白い結婚なんてお断りですわ! DT騎士団長様の秘密の執愛

月夜野繭

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押し倒させていただきます ①

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 クリストフが目をぱちくりとさせた。
 彼のそんな無防備な表情は、とても珍しい。

「媚薬?」
「ご存知ありませんか? 男性を強制的に、その気にさせるお薬だそうです」
「いや、それは知っているが、なぜきみがそんなものを持っているんだ」
「それは……」

 そう、媚薬。
 サイドテーブルの引き出しから出した小瓶の中身は、性的な興奮剤だ。

 少し前お姉さまに、新婚なのにセックスレスで困っていると相談したら、こっそりと譲ってくれた媚薬。彼に飲ませるためのその薬を、わたしは自分で飲んでしまったのだった。

 わたしはそこで、ようやくハッとした。

(もしかして、この動悸や息切れは、媚薬のせい!?)

 水で薄めてあるから、媚薬の量としてはごくわずかなはずだ。それなのに、効きすぎている。

 でも、急にこんなふうになった理由は、媚薬しか思い当たらない。ずっと健康優良児で薬を飲みなれていないわたしには、効き目が強く出すぎてしまったのだろうか。

 体がむずむずして落ち着かず、わたしはシーツの上で身じろいだ。

「ミルドレッド、どうしてこんなことをしたんだ」
「だって、わたくし」

 横たわったまま、クリストフの緑色の瞳をじっと見つめる。

「旦那さまに、抱いていただきたくて」
「……は?」

 クリストフがぽかんと口を開けたまま、動きを止めた。
 わたしは半泣きになりながら訴えた。

「クリストフさまに抱いていただきたいのです! わたくしみたいな子どもっぽい女はお嫌いですか? それとも政略結婚の相手になんか、魅力を感じないですか?」

 自分がなにを言っているのか、はっきりしない。心の中の言葉がだだ漏れになっているけれど、わたしには自覚がなかった。
 今はただ、体の内側でくすぶるこの熱を消してしてほしい。

「なにを言い出すんだ、ミルドレッド。俺が……どれだけ我慢してきたと思っている」
「え?」

 ベッドに横たわったわたしの上に、いつの間にかクリストフが覆いかぶさっていた。
 緑の瞳が、見たこともない強い光をたたえている。真上から見下ろされて、その鋭い視線に少しおじけづいた。

「クリストフさま?」
「知らなかったか? 媚薬など飲まなくても、俺はいつでもきみに欲情している」
「ええ?」

 クリストフが軽く腰を揺らす。そのとき、わたしの太ももに硬く強ばったものが当たっているのに気づいた。

「あの、これはその、もしかして?」

 結婚前に受けた夫婦の秘めごとについての教育で教わった。男性は性的に興奮すると、体の中心にある性器が硬くなるらしい。

「ああ、すまない」

 口では謝りながらも、クリストフは動かない。熱い木の棒のようなものが太ももに押しつけられたままだ。

「なんていうか、すごく大きいんですけど」

 不思議な感触だ。もぞもぞと太ももを動かしてみる。
 騎士として鍛えているクリストフは、やわな自分とは違って全身筋肉で硬いけれど、その部分はひときわ硬くしこっている。

(性的興奮? まさかわたしに?)

 信じられない。わたしは夫の目をのぞきこんで、こてりと首をかしげた。

「くっ、小悪魔め」

 その様子を見たクリストフが、また眉間にしわを寄せてうめいた。
 聞きなれない男のうめき声に、思わずビクッと震えてしまう。

 彼は表情をゆるめて苦笑した。

「こんな俺は怖いだろう」
「少しだけ。小悪魔って、わたくしのことですか?」

 とてもいい意味には思えない。ちょっと落ち込むけれど、媚薬の効果なのか、頭がさらにぼんやりしてくる。
 クリストフはわたしをじっと見下ろした。

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