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旦那さま、お覚悟ください ②
しおりを挟む体格差だけではない。
わたしはエリクソン公爵家の末娘ミルドレッド、母譲りのふわふわした長い金髪に青い瞳の十八歳。結婚したばかりの夫、クリストフ・ラーシェンはイズニール王国近衛騎士団の団長で、先日三十歳になった。
そう、わたしたちには十二歳という年の差もある。
おまけにわたしは年齢よりも若く見えるらしく、ふたりで外出すると親子に間違われることもあって、自分の童顔にうんざりしている。
それでも、最初はわたしも、初恋の人と結婚できて幸せだったのだ。
だけど、盛大な結婚式からひと月、わたしたち夫婦はどうもうまく行っていなかった。
むくむくと湧き上がってきた不安を笑顔の奥に押しこめる。
(思い悩んでも仕方がないもの。行動あるのみ!)
そのために今夜の計画を練りに練ったのだ。
まず、クリストフの寝衣の袖をそっと引く。明後日の方向を向いている視線をこちらに向けさせなければ、どうしようもない。
今夜のわたしの寝衣は、いつもより気合が入っている。
透けそうで透けない薄手の生地に、繊細なレースの飾り。深い襟ぐりからは、体形のわりに豊かな胸がこぼれそうになっているはずだ。
髪もふだん寝るときはゆるい三つ編みにしているけど、今日は結ばずに下ろしている。ふんわりとウエーブのかかった金髪が肩に流れて、少しは大人っぽく見えるだろう……と思いたい。
「クリストフさま」
両腕を寄せて胸の谷間をさらに強調し、青い瞳を潤ませてクリストフを見上げる。すると、彼はわずかに目線を動かし、ちらりとわたしの胸を見た。
鋭角的な頬にうっすらと赤みが差す。
(もうひと息で行けるかも!?)
そしてたくましい胸にしなだれかかり、そっと目を閉じてみた。
お姉さまに教わった必殺技、〝キス待ち顔〟だ。彼女曰く、これでだいたいの男はメロメロになるらしい。
ただし姉はわたしと違って華やかな美女なので、わたしの〝キス待ち顔〟に同じ効果はない気もする。客観的に見て、子どもがじゃれているだけだったらどうしよう。
「ミルドレッド、そんな顔をするな」
腰に来るような低いセクシーな声は、少しかすれていた。もしかしたら、笑いをこらえているのかもしれない。
「おかしいですか?」
それでも、と思って待っていたら、「もう寝るぞ」と言って彼はさっさと布団にもぐり込んでしまった。
(はい? どうしてキスしてくれないの。夫婦って、とろけるような深い口づけをするものではないの!?)
心の中で絶叫するけれど、そんなはしたないことはやっぱり口に出せない。
幼く見えたとしても、母から「考えが足りない」とよく怒られるそそっかしい性格をしていても、わたしはイズニール王国を代表する公爵家の娘だ。
そして今は、この国で最強の騎士と誉れ高い近衛騎士団団長の妻なのだ。一応。
「えっと、あの」
しかし悩んでいる間に、すでに彼は寝息を立てはじめていた。
思わず大きく息を吐く。
「はぁぁぁー」
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