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旦那さま、お覚悟ください ④
しおりを挟む「な、なんですか? クリストフさま、わたくしはあやしいことなど、なにもしておりませんわよ」
思い切り否定してみたけれど、かえってあやしかっただろうか。
無言の夫にただひたすら見つめられて、次第に顔だけでなく全身が熱くなってきた。
初恋の理由はほかにもあるけれど、もともとクリストフは好みの顔立ちなのだ。
(ううん、違う。自分だけではなく、たいがいの女性にとって彼は好ましいはずだわ)
わたしはなぜかふわふわとした気分になってきて、ぼんやりと思った。
(だって、こんなにかっこいいんだもの。ふふふ)
ひいき目がすぎるかな。
実際は、一部の大人しい女性から怖がられているのも知っている。
でも、王族を警護する近衛騎士団の団長として武芸に秀で、体格もいいクリストフは、よく見ると本当に素敵なのだ。
「ふぅ」
それにしても、暑い。
クリストフに見られている恥ずかしさだけではない。室温も上がっているような気がする。
わたしはクリストフに押さえられていないほうの手で、寝衣の胸もとを少し開けた。
いっそすべてを脱ぎ捨ててしまいたいほど、体が熱くなってきた。
「顔が赤い。大丈夫か?」
ベッドに腰かけたクリストフから額をさわられる。
大きな冷たい手が具合を確かめるように、頬や首にふれていった。
「あっ」
クリストフの手が耳をかすめたとき、背中にピリッと痺れが走った。
熱を帯びた体が、さらに発火したように熱い。
「なに、これ」
「ミルドレッド?」
心配そうな低い声に腰が砕けて、その場に座り込んでしまう。心臓がどきどきして苦しい。
ベッドから下りたクリストフに軽々と抱き上げられる。
「あんっ」
クリストフと密着した部分から、得体の知れない感覚が這いのぼってきた。寒気がするような、気持ちいいような妙な心地だ。
彼の体温が慕わしく、離れたくない。
わたしはクリストフにしがみつこうとしたけれど、すぐにベッドへと下ろされた。
「なんで、離れてしまうの?」
「ミルドレッド、なにを飲んだんだ? さっき水差しになにか入れただろう」
「わたくし、なにも、していません」
ふだんどおりに答えようと思っているのに、はぁはぁと息が上がる。声の震えをごまかすことができない。
クリストフは困ったように眉をひそめた。
「怒らないから、正直に言ってくれ。俺に害をなそうとしたのだとしても、別にいい。きみが心配なんだ」
「害なんて。わたくし、ただ……」
「ただ?」
次第に頭がもうろうとしてきて、わたしは考えることを放棄した。
もう、どうでもいい。
呆れられるのではないかという不安や、嫌われてしまうかもしれないという恐れがゆっくりと消えていく。
ただ、この体の熱をなんとかしてほしい。
「わたくし、お水に……媚薬を混ぜただけなんです」
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