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新婚生活は清らかに ①

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 ひと月後、ようやくクリストフが帰ってきた。

「お帰りなさいませ!」

 彼の帰宅を知らせる早馬の使いが来てから数十分、玄関ホールで待ちわびていたわたしは思わず彼に飛びついてしまった。

 長旅でちょっとくたびれた近衛騎士の制服が、逆にかっこいい。もとはピシッとしていた騎士服が体に馴染んでいる様は、戦う男という印象が際立って、さらに男っぽく魅力的だった。

 久しぶりに見る渋面も、なんだかとても懐かしい。

「あ、ああ、ただいま。ミルドレッド、まだ汚いから離れなさい」
「大丈夫です!」

 太い首にぶら下がる勢いでしがみついてもびくともしない。
 筋肉質のたくましい肉体は頼もしくて、くっついているとすごく安心感があった。

「汗臭いだろう」

 クリストフは顔をそむけてわたしから距離を取ろうとするけれど、振り払ったりはしない。

 たぶん彼にとって、しつこくまとわりつくわたしは、じゃれつく子犬のようにうっとうしい存在だろう。それなのに拒絶するそぶりも見せない優しさに、つい調子に乗ってしまった。

「臭くなんかありません。大好きな匂いです」

 あごの下をくんくんとかぐと、なぜか彼の首筋が真っ赤になる。
 クリストフはため息をついて、かすれた声でつぶやいた。

「勘弁してくれ……」
「あっ、やっぱりご迷惑ですよね。ごめんなさい」

 わたし、やりすぎてしまったみたい。
 そうっと離れ、帰宅したばかりのクリストフに落ち込んだ気持ちを見せないように、にっこりと笑ってみせた。

「クリストフさま、夕食は湯浴みのあとにされますか?」
「……そうだな」
「お湯の準備はできております! では、のちほどまた食堂で」
「ああ」

 執事に先導されてクリストフが自室に戻っていく。

「……けなげだ……」

 小さな声でクリストフがなにか言っていたけれど、わたしはそれどころではない。

(失点を挽回するためにも、夕食を楽しんでいただかなくちゃ!)

 さきに食堂へ行って料理長やメイドと最終確認をしていたら、身綺麗にしたクリストフがやってきた。

 大人数でも余裕で使える長い食卓の端に、ふたりで向かい合わせに座ると、夕食が運ばれてくる。

 ほうれん草とベーコンのキッシュに、細かく刻んだ野菜を入れたクリームスープ。牛ヒレ肉のステーキと鶏むね肉の蒸し焼きには、野菜と果物をすりおろして作ったソースがかかっている。
 赤、黄、緑と彩りよく美しく盛りつけられた料理は、もちろん栄養バランスもばっちりだ。

 わたしの前にも同じ料理が並ぶけれど、量は彼の半分以下。あんなに食べたら、おなかが破裂してしまいそう。


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