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新婚生活は清らかに ③
しおりを挟む「はい! クリストフさまには、いつまでも健康でいてほしいんです。あと、たくましい筋肉を保つためには、いろんな栄養素が必要だと学びましたの」
彼のために、本を読んだり料理人に話を聞いたりして勉強した。わたしもアイディアを出して、みんなで話し合った。
おいしくてバランスのいい食事は、その成果なのだ。
それにしても、クリストフの耳がほんのり赤くなっているのはなぜだろう。
「たくましい……体……。そうか、たくましいか……」
「はい! 男らしくて頼りがいがあって、かっこよくて素敵です」
「……ご、ごふっ」
しばらく沈黙したクリストフは、むせたように咳払いをしてから、かすかに微笑んだ。
ほかの人には怖い顔に見えるかもしれないけど、わたしにはわかる。これは喜んでいる顔だ。
「この料理は食べやすいし、味もよい。それに見ているだけでうまそうだ。あまり考えたことがなかったが、彩りも大事なんだな」
「ありがとうございます。よかった」
わたしをじっと見ていたクリストフは、ふと顔をそらして窓の外を見た。
外はもう薄暗く、庭で焚いているかがり火の光がぽつりぽつりと見えている。
「母の死後、父がふさぎ込み、俺は当主の代理として働くようになった。父が亡くなってからは、騎士団の仕事とのかけ持ちで忙しくて、こういう安らぎの時間を忘れていた」
「クリストフさま……」
彼が伯爵位を継いでから、もう四、五年になる。
わたしがのんきに両親に甘えている間――そして、クリストフと結婚するために一方的な婚活をしている間に、彼はひとりで大変な思いをしていたのだ。
ちょっと申し訳ない気がしたけど、そのぶん、わたしがこれからクリストフを幸せにしよう。
テーブルクロスの下でぐっとこぶしを握りしめて、決意を新たにする。
「あ、そういえば、クリストフさま。見ていただきたいものがあるのですが」
「ん? なんだ?」
「でも、もう遅いから、明日のほうがいいかしら」
「非常に気になるので、できれば早く見たい」
表情は変わらないけれど、なんだか不安そう?
中途半端に言葉を止めてしまったので、意味深に聞こえたのかもしれない。
「わかりました。では、夕食のあとでお見せしますね」
彼の不安を取り去るため無邪気に笑って見せたら、クリストフは今度は困ったようにこめかみをかいた。あからさまに心配そうだ。
あら? おかしくない? これじゃ、わたし、信頼されていないみたいじゃない?
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