老化モノ短編集

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『理科室の異次元』

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「─ですので、下校時は十分に気をつけてください」
「特に、暗い道は1人で歩かないこと」
「それでは、集会は終わります」

学年集会が終わり、教室へと戻る途中。
周りからは、今回集会が開かれたきっかけ…「生徒の連続失踪」について話す声が聞こえてきた。
また失踪だって、という会話の後、話題は学年主任の話になったようだ。

「先生さ、なんか最近かわいくなったよねー」
「分かる、若いっていうかさ」
「52歳らしいけど全然見えないよね!」
1年の時、先生は普通におばさんだった。
確かに、ここ数ヶ月でかなり若く、かわいくなった気がする。

「サクラぁー、サクラってば」
背後から嫌な声がした。
またいつもの3人組だ。

「な、なに?」
「夜暇でしょ?肝試ししようよ」
振り向いた私の肩に腕をかけながら、ニヤニヤと話しかけてきた。
サナ、ココロ、ユウミ。
普段私をいじめている3人だ。

「わ、私怖い系のダメだから」
「そういうヤツがいるから盛り上がるんじゃーん」
「来なくてもいいけど、別に今からだって怖い目にはあわせられるんだからね?」
この3人は私に容赦がない。
断ると本当に酷い目にあうかも知れなかった。
渋々、私は肝試しに行くことを了承した。
盛り上がる3人を見ながら、私はため息をついた。


深夜2時、校門前にて─
「はーい、じゃあ皆集まった所で!」
「今回は七不思議の一つ『理科室の異次元』を検証しまーす!」

『理科室の異次元』。
…確か、こんな話だった。

大雨で一部生徒が学校から帰れなくなった。
盛り上がった彼らは肝試しとして夜中の学校を探検していたのだが、理科室を訪れた後、生徒が1人いなくなっていた。
その生徒はいくら探しても見つからなかった。
そして翌朝。
再び探していると、何事もなかったように消えた生徒が戻ってきた。
彼は、こう言ったらしい。
「皆が自分を置いていった」
「自分は一晩中理科室で震えていた」
その生徒に変わった様子はなかったが、
首元には身に覚えのない「傷」があったという。

「サクラ先頭ね」
絶対嫌だったが、やらないことには始まらない。
私たち一行は、3階にある理科室へ向かった。


道中は意外と心穏やかに行くことができた。
私以外の3人が遠足気分でおしゃべりしているおかげで、気がまぎれたからだ。
しかし、2階の階段を上がっている辺りから、急に口数が少なくなってきていた。

理科室前。
扉を開ける頃にはもう誰も話していなかった。

「ね、ねえ、ちゃんといるよね?」
誰も答えない。
理科室の中は暗く、1人では絶対入りたくなかった。

「返事して─」
後ろを見ると誰もいなかった。
急に恐怖心が高まる。
泣きそうになった所で、隣の部屋からガタンッという音がした。
ビックリした私は咄嗟に理科室に入る。
真っ暗な部屋の中、私は机の下で震えていた。

それから少しすると、3人の笑い声が聞こえてきた。

「ね、聞いた?ヒャーって、ヒャーって」
「悲鳴にしてもマヌケすぎるでしょ~」
「適当な机蹴っただけなのにねー」
あの音は彼女たちの仕業だったのか。
すごく怖かったのに。本当に悪趣味だ。

「大体さ、ビビリすぎなんだよね」
「七不思議なんて嘘に決まってんのに─」
「─その通りです。あんなのはただの噂ですよ」
不意に、誰かの声が聞こえた。

「え、え?…先生?」
「なにしてんの…巡回?」
「でもなんで電気もつけないで─」
プシュッという音の後、ドサッという重たい音がした。
なにか倒れた?なにがあったの?

「理科室の噂は嘘なんだけど…」
「あなたたちには別の体験をしてもらいましょうね」
私は恐怖で動けず、やがて意識が遠のいてきた。
怖すぎると失神するって、本当なんだ…


目を覚ますと、理科室の中にいた。
いつのまにか電気がつけられていて、
アタシたち3人は机に縛り付けられている。
さっきかけられたスプレーのせいか、頭が痛む。

「だ、大丈夫?」
「ねえサナ、ココロ…」
私が声をかけると、2人とも目を覚ました。
皆状況が分からず混乱している。
そこに、先生がやってきた。

「先生?これなんのつもりなの?」
「夜中にうろついてるのは悪かったけどやりすぎでしょ!」
「これ体罰なんじゃないの⁉︎」
アタシたち3人には答える気が無いらしい。
ニコニコと笑いながら、私たちの顔を眺めている。
まるで、品定めでもしているような…

「よし、決まりね!」
不意にそういうと、サラサラとメモに何かを書いている。
メモを終えた先生はサナの横に行き、罵るサナの鼻をいきなり掴んだ。

ぶっ、とサナの声がした。
そして先生が掴んだ鼻を引っ張ると…
サナの鼻は抜けてしまった。

「…え?」
鼻が抜けた?ジェンガみたいに。
サナが悲鳴をあげる。

「痛くないでしょ、泣かないの」
先生は平然としている。
そして、自分の鼻も抜いてしまった。
抜けた鼻の跡に、サナの鼻をあてがう。
すると、まるでパズルのピースをはめたように鼻がくっついてしまった。

「綺麗な鼻ね!前々から私に合いそうって思ってたの!」
泣き叫ぶサナの横で、鏡を見ながら喜んでいる。

「これ、もう使わないからあげるわ」
元・自分の鼻を、同じようにサナに嵌め込んだ。

「ちなみにこんな感じね」
鏡を見せられたサナは、自分の顔を確認して余計に泣いていた。
サナは鼻筋が通っていて、すごく綺麗な顔立ちだった。
それが今は、凄まじく違和感のある顔になっている。

「この鼻も形はいいんだけど…あなたの顔立ちには合わなかったみたい」
「ごめんねー、じゃ次」

メモを見た先生は、ココロに近づいていく。

「いやっ、嫌だ!…来ないで‼︎」
「あなたからは髪の毛ね」
目に涙を溜め、見たこともないほど震えている。
そんなココロの頭に手を当てると、カツラを取るように髪の毛を取り去ってしまった。

「嫌っ、私の髪!返してぇ!」
髪を取られたココロの頭はつるりとしている。
あんなに綺麗な髪だったのに。
ずっと羨ましかった、サラサラの髪。
それが今は…

「キャーッ!JKの髪すっごい綺麗!」
「髪綺麗なのも才能よね~」
「私は縮毛矯正しても綺麗になんなくって…」
先生はココロの髪を身につけて、ルンルンしている。
サラサラとした感触を楽しんでいるようだ。

返して、返して、と泣きながら呟いているココロとサナを見ていて、ふと気がついた。

次は、アタシの番…

「くちびる」
先生が手を伸ばしてくる。
顔を背けても逃れられない。
口を掴まれ、ペロっと剥がされてしまった。
不思議と、痛みは感じない。
でも、普段感じない、歯に当たる空気の感じがたまらなく不快だった。

先生もこちらを見ながら、自分のくちびるを剥がしている。
ニヤニヤと笑いながら。
見せつけるように、自分の物だったそれを床に落とす。
そうして歯が露わになった口元に、アタシのくちびるをつけてしまった。

「ああ…あ…」
拘束のせいで手を伸ばすこともできない。
アタシの自慢だったのに。
いつもツヤツヤで、プルプルで、彼氏にも褒められて…
…涙が出てきて、止まらなかった。

「じゃ…仕上げね」
そういうと、先生はサナにキスをした。
サナはしばらくもがいていたが、すぐ動かなくなってしまった。
サナの様子が変わっていく。
黒髪に白いものが混じっていく。
白い髪は次第に黒い髪を覆い、やがて真っ白になってしまった。
ツルツルの肌に、筋が浮かんできた。
筋は大きくなっていく。
肌がたるんでいき、深くなった筋はシワに変わった。
先生が口を離した時には、サナはおばあちゃんになっていた。

「そんな…どうして…どうしてこんな…」
「あなたたちは知らなくていいの」
「魚に調理法は理解できないでしょ?そういうことよ」
横に来た先生を見て、ココロが何か叫んでいる。
内容が分からない、ほとんど絶叫のような言葉。
だが、今はもう聞こえない。

「嫌だ…嫌だ」
「許してください…もういじめはしません!」
ココロから若さを吸い取り尽くした先生が、近づいてくる。

「先生のことも言いませんから!」
「アタシの代わりの子を連れてきますから‼︎」
「助けてサク─」
必死の命乞いは、先生のくちびるに塞がれた。


私が目を覚ました時には、すっかり朝になっていた。
時間を見ると、もう8時過ぎだ。
家に帰る時間はない。
急いで格好を整え、教室に入るとなにやら騒がしい。
緊急で学年集会だそうだ。

「昨日から、また3人の行方が分からなくなっています」
「皆さんも下校時は十分に気をつけてください…」
昨日、一緒にいた3人が失踪したらしい。
私を置いて帰ったんじゃないのか?
もしかして、異次元に迷い込んじゃったとか…?
戻っている途中、周りの会話が聞こえてきた。

「先生さ、なんかまたかわいくなってない?」
「うふふ、そんなことないですよ」
「えー、絶対変わったって!くちびるプルプルじゃん!」
「うわ~先生の髪めっちゃ綺麗~」
「使ってるシャンプーとか教えてよ~」…


2時間目は体育か。
面倒だな…。
着替えていると、隣の女子が話しかけてきた。

「あれ?どうしたのそれ?」
「首のところ、傷がついてるけど」



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