上 下
15 / 45

新婚生活は清らかに ③

しおりを挟む


「はい! クリストフさまには、いつまでも健康でいてほしいんです。あと、たくましい筋肉を保つためには、いろんな栄養素が必要だと学びましたの」

 彼のために、本を読んだり料理人に話を聞いたりして勉強した。わたしもアイディアを出して、みんなで話し合った。
 おいしくてバランスのいい食事は、その成果なのだ。

 それにしても、クリストフの耳がほんのり赤くなっているのはなぜだろう。

「たくましい……体……。そうか、たくましいか……」
「はい! 男らしくて頼りがいがあって、かっこよくて素敵です」
「……ご、ごふっ」

 しばらく沈黙したクリストフは、むせたように咳払いをしてから、かすかに微笑んだ。

 ほかの人には怖い顔に見えるかもしれないけど、わたしにはわかる。これは喜んでいる顔だ。

「この料理は食べやすいし、味もよい。それに見ているだけでうまそうだ。あまり考えたことがなかったが、彩りも大事なんだな」
「ありがとうございます。よかった」

 わたしをじっと見ていたクリストフは、ふと顔をそらして窓の外を見た。
 外はもう薄暗く、庭で焚いているかがり火の光がぽつりぽつりと見えている。

「母の死後、父がふさぎ込み、俺は当主の代理として働くようになった。父が亡くなってからは、騎士団の仕事とのかけ持ちで忙しくて、こういう安らぎの時間を忘れていた」
「クリストフさま……」

 彼が伯爵位を継いでから、もう四、五年になる。
 わたしがのんきに両親に甘えている間――そして、クリストフと結婚するために一方的な婚活をしている間に、彼はひとりで大変な思いをしていたのだ。

 ちょっと申し訳ない気がしたけど、そのぶん、わたしがこれからクリストフを幸せにしよう。
 テーブルクロスの下でぐっとこぶしを握りしめて、決意を新たにする。

「あ、そういえば、クリストフさま。見ていただきたいものがあるのですが」
「ん? なんだ?」
「でも、もう遅いから、明日のほうがいいかしら」
「非常に気になるので、できれば早く見たい」

 表情は変わらないけれど、なんだか不安そう?
 中途半端に言葉を止めてしまったので、意味深に聞こえたのかもしれない。

「わかりました。では、夕食のあとでお見せしますね」

 彼の不安を取り去るため無邪気に笑って見せたら、クリストフは今度は困ったようにこめかみをかいた。あからさまに心配そうだ。

 あら? おかしくない? これじゃ、わたし、信頼されていないみたいじゃない?


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

別れを告げたはずの婚約者と、二度目の恋が始まるその時は

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:358

冤罪で婚約破棄したくせに……今さらもう遅いです。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:347pt お気に入り:3,160

国一番の淑女結婚事情〜政略結婚は波乱の始まり〜

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:19,485pt お気に入り:1,098

あわよくば好きになって欲しい【短編集】

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:24,560pt お気に入り:1,863

結婚三年目、妊娠したのは私ではありませんでした

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,606pt お気に入り:1,143

処理中です...