老化モノ短編集

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贖罪

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21xx年。
S県T市にある、1級犯罪者収容所。
ここが私の職場だ。
囚人は皆極刑の判決を受けた犯罪者で、私は刑務官として彼らの管理にあたっている。

ある日、新たに1人が送られてきた。
K-6号とされたその囚人は、私の記憶に一際強く残っている。

女性、26歳。
22歳から24歳にかけて、一方的に好意を持った男性を監禁。
彼女が強いた「同棲生活」は、極めて凄惨な終わりを迎えた。


彼女の第一印象は、「夢見がちな乙女」だった。
線が細く、小柄で、整った顔立ち。
道を踏み外さなければ、アイドルでもモデルでも活躍できただろう。

刑の執行を待つ身とは思えないほどに楽観的で、
我々刑務官に友達と接するかのように話しかけてくる。
最も、彼女の雑談にまともに取りあう刑務官などいなかったが…。


K-6号がここに来て数ヶ月が経った頃だった。
囚人達の自由時間が終わり、点呼を行なっていた私は、彼女の房を訪れた。

「K-6号、点呼だ。体調不良などないか」

彼女はニコニコと笑みを浮かべながら、私を見ていた。

「K-6号、聞こえているのか」

「…アタシね、アタシの顔けっこう可愛いと思うの」

「私の問いに答えなさい」

「だからねぇ、出来るだけ順番早い方が良いなぁ、若いうちが良いなぁ」

私の問いに答えることなく、彼女は語り続ける。
要約すると、若くて綺麗なうちに刑を受けたい、ということだった。

「…K-6号、これは親切で言うが」
「平穏にいきたいなら、余計な口は聞かず、早く眠りにつきなさい」
「…点呼は終了だ」

私はただ、それだけ告げて、次の点呼に向かった。


K-6号の刑は、収容から1年と2か月後に執行された。
執行当日になってもK-6号はいつもの調子を崩さなかった。
あの瞬間までは。

全ての手続きと儀礼を終えた彼女は、椅子に座らされ、拘束された。

「へー、こんな感じなんだぁ」
「これからどうするのー?」

「規則に従い、手順を聞きたいならば説明するが…」
刑の執行を担当する執行官は、そう答えた。

私は不安を抱いたが、
目を輝かせるK-6号の様子を静観する他なかった。

「これから全身麻酔の後、細胞活性作用を持つα酵素の抽出を行う」
「抽出に伴い、君の身体には急激な老化現象が発生する」
「最終的に、老衰により執行完了だ」

「…えっ」
K-6号の動揺は、離れて立っていた私にも見てとれた。

「あ…」
震える声で、何かを言いかけたK-6号の言葉は、麻酔がもたらす眠りに遮られた。


刑が開始された。
眠りについた彼女の体は、段々と老いていく。
若く、張りのある肌は枯れ木のように萎れ、顔には深く皺が刻まれていった。
誰にともなく誇っていた髪も、真っ白に染まってしまった。

「…13時19分2秒、執行完了」



某病院にて─
一人の老人が手術を終えた。
彼は既に90歳を超えており、
本来、手術に耐えられる肉体ではない。
しかし、ある医療技術が彼を救ったのだ。

『細胞再活性化医療』
特殊な酵素を投与することで、患者の細胞を活性化させる。
端的に言えば、患者は「若返る」のだ。
この若返りにより、病への対抗力を高めるなどの効果が得られる。

先程の老人も、今姿を見れば70歳程度の見た目と健康状態になっているはずだ。

今や『細胞再活性化医療』は手術だけでなく、
従来は治療が困難であった病にも効果を上げている。
多くの人命が救われる、画期的な治療法となったのだ。

この世界の大多数は知らない。
多くの人命を救った、魔法のごとき医療がどのように成り立っているのかを。

しかし、これを悪だとは思わない。
身勝手な理由で人を害した者たちが、
その身を以て人を救っているのだ。
これ以上ない贖罪の形だろう。

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