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媚薬じゃなかった!? ②
しおりを挟むわたしは口もとに手をかざして、小声でささやいた。
「実はね、お姉さま、例のお薬の件なのですけど」
「お薬? ああ、媚薬のこと。あなたがセックスレスで悩んでいたときにあげた――」
「わーわーわー! お姉さま! 声が大きいです!!」
「だれもいないから、大丈夫よ」
「でも、だって、恥ずかしい」
あからさまな言葉に顔が熱くなる。
脳内で考えるのは平気だけど、それと口に出すことは違うと思う。
「かーわいいわー! こんなお嫁さんをもらえて、クリストフさまは幸せ者ね」
「…………」
「それで、初夜はうまく行ったのよね?」
赤裸々に質問してくるアレクシス。さすがふたりの子持ちの人妻は違う。
でも、今は非常時。すごく恥ずかしいけど、こんなことはアレクシス以外に相談できない。
わたしは思い切って口を開いた。
「実はその媚薬、間違えてわたしが飲んでしまったんです」
「えっ……えぇぇぇ!? 体は大丈夫だったの?」
「はい。ただすごく、その……ふしだらな気分になってしまって、クリストフさまを誘ったのだけど――」
「ふしだら!? そんなわけないわ。だって、アレ、ただのお酒よ。そんな得体の知れない薬なんて、わたくしがミルドレッドに渡すわけがないでしょう?」
「……え? お酒?」
うそ。あれは媚薬じゃ、なかった……?
わたし、媚薬を飲んだから乱れてもしょうがないと思って、かなり積極的に迫ってしまった。
クリストフに『抱いてほしい』とねだって、押し倒して口づけて、耳を舐めたりして。
うわぁー、恥ずかしすぎる。
「あなたもクリストフさまも少しリラックスできれば、大丈夫だと思ったのよ。まあ、それでなんとかなったのなら、別にいいでしょ」
うんうんと満足そうにうなずくアレクシス。
わたしはしょんぼりとうなだれて、首を横に振った。
「違うの」
「ん?」
「全然、だめでした。クリストフさまが長期出張から戻られて、昨夜もそういう雰囲気にはなったんだけど、やっぱりうまく行かなくて」
「ということは、まだ……?」
「……はい。わたし、子どもっぽいからだめなのかなあ」
うつむけた顔を上げアレクシスを見ると、彼女はぽかんと大きく口を開けていた。
「お姉さま?」
ハッとした姉は、貴婦人らしくない表情を改める。
けれど、すぐに頭を抱えて、低い声でぶつぶつとこぼしはじめた。
「信じられない。こんな美少女を前にしてなにもしないなんて。あんな立派な体をしておいて、不能なの?」
「なんの話? 不能って?」
「い、いえ、なんでもないわ」
手をひらひらと振って、ごまかすように微笑む姉があやしい。
もうちょっと詳しく話を聞こうと身を乗り出したら、遠くに人影が見えた。人影はどんどんこちらに近づいてくる。
わたしが見ていると、アレクシスも気がついたのか、その人に声をかけた。
「あら、デリック。どうかして?」
ガゼボの横にやってきたのは、二十代半ばくらいの男性だった。
茶色い髪の大人しそうな人だけど、わたしに気づくと、なぜかこちらを凝視してくる。
「デリック?」
彼はアレクシスの声に我に返ると、申し訳なさそうに頭を下げた。
「ご歓談中にすみません。ライリーさまは、こちらにいらっしゃいませんでしたか?」
ライリーは姉の子どもの名前だ。長男で、四歳になったばかり。
かわいくてやんちゃな甥っ子で、今回も会えるのを楽しみにしていた。
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