白い結婚なんてお断りですわ! DT騎士団長様の秘密の執愛

月夜野繭

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初夜、ふたたび ④

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 そのとき、急にクリストフの様子がおかしくなった。

「うっ、あっ、あぁ……」

 クリストフがわたしの秘所に顔を押しつけたまま、苦しそうにうめいている。

「クリストフ、さま?」

 両手でわたしの太ももを抱え、背中を丸めた男のたくましい体が痙攣するように震えた。
 よく見えないけれど、彼の下半身がビクビクと動いている。

「あっ、うぅ、ミルドレッド……!」
「どうしたのですか!?」

 心配だけど、押さえ込まれているような体勢で起き上がれない。
 どうしたらいいのか戸惑っていると、やがてクリストフが静かに上半身を起こした。

「すまない……」
「クリストフさま、大丈夫ですか!?」

 わたしも起きようとしたのに、なぜか彼に止められた。

「頼む。今はなにも聞かないでくれ」
「えっ!?」

 うつむく彼は、大きな手で自分の股間を覆っている。

 トラウザーズのその部分は、うっすらと濡れているようだ。まさか、おもらし?
 でも、尿のにおいはしない。代わりに鼻を突くような、変なにおいが漂ってくる。

 肩を落としたクリストフが、ベッドから下りた。

「本当に申し訳ない。今日は、ここまでで終わりだ。俺は出かけてくる」
「え……ええ!?」

 クリストフの声は暗く尖っていた。
 わたしに怒っているわけではなさそうなので、もしかして自分を責めている……?

 わたしは、しおしおと出ていこうとするクリストフの腕をとっさにつかんで止めた。

(またほかの女のところに行ってしまうの? それだけは、いや)

 二度と娼館に行かせないためにも彼を満足させたいのに、うまく行かないのがもどかしい。自分が不甲斐なくて悔しい。
 わたしは声をしぼり出した。

「行かないで……」
「どうした?」
「なにもしなくてもいいの。そばにいて」

 潤んだ目で見上げる。
 彼はしばらく躊躇してからうなずき、大きくため息をついた。

「……わかった。少しだけ待ってもらえるか? 着替えてくる」

 声がもとに戻った。
 いつもどおりの落ち着いた声。
 なんだかそれだけでもうれしくて、また泣けてきた。

「はい……待ってます」
「泣くな」
「はい。ごめんなさい」
「いや、謝らなくてもいいんだ。きみの笑顔を見たいだけだ」
「……はい」

 それからわたしも寝衣に着替え、同じく寝衣になった彼と並んで横になった。

 毛布の中で手を伸ばし、クリストフの手をつかむと、彼も握り返してくれた。
 子どもみたいに、ただ手をつないで眠る夜。
 こんなに想っているのに結ばれない切なさと、大好きな旦那さまに優しくしてもらえるうれしさ。

 そして、やっぱりそれは子ども扱いなんじゃないかというさみしさが入り混じって、わたしはしばらく眠れなかった。

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