老化モノ短編集

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ドッキリ大成功

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1章

ザバン、と水をかける音が響く。

ドッキリ大成功~!
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ピロリン、という間の抜けた音がした。
今日の撮影も終わりだ。

「カナ、お疲れ~」
そう言いながら、サオリはタオルを差し出してきた。

「ありがとう」

「お疲れ様。片付けはやっとくから、カナはお風呂入ってきなよ」
アミが気を利かせてくれたので、私はお言葉に甘えることにした。

「早く戻ってきてね~」
サオリの声を聞きながら、私はバスルームへ向かった。


私たちは3人で動画配信をしている。
メイクや料理などいろいろやったが、
サオリ主導のドッキリ企画がバズってからドッキリがメインになった。
その時から、主導権もサオリが握っている。

最初期はドッキリもかわいい内容だったが、
段々過激になっている。
こないだは気づかずに昆虫食をさせられた。
それに比べたら、全身ズブ濡れはまだマシな方だろう。


私はシャワーを浴び、リビングに戻った。
水の片付けはあらかた終わっていて、
アミはスタッフさんと小道具を片付けている。
サオリはソファでスマホを眺めているようだ。

「戻りました」
私は声をかけて、アミを手伝う。
しかし、サオリは我関せずといった風だ。

「終わった?ご飯食べ行こうか」
片付けが終わった頃、サオリがそう言った。

近くのファミレスに入り、注文したあと私は切り出した。

「あのさ、ちょっと話があるんだけど」
アミと顔を見合わせて、思い切って提案してみる。

「ドッキリ動画さ、そろそろ離れてもいいんじゃないかな」

「…なんで?」
「もしかして、私の企画おもしろくない?」
サオリはまだ笑顔だが、不愉快さが滲み出ている。

「そうじゃないの」
アミが口を開く。
「でもさ、もう私たち結構再生数取れるし、もっと色々やってもいいと思うんだ」

「…今ので安定して伸びてんだから良いじゃん」

「…今のままじゃ、すぐ限界きちゃうよ」
「サオリも気付いてるでしょ?段々過激になってるって」
気圧され気味のアミに変わって、私が続けた。

「仕掛ける側のサオリはいいと思うけど、私たち怖いんだよ、これ以上いったらどんなことさせられるんだろうって」

サオリは怖いほど静かに話を聞いていた。
しばらく、沈黙が続いた。

「…あんた達おもしろい企画出したことある?ないよね?」
「過激なの見たいって皆が思ってるならそうするしかないじゃん、周りとおんなじことなんて出来ないんだしさぁ?」
「黙って私に従えよ、嫌ならおもしろい企画出してから発言しろよ」
サオリはそう言い捨てて、ファミレスを出て行ってしまった。


泣き出したアミを慰めながら、私は怒りを感じていた。
楽しくやっていた動画配信が、いつの間にかこんな苦しいものになってしまった。
何か、サオリが驚くような企画さえあれば…

その時、着信があった。マネージャーからだ。

「はい、カナです。…」

私は突然の知らせに唖然としていた。
アミが不安げに私を見つめている。
電話を切った私は、アミを連れて病院へと向かった。


「…サオリの容体はどうなんでしょうか」
私達は医師の説明を聞いていた。

「命に別状はありません。しかし、事故の際に頭を打ったようで、意識がない状態です。」
「幸い怪我の程度は軽いため、3日以内には目覚めるでしょう。しばらくは痛みで動けないかと思いますが…」

ファミレスを出たサオリは、その後交通事故にあったらしい。

「よかった…」
アミは安堵しているようだったが、
この瞬間も私は企画のことを考えていた。

サオリから主導権を奪えるような、『すごい企画』を考えているのだ。
しかし、私も動揺しているのでうまくまとまらない。
そんな時、近くの時計とカレンダーが見えた。

「…思いついた…」

「え、カナ、どうしたの…?」

「アミ、私、企画思いついたんだよぉ」
興奮のままに、私は大急ぎで段取りを始めた。



2章

なんだか騒がしく、目が覚めてしまった。
何かあったのだろうか。
やけに関節が軋む。体が痛くて動かしづらい…

「~えますか、聞こえますか」
白衣の男性がアタシに話しかけているようだ。

息が苦しい。一言二言話すのがやっとだ。
私はまた目を閉じた。

しばらくして、また周りの騒がしさで目を覚ます。
「サオリ、聞こえる?」
「大丈夫?私が分かる?」

カナとアミだろうか?
でもちょっと声が違うような…

アタシが目を開けると、おばあさんが2人立っている。
知らない人だが、ファンだろうか…?

「サオリ、私よ、カナよ」
「こっちはアミ、分かる?」

言っている意味が分からない。
アタシたちは全員25歳で、こんなおばあちゃんじゃない。

「何言ってるんですか…」

「…そうよね、分かんないよね…」
「でも、私たちなの…こんなおばあちゃんになったけど、カナとアミなの」

やばい人が来てしまった。
早く看護師さんを呼ばないと…

そこで、一瞬動きが止まった。
ナースコールを手に取ろうとした腕が、やけにしわしわだ。
何度も確認したが、アタシの腕で間違いない。
ちゃんと私の肩につながっている。
それに、この首は…頬の感触は…
一つ結びにされている髪を解き、確認してみる。
髪は白かった。
染めた覚えもない。もしかしてドッキリ?
寝てる間に勝手にブリーチしちゃうドッキリとか?
ほんとにおもしろくないっての…

「…サオリ、落ち着いて…」
「私の話を聞いて欲しいの…」

理解が追いつかない。
何が起こっているのかわからない…。

「今はね、2073年なの…」
「サオリは事故にあって、目が覚めるまでに、もう50年経っちゃったの…」
おばあちゃんはそう言って泣き出した。

壁のカレンダーには、 2073年 と書かれていた。


検査を受け、病室に戻されたアタシは、鏡を眺めていた。
そこには知らないおばあちゃんが写っている。
髪は真っ白で、顔の至る所に深いしわが刻まれている。
本当にこれがアタシなんだろうか?
いまだに受け入れることができない。

「まだ受け入れられないと思うけど、頑張っていこう」
「私たちも…できることはするから…」

カナ?がそう言って、いくつか差し入れを持ってきてくれた。
しかし、手をつける気にならなかった。


2日後。
なんとか状況を受け入れ始めた一方で、妙な気配を感じている。
なんとなくだが、いつも見られている気がするのだ。
看護のためのモニタリングではない。
まるでドッキリを仕掛けていたあの時のような感覚…。

それからは、検査中、待合室、差し入れ、あらゆるものに気を配り、違和感があるものを探しまわった。

数日後、確信を得たアタシはカナとアミを病室に呼んだ。

「ねえ、カナ、アミ」
「これってドッキリなんでしょ?」

アタシは単刀直入に聞いた。

「サオリ…」

2人はなんだかソワソワしているが、
返答を最後まで聞かずに畳み掛ける。

「あそこのカメラは何?」
「なんで待合室の人アタシと同じ機種のスマホ使ってんの?」
「全部ドッキリなんでしょ」

「……ドッキリだ…」

もうカナの企画には付き合っていられない。
無視して、私は叫んだ。

「ドッキリ大成功!」

もうふざけた生活ともサヨナラできる。
こんな特殊メイクまで用意しやがって、
ほんとに寿命が縮むかと思ったんだからな。
次のドッキリ企画は絶対カナをターゲットにしてやる。
心臓が止まるほど過激なのを仕掛けてやる…。
そう思いながら、アタシは勢いよくマスクを剥がした。

「…え?…血?」
私が爪をかけた部分から血が出ている。

「なんで血が出るの…?」
「これ、ただのマスクでしょ…?」
「剥がしたらいつものアタシの顔があるはず…」

血が止まらない。
これは、本当にアタシの顔だったの…?
若くて美人な自分はとっくに消え去って、
白髪でしわくちゃのおばあちゃんが今の「本当」なの…?

手足が震えて、立っていられない。
カナが看護師を呼びに走って行く音がした。
本当におばあちゃんになっちゃったんだ…
本当に…
本当に…



エピローグ

「…あんなことになるとは思ってなかったなあ」

動画を編集しながら、私はつぶやいた。
あの後、サオリはすぐに止血などの処置を施された。
マスクを剥がそうとした時に力が入り過ぎてしまい、
本来の顔の部分に爪で傷をつけてしまったそうだ。
だが、そこで勘違いしたサオリは、
「おばあちゃんになった」という「筋書き」を「事実」として受け入れてしまったらしい。
今も病院にいるサオリは、25歳なのに髪は真っ白で顔はしわだらけになり、完全に「おばあちゃん」として生活している。

この撮影の後、アミは怖くなったらしく動画配信をやめてしまった。
今は私1人で、趣味程度に続けている。

「老人メイクまでしたけど、さすがにお蔵入りだな、これは」

作業を終えた私は、動画を保存してカーソルを「×」に合わせた。


【ドッキリ】寝てる間に50年経ってたら…?

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