。十年間想いつづけて、やっと結婚できた初恋の相手。

「クリストフさま!」

 わたしの夫――クリストフが飛び込んでくる。
 彼はわたしを抱きしめていたデリックの腕を外すと、思い切り殴り飛ばした。
 日ごろから鍛錬を欠かさない騎士の力だ。
 デリックは壁まで吹っ飛んでいく。窓際の机と椅子がガタガタと音を立てて倒れた。

「ミルドレッド、大丈夫か!?」
「はい……来てくれた……」

 クリストフがあとからこの屋敷に来ることはわかっていたけれど、何時になるかは決まっていなかった。
 でも、信じていた。

「旦那さま……」

 ここまで走ってきたのだろう。クリストフの息は上がっている。
 大きな歩幅で近づいてきた彼にきつく抱きしめられると、彼の胸から鼓動の速さが伝わってきた。

「遅くなってすまなかったな」
「いいえ、大丈夫です」
「アレクシスから、きみが甥っ子と一緒にいると聞いたのだが、甥っ子のそばにいたのは乳母だけだった。いやな予感がして、ずっと探していたんだ」
「ありがとう……ございます……」

 折れそうなほど強く抱きしめられて、とうとう我慢していた涙があふれてしまった。
 クリストフの腕の中。ここは安全な場所だ。

(わたし、助かったのね……)

 うしろでデリックのうめき声が聞こえたけれど、クリストフがわたしを抱いたまま、長い足で蹴り飛ばした。

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