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きいろい水仙
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「遊ぶ金…もう尽きてきちゃった」
美咲は呟く。
「もっと金あるカモ探さないと」
美咲は25歳だが、定職についていない。
その割に、華やかな見た目をしている。
ブランドの服、バッグ。
手入れの行き届いた美しい黒髪、ネイル。
彼女は若く、美しい。
整った顔立ち、スラリと長い手足。
それを使えば大金がすぐ手に入る。
しかし、良い方向に使っては儲けは少なくなる。
彼女にはそういう思い切りの良さもあった。
ある日、街を歩いていた美咲は青年とすれ違った。
彼は優しげに微笑みながら、美咲に話しかけてきた。
「お嬢さん、すみませんが、お時間ありますか?」
美咲は彼を見つめ、疑問に思いながらも興味を持った。
「それはどういうことですか?」
「私はあなたに報酬をお支払いします。
そのかわり…あなたにはこれから24時間、私と一緒に過ごしていただきたい。
いかがでしょう…。」
美咲は、彼の提示した報酬額に心を躍らせた。
普段の儲けなど子どものお駄賃。
そう言いたくなるような額である。
それがハンサムな男性と1日過ごせば…
美咲は二つ返事で彼の申し出を受け入れた。
美咲は持ち前の愛嬌を振り撒きながら青年と腕を組み、高級なホテルへと向かった。
ホテルに到着したあと、美咲は青年とソファーに座り、雑談を楽しんでいた。
会話しながら、青年の身体を観察する美咲。
彼の整った容姿と優しげな雰囲気は、この短い時間で美咲の心をガッチリと掴んでいた。
興奮と欲望のままに、美咲は彼の胸元を撫でながら彼を誘う。
「それで…これから何したいの?」
青年は微笑みながら美咲の美しい黒髪を撫でる。
「すごい楽しみを用意してるんだ。これはその前準備」
と彼女にキスをした。突然のキスに、美咲は歓喜と戸惑いが入り混じった感情に包まれる。
キスのあと、美咲は青年によってソファにゆったりと座りなおさせられた。
彼女は不満げな表情を浮かべつつも、徐々に体が熱くなっていくことに気付く。
熱が高まるにつれ、美咲は言いようのない快楽を感じ始めた。
「あ…な…何コレ…?」
快感は徐々に強まり、全身を包み込んでいく。
青年は穏やかな表情で美咲の悶える様を眺めている。
美咲は快楽に悶えながら、自分の体の異変に気付く。
彼女の肌はいつの間にかしわくちゃになっており、骨が浮き出てきた。
そして、自慢の黒いロングヘアは頭頂部の方から白く染まっていく。
「か…髪が…」
「私、今どうなって」
「でも…気持ちいい…なんで、怖い…」
「助けて…」
なおも身体を駆け巡る快楽は、彼女の抵抗を許さない。
喘ぐ声は次第にしわがれていき、荒い呼吸へと変わっていった。
彼女は想像を超えた恐怖と有り余る快感の中で気を失ってしまった。
しばらくして、美咲は目を覚ました。
先程までの出来事は何だったのか?
考えがまとまらないまま美咲は体を起こそうとした。
その時、彼女は身に覚えのないシワだらけの手足を見てしまった。
垂れ下がってきた長い白髪も。
よろよろと地面に膝をつき、必死で姿見の元へ向かう。
姿見には、自分が写っていなかった。
いや、そうだと認識できなかった。
真っ白な髪、しわやたるみが目立つ肌。
瞳はくすんでいる。
「なんで…私が映ってない…し、知らないババアが映ってる…」
「私はどこにいるの…」
現実を受け入れられない美咲。
しかし、鏡の中の老婆は、狼狽する自分と同じ動きをし続ける。
なぜか分からないが、自分は老婆になってしまった。
彼女は真っ白になったロングヘアを見つめながら、そう認めざるを得なかった。
「おや、目が覚めたね。」
「もう落ち着けたかな?」
後ろから声が聞こえ、美咲は振り向く。そこには穏やかに微笑む青年が座っていた。
「ねえ、なんなのよこれ…」
「どうして私、おばあちゃんに…」
美咲の言葉は、不意に遮られた。
青年が美咲を抱きしめたためであった。
青年は美咲の白くなった髪を手に取り、愛おしげに自分の頬に当てる。
「ああ…美しい…」
「素晴らしいよ…」
うわごとのように呟き、自分を抱きしめる青年に、美咲は恐怖を隠せなくなった。
「やめて…やめてよ…」
「ねえ…なんでこんな…」
困惑と恐怖が限界に達し、美咲の目からは涙が溢れる。
青年は美咲が泣き出したことに気づき、慌てて彼女から離れた。
「ごめんね、そうだよね、怖かったよね…」
「何も説明しなくてごめんね…」
青年は美咲の手を握り、優しく撫でながら彼女が泣き止むのを待った。
美咲が落ち着いたあと、青年は説明を始めた。
美咲の老化は、自分が起こしたもので間違いないこと。
彼は幼い頃から女性の老化に性的な興奮を覚える、いわゆる老化フェチであったこと。
そして最近、自分に特殊な力が宿っていると知ったこと。
それは自分以外の人間の肉体を自由自在に操ることができるというものだった。
彼はこの能力を使い、好みの女性を金で雇っては関係を持ち、フェティシズムを満たしていたそうだ。
「何その話…マンガじゃないんだから…」
「説明もせずそんなんされたら怖いって分かんないの?」
「変態」
青年の話を聞いた美咲は思わず彼を罵倒する。
青年は申し訳無さそうにそれを聞く。
「ごめんね…許されることじゃないのは分かってる」
「君が老いていく様子があまりにも魅惑的で…」
「…それにこんなおばあちゃんになっちゃって…私これからどうすれば良いのよ」
絶望のあまり、美咲はまた涙を抑えられなくなっていた。
青年は顔を覆って泣く美咲を愛おしげに抱きしめ、彼女に語りかけた。
「心配しないで。契約は24時間だけ」
「それが終わったら、ちゃんと元に戻すから」
それを聞いた美咲は思わず顔をあげた。
「え…戻れるの…?」
「そうさ、僕の能力は肉体年齢を操ること」
「老化だけでなく、若返りもできるんだ」
「怖がらせたお詫びもあるし、好きな年齢に戻させてもらうよ」
「報酬は…?」
「きちんと支払う」
美咲は青年の話を聞き、安堵のあまり泣きじゃくった。
青年は優しく背中を撫でながら、美咲が泣き止むのを待った。
泣き止んだ美咲に、青年は飲み物を渡した。
ようやく一息ついた美咲は、コップを洗う青年に声をかける。
「それで?これから何したいの?」
「元気出たみたいだね。良かった」
「まだムカついてるけど、戻れるならまあいいわよ…」
「ごめんごめん。それじゃ、準備するね」
青年はテキパキと部屋を片付け、何やら写真撮影の設備を準備し始めた。
美咲は困惑しながらも、その光景を見つめる。
「よし!準備完了。撮影会を始めるよ」
「撮影会?」
撮影セットの横には様々な可愛らしいコスチュームが置かれている。
「もしかして、私がそれ着るの?」
「そうだよ」
「やっぱあんた変態」
「若い私ならまだしも、こんなにしてから着せるなんて…」
「君は綺麗だから問題ないさ」
「それに~、報酬は払うんだから~」
美咲は困惑しながらも、報酬をちらつかされては逆らうことができない。
指示された服に着替え、撮影会が始まった。
着物や民族衣装、アニメキャラの衣装など、様々なコスチュームを着て撮影が繰り返される。普段の美しい自分ならまだしも、こんな老婆の姿でコスプレとは…
さすがに美咲も恥ずかしさを隠せなかった。
しかし、青年の方は純粋に撮影を楽しんでいるようだ。声かけは巧みで、褒め言葉も忘れない。美咲は次第に青年に乗せられていき、しばらく経った頃にはもうノリノリであった。
「いや~素晴らしかったなあ!」
「見てよこの写真…ずっと見てられるくらい綺麗だ」
「やめてよ恥ずかしい…」
「この写真の君なんてもう最高だよ!世界一美人なおばあちゃんだ」
「おばあちゃんって言うな!25歳だぞ私は」
「ははは、いつまでも美しいってことだよ」
青年の真っ直ぐな褒め言葉はまんざらでもない。
休憩を取った後、青年は美咲をご飯に連れ出した。
普段は自信に満ちて堂々と歩く美咲だが、この日は周りの目が気になって仕方がなかった。
老いのため杖をつきながら歩くのだが、慣れないし、すぐ息切れしてしまう。
しかも横には人目を惹く美男子がいるのだ。
これじゃ祖母と孫…
いや、一部はママ活だと邪推しているのではないだろうか?
その時、前方から来た不注意な若者とぶつかり、美咲はバランスを崩す。
若者は憎々しげに振り返ると、「ババアが」と吐き捨て立ち去った。
青年は彼女を優しく立たせたあと、
「ひどいやつだね。大丈夫?あとは任せて」
青年は無表情になり、少しその場を離れた。
が、すぐに戻ってきた。
何やらハンカチで手を拭っている。
「お待たせ。じゃあ行こうか」
青年はいきなり美咲をお姫様抱っこし、目的のレストランまで運んで行った。この光景は周囲の人々の視線を引き、美咲はますます恥ずかしさと照れ臭さを募らせる。
注文した料理が来ても、美咲はどこか上の空であった。
抱えられた時の温かさと安心感にばかり思いが巡り、味のことはわからなかった。
食事を楽しみ、帰宅した2人。
美咲と青年はソファに座って雑談を楽しんだ。その頃には、美咲は青年にすっかり心を許していた。
楽しく会話する中で、青年は問いかける。
「僕が聞くのもなんだけど…なんで美咲はこんな提案についてきてくれたの?」
美咲は笑いながら答える。
「別に大した理由じゃないよ。楽して金稼げるじゃん」
「私普段からパパ活とかやって金稼いでるんだよね、だから抵抗ないの」
「それにさ、上手くいってそうなヤツが裏でこんなことに手出してるって思うと面白いんだよね。
今までは会社の重役とか、家庭持ちのオッサンとかばっかだったけど」
「そっか~なるほどね」
青年は彼女の話を否定することなく、ただ聞いていた。
「あんたも私買ったんだから、なんかあるんでしょ?」
美咲は笑いながら青年に言った。
「さあ、どうだろうね…?」
おもむろに、青年は美咲の腰に手を回す。
「理由はどうあれ…君のことをもっと知りたいな」
美咲にとって、青年との行為は想像したこともない幸福であった。
若い体で得たことのないような愛を一心に受けながら、悦楽の海に溺れていく。
青年は絶えず愛を捧げ、美咲はそれを貪る。
青年は白髪に強い興奮を示し、しきりに触っていた。
今の美咲にとっては、その刺激すら耐えがたい快感であった。
何時間も愛し合う中で、美咲は青年との1日を何度も噛み締めていた。
気がつくと、美咲にとって青年はなくてならない存在になっていたのだ。
事が終わり、眠っていた美咲が気がつくと、青年は美咲の髪を愛おしげに撫でていた。
青年は美咲に「おはよう」と声をかけ、朝食を用意する。
美咲と青年は共に食事をし、残りの時間を談笑しながら過ごす。
しかし、内心では青年と離れたくない、と強く思うのだった。
契約の24時間が終わり、青年は別れの準備を始めた。
「美咲、ありがとう」
「とても楽しかった…」
彼は美咲に約束の報酬を手渡した。
「うん…」
美咲は何か言おうと思ったが、何も言葉が浮かんでこない。
「それじゃ、これで最後…」
「少し目をつぶってて」
青年は美咲にそう告げた。
美咲は指示通りに目をつぶる。
目を開けたら、自分は元の若く美しい姿に戻っていて、いつもの日常が帰ってくる。
でも…
「…ねえ…」
抑えられなくなり、目を開けて青年に呼びかける。
しかし、青年は既に姿を消していた。
「…」
ため息をつき、美咲は俯いた。
そして気がつく。
自分の肉体が年老いたままであることに。
「え…私の髪…白…」
「肌もシワシワ…」
「どうして…元に戻すって言ったじゃん…!」
美咲はパニックに陥り、息も絶え絶えになりながら青年を探し回った。
しかし、どこにもいない。
報酬が入ったバッグだけが残されていた。
「待ってよぉ…そんな…やだ…」
「私まだ25歳なの…すごく美人なんだから…」
「おばあちゃんなんかじゃないんだからぁ…」
絶望しきった美咲は、ヘナヘナと座り込んでしまうのだった。
─某所にて。
ある女性が、愉快そうに映像を眺めている。
その映像には、美咲の様子がリアルタイムで表示されていた。
「どうです、ご満足いただけました?」
彼女の元に青年が近づく。
「最高!最後の所なんて滑稽で仕方なかった」
女性は笑いながら返答した。
「それは良かったです」
彼は穏やかな笑みを浮かべ、女性を見た。
「しかし、中々のドSですね」
「不倫による離婚なら、普通に慰謝料を請求すれば良かったのでは?」
彼女は笑いながら答える。
「それも良いけどねー」
「…あの子若くて綺麗じゃない?金取ったって、またすぐ稼げちゃうの」
「それじゃダメージないじゃない。それで、あの子の武器を奪うことにしたのよ」
「なるほど、まあ僕は性癖を満たせるしウィンウィンですね」
彼はそう答え、女性の髪に触れる。
「年老いたあなたも…とてもお綺麗だと思いますよ?」
女性は軽く笑いながら、青年の手を除ける。
「あなたは魅力的だけど、私はまだ若さを楽しみたいの」
「ちゃんと戻しますって」
彼は笑いながら、女性から報酬を受け取り、立ち去った。
女性は映像に向き直り、座り込む老婆を楽しげに眺め続けた。
美咲は呟く。
「もっと金あるカモ探さないと」
美咲は25歳だが、定職についていない。
その割に、華やかな見た目をしている。
ブランドの服、バッグ。
手入れの行き届いた美しい黒髪、ネイル。
彼女は若く、美しい。
整った顔立ち、スラリと長い手足。
それを使えば大金がすぐ手に入る。
しかし、良い方向に使っては儲けは少なくなる。
彼女にはそういう思い切りの良さもあった。
ある日、街を歩いていた美咲は青年とすれ違った。
彼は優しげに微笑みながら、美咲に話しかけてきた。
「お嬢さん、すみませんが、お時間ありますか?」
美咲は彼を見つめ、疑問に思いながらも興味を持った。
「それはどういうことですか?」
「私はあなたに報酬をお支払いします。
そのかわり…あなたにはこれから24時間、私と一緒に過ごしていただきたい。
いかがでしょう…。」
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彼の整った容姿と優しげな雰囲気は、この短い時間で美咲の心をガッチリと掴んでいた。
興奮と欲望のままに、美咲は彼の胸元を撫でながら彼を誘う。
「それで…これから何したいの?」
青年は微笑みながら美咲の美しい黒髪を撫でる。
「すごい楽しみを用意してるんだ。これはその前準備」
と彼女にキスをした。突然のキスに、美咲は歓喜と戸惑いが入り混じった感情に包まれる。
キスのあと、美咲は青年によってソファにゆったりと座りなおさせられた。
彼女は不満げな表情を浮かべつつも、徐々に体が熱くなっていくことに気付く。
熱が高まるにつれ、美咲は言いようのない快楽を感じ始めた。
「あ…な…何コレ…?」
快感は徐々に強まり、全身を包み込んでいく。
青年は穏やかな表情で美咲の悶える様を眺めている。
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そして、自慢の黒いロングヘアは頭頂部の方から白く染まっていく。
「か…髪が…」
「私、今どうなって」
「でも…気持ちいい…なんで、怖い…」
「助けて…」
なおも身体を駆け巡る快楽は、彼女の抵抗を許さない。
喘ぐ声は次第にしわがれていき、荒い呼吸へと変わっていった。
彼女は想像を超えた恐怖と有り余る快感の中で気を失ってしまった。
しばらくして、美咲は目を覚ました。
先程までの出来事は何だったのか?
考えがまとまらないまま美咲は体を起こそうとした。
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垂れ下がってきた長い白髪も。
よろよろと地面に膝をつき、必死で姿見の元へ向かう。
姿見には、自分が写っていなかった。
いや、そうだと認識できなかった。
真っ白な髪、しわやたるみが目立つ肌。
瞳はくすんでいる。
「なんで…私が映ってない…し、知らないババアが映ってる…」
「私はどこにいるの…」
現実を受け入れられない美咲。
しかし、鏡の中の老婆は、狼狽する自分と同じ動きをし続ける。
なぜか分からないが、自分は老婆になってしまった。
彼女は真っ白になったロングヘアを見つめながら、そう認めざるを得なかった。
「おや、目が覚めたね。」
「もう落ち着けたかな?」
後ろから声が聞こえ、美咲は振り向く。そこには穏やかに微笑む青年が座っていた。
「ねえ、なんなのよこれ…」
「どうして私、おばあちゃんに…」
美咲の言葉は、不意に遮られた。
青年が美咲を抱きしめたためであった。
青年は美咲の白くなった髪を手に取り、愛おしげに自分の頬に当てる。
「ああ…美しい…」
「素晴らしいよ…」
うわごとのように呟き、自分を抱きしめる青年に、美咲は恐怖を隠せなくなった。
「やめて…やめてよ…」
「ねえ…なんでこんな…」
困惑と恐怖が限界に達し、美咲の目からは涙が溢れる。
青年は美咲が泣き出したことに気づき、慌てて彼女から離れた。
「ごめんね、そうだよね、怖かったよね…」
「何も説明しなくてごめんね…」
青年は美咲の手を握り、優しく撫でながら彼女が泣き止むのを待った。
美咲が落ち着いたあと、青年は説明を始めた。
美咲の老化は、自分が起こしたもので間違いないこと。
彼は幼い頃から女性の老化に性的な興奮を覚える、いわゆる老化フェチであったこと。
そして最近、自分に特殊な力が宿っていると知ったこと。
それは自分以外の人間の肉体を自由自在に操ることができるというものだった。
彼はこの能力を使い、好みの女性を金で雇っては関係を持ち、フェティシズムを満たしていたそうだ。
「何その話…マンガじゃないんだから…」
「説明もせずそんなんされたら怖いって分かんないの?」
「変態」
青年の話を聞いた美咲は思わず彼を罵倒する。
青年は申し訳無さそうにそれを聞く。
「ごめんね…許されることじゃないのは分かってる」
「君が老いていく様子があまりにも魅惑的で…」
「…それにこんなおばあちゃんになっちゃって…私これからどうすれば良いのよ」
絶望のあまり、美咲はまた涙を抑えられなくなっていた。
青年は顔を覆って泣く美咲を愛おしげに抱きしめ、彼女に語りかけた。
「心配しないで。契約は24時間だけ」
「それが終わったら、ちゃんと元に戻すから」
それを聞いた美咲は思わず顔をあげた。
「え…戻れるの…?」
「そうさ、僕の能力は肉体年齢を操ること」
「老化だけでなく、若返りもできるんだ」
「怖がらせたお詫びもあるし、好きな年齢に戻させてもらうよ」
「報酬は…?」
「きちんと支払う」
美咲は青年の話を聞き、安堵のあまり泣きじゃくった。
青年は優しく背中を撫でながら、美咲が泣き止むのを待った。
泣き止んだ美咲に、青年は飲み物を渡した。
ようやく一息ついた美咲は、コップを洗う青年に声をかける。
「それで?これから何したいの?」
「元気出たみたいだね。良かった」
「まだムカついてるけど、戻れるならまあいいわよ…」
「ごめんごめん。それじゃ、準備するね」
青年はテキパキと部屋を片付け、何やら写真撮影の設備を準備し始めた。
美咲は困惑しながらも、その光景を見つめる。
「よし!準備完了。撮影会を始めるよ」
「撮影会?」
撮影セットの横には様々な可愛らしいコスチュームが置かれている。
「もしかして、私がそれ着るの?」
「そうだよ」
「やっぱあんた変態」
「若い私ならまだしも、こんなにしてから着せるなんて…」
「君は綺麗だから問題ないさ」
「それに~、報酬は払うんだから~」
美咲は困惑しながらも、報酬をちらつかされては逆らうことができない。
指示された服に着替え、撮影会が始まった。
着物や民族衣装、アニメキャラの衣装など、様々なコスチュームを着て撮影が繰り返される。普段の美しい自分ならまだしも、こんな老婆の姿でコスプレとは…
さすがに美咲も恥ずかしさを隠せなかった。
しかし、青年の方は純粋に撮影を楽しんでいるようだ。声かけは巧みで、褒め言葉も忘れない。美咲は次第に青年に乗せられていき、しばらく経った頃にはもうノリノリであった。
「いや~素晴らしかったなあ!」
「見てよこの写真…ずっと見てられるくらい綺麗だ」
「やめてよ恥ずかしい…」
「この写真の君なんてもう最高だよ!世界一美人なおばあちゃんだ」
「おばあちゃんって言うな!25歳だぞ私は」
「ははは、いつまでも美しいってことだよ」
青年の真っ直ぐな褒め言葉はまんざらでもない。
休憩を取った後、青年は美咲をご飯に連れ出した。
普段は自信に満ちて堂々と歩く美咲だが、この日は周りの目が気になって仕方がなかった。
老いのため杖をつきながら歩くのだが、慣れないし、すぐ息切れしてしまう。
しかも横には人目を惹く美男子がいるのだ。
これじゃ祖母と孫…
いや、一部はママ活だと邪推しているのではないだろうか?
その時、前方から来た不注意な若者とぶつかり、美咲はバランスを崩す。
若者は憎々しげに振り返ると、「ババアが」と吐き捨て立ち去った。
青年は彼女を優しく立たせたあと、
「ひどいやつだね。大丈夫?あとは任せて」
青年は無表情になり、少しその場を離れた。
が、すぐに戻ってきた。
何やらハンカチで手を拭っている。
「お待たせ。じゃあ行こうか」
青年はいきなり美咲をお姫様抱っこし、目的のレストランまで運んで行った。この光景は周囲の人々の視線を引き、美咲はますます恥ずかしさと照れ臭さを募らせる。
注文した料理が来ても、美咲はどこか上の空であった。
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食事を楽しみ、帰宅した2人。
美咲と青年はソファに座って雑談を楽しんだ。その頃には、美咲は青年にすっかり心を許していた。
楽しく会話する中で、青年は問いかける。
「僕が聞くのもなんだけど…なんで美咲はこんな提案についてきてくれたの?」
美咲は笑いながら答える。
「別に大した理由じゃないよ。楽して金稼げるじゃん」
「私普段からパパ活とかやって金稼いでるんだよね、だから抵抗ないの」
「それにさ、上手くいってそうなヤツが裏でこんなことに手出してるって思うと面白いんだよね。
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「そっか~なるほどね」
青年は彼女の話を否定することなく、ただ聞いていた。
「あんたも私買ったんだから、なんかあるんでしょ?」
美咲は笑いながら青年に言った。
「さあ、どうだろうね…?」
おもむろに、青年は美咲の腰に手を回す。
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若い体で得たことのないような愛を一心に受けながら、悦楽の海に溺れていく。
青年は絶えず愛を捧げ、美咲はそれを貪る。
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何時間も愛し合う中で、美咲は青年との1日を何度も噛み締めていた。
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「美咲、ありがとう」
「とても楽しかった…」
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「うん…」
美咲は何か言おうと思ったが、何も言葉が浮かんでこない。
「それじゃ、これで最後…」
「少し目をつぶってて」
青年は美咲にそう告げた。
美咲は指示通りに目をつぶる。
目を開けたら、自分は元の若く美しい姿に戻っていて、いつもの日常が帰ってくる。
でも…
「…ねえ…」
抑えられなくなり、目を開けて青年に呼びかける。
しかし、青年は既に姿を消していた。
「…」
ため息をつき、美咲は俯いた。
そして気がつく。
自分の肉体が年老いたままであることに。
「え…私の髪…白…」
「肌もシワシワ…」
「どうして…元に戻すって言ったじゃん…!」
美咲はパニックに陥り、息も絶え絶えになりながら青年を探し回った。
しかし、どこにもいない。
報酬が入ったバッグだけが残されていた。
「待ってよぉ…そんな…やだ…」
「私まだ25歳なの…すごく美人なんだから…」
「おばあちゃんなんかじゃないんだからぁ…」
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─某所にて。
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「どうです、ご満足いただけました?」
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「それは良かったです」
彼は穏やかな笑みを浮かべ、女性を見た。
「しかし、中々のドSですね」
「不倫による離婚なら、普通に慰謝料を請求すれば良かったのでは?」
彼女は笑いながら答える。
「それも良いけどねー」
「…あの子若くて綺麗じゃない?金取ったって、またすぐ稼げちゃうの」
「それじゃダメージないじゃない。それで、あの子の武器を奪うことにしたのよ」
「なるほど、まあ僕は性癖を満たせるしウィンウィンですね」
彼はそう答え、女性の髪に触れる。
「年老いたあなたも…とてもお綺麗だと思いますよ?」
女性は軽く笑いながら、青年の手を除ける。
「あなたは魅力的だけど、私はまだ若さを楽しみたいの」
「ちゃんと戻しますって」
彼は笑いながら、女性から報酬を受け取り、立ち去った。
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