ヴァンパイアの騎士

くじら

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第1章 ヴァンパイアは騎士になる

ヴァンパイアについての伝承と実際

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 目を覚まして、まず…感じたのはーー……朝陽の眩しさだった。

 まだ、眠気の残る頭で昨夜の……まるで物語のような出来事を思い出しーー……無理矢理頭を覚醒させた。

 そんな風に俺が起きることを知っていたのか、ソイツはーー……俺のベッドの横にある椅子で器用にも、うたた寝をしていた。


 昨日の夜のことを、嫌でも思い出させる。今までに感じたことのない痛み…………そして、今までに出会ったことのないへの畏怖と出逢ったことへの高揚をーー……


 俺が起き上がる気配を敏感に感じたのか、ソイツは浅い眠りから意識を浮上させた。

「おはよう」

「……おはよう」


 ソイツが吸血鬼ヴァンパイアだと知っていからだろうか……?

 それとも、特有の纏う雰囲気の所為だろうか……?






 俺の心臓が早鐘を打ちはじめるーー……







「昨晩は、すまなかったな。血を吸い過ぎたようだ。」



 ソイツの声で沈みかけてた思考を、無理矢理浮かび上がらせる。


「いや…………別にいい。元はと言えば、俺が提案したのだから自業自得だ。俺こそ気を失ってすまなかった」


「別にお前が謝る必要はないぞ?寧ろ、あんな怪我をしていた俺が悪い。とはいえ、普通の人に負担をかけ過ぎたのは俺の失態だ。吸血鬼バケモノに快く血を差し出す者がいたのだと知って驚いたぞ?」


 お互いに謝罪をし合うという状況になり、変な感じだったが……礼を言われて悪い気はしない。



「別に、騎士として当然のことをしたまでだ。俺の自己満足によるところもあるから、変に気にしないでくれると助かる」


「ふーん…………まあ、どっちにしろサンキューな。おかげさまで今、生きているんだからさ。素直に感謝されとけって」




 ソイツが満面の笑みで俺を見る。いつまでも、鳴り止まない早鐘はーー……あるじの心情や状況などお構いなしに……俺を狂わせる。






「ところで、ずっと気になってたんだけど……お前の家に住んでるのってお前だけか?…………昨日、驚いたぞ?こんなデケぇ屋敷に使用人が1人もいなくてさーーお前を運ぶの大変だったんだぜ?」




 怪我人がーー……しかも、瀕死の状態にまでなるほどの大怪我をした人がーー……俺を寝室ここまで運んだらしい。




 悪いことをしてしまった。




 ソイツの血が足りず……青白いともとれるような白い肌、痩せこけた身体ーー……そう、本当に吸血鬼ヴァンパイアの身体を体現した身体を持つーー……ソイツに俺は寝室ここまで運ばせたらしい。




「すまなかったな。重かっただろう?」



「いや、血を貰えたばかりだったから。特に大変では、なかったぞ?…………あと、お前くらいの騎士なら……普通の体重なんじゃないか?それにお前はどちらかと言うと軽い方だと思うんだが……」




 なら……まだいいのか?



 ん?




 ちょっと待て!



 なんでコイツが俺の重さをそんなに知っているんだ!?



「……因みに、どうやって運んだんだ?」


「……??普通にひめだっ「っ!!全部は言わなくていい!!」……」


 マジか……俺、何やってんだ?人を助けようとして逆に助けられてるとか…………しかも、普通の人でも恥ずかしいような運ばれ方をーー……初対面の……しかも怪我人にされるなんてーー……


 ……絵面を想像したくない。


 1人で恥ずかしさに悶絶している俺をソイツは、不思議そうに見ていた。



「……??…あと、お前の服が俺の所為で血だらけになってしまってな。魔法で消しておいたぞ?」


 それを言われて、やっと自分が昨夜と同じ服を着ていたことを知った。


 ん?

 ーーってことは、だ!!!!


「あのさーー……俺を魔法で運ぶことって出来たんじゃないか?」

 ソイツの言葉を聞いて思い至ったことに、嫌な答えを思いつきながらも質問した。



 それを聞いたソイツは、一瞬驚いたあとーー……納得したような表情かおをして、



「あ、そういう方法もあったな」


と俺の大方、予想通りに答えた。



 俺は…ソイツの言葉に項垂れながらも念のため、を話しておく。


「…………もし、次があったらーー……魔法で運んでくれないか」


「……りょーかい!なんか、スマンな。思い付かなくて。」

「いや、もういい……過ぎたことだ。」

 若干、自分にも言い聞かせながら言う。


「お詫びと言っては、なんだがーー……質問があったら答えるぞ?……命の恩人には、質問する権利があると思うしな!!……世にも珍しい吸血鬼ヴァンパイアに何か聞きたいことはあるか?」


 ソイツの少しおちゃらけたような声に、内心で笑いながらも質問を考える。

 そして、俺は頭に真っ先に思い浮かんだ質問を投げかけた。











「お前……大丈夫なのか?」



「??何が?」



「……太陽の光を浴びて」




 俺があまりにも神妙な顔で聞くからか……将又はたまたーー……予想していなかった質問だったからか……ソイツは俺の質問を聞くと一瞬、言葉に詰まりーー…………そして、声をあげて笑った。













 状況が読み込めず、呆然とする俺を見てやっと我に返ったのか………なんとか、笑うのをやめるとーー……若干、しゃっくりをしているがーー……やっと、答えられるようになったらしい。



「はーーっ……わー面白いなーお前ww」

「……そうか?」

 騎士団のメンバーや家族には、つまらない奴だとかなりの頻度で言われているんだが…………コイツは普通の人と感性が異なっているのだろうか?



「いやー……充分、面白いって!!!!」

「……俺には身に覚えがない」

「言うなら、そういうところだぜ?お前、周囲に頭が固いとか真面目な奴とか言われてるんだろう?」


 どこか確信めいた 表情かおでソイツは俺に告げた。なまじ、事実であるため反論が出来ん。


「…………」

「……そういうところだな。真面目だって言われるところ。お前ってさーーあれだろ?頭が良くて、色々気遣いが出来る分……不利益を被ることも多くてーー……騎士団でも、損な役回りをする奴だろ?………うーーん……副団長か……隊長あたりの役職かな?俺が上司だったらそうするわな」


 なんで、そんなに知っているんだ!?


 ……と思ってしまうほど、ソイツの推測はーー……俺に当てはまっていた。


「まあ、そんだけの信頼もあるんだろうけどな。本人としては……いつも、周りに振り回されて辟易へきえきしている感じか?」


 なんで俺の心の内側を見てきたかのように言うんだ?なんでそんなに知っているのか、疑問に思ってしまう。


「あーー……これは、俺のクセみたいなもんだから気にしなくていいぞ?吸血鬼ヴァンパイアによる能力とかではないから」

「?……違うのか??」

「素直な奴だなぁ……アンタ。まあ、さっきの答えにもなるけど伝承の奴と俺は結構違うからな??ってかそんなに昼間に動けないとか不便過ぎるわ。だから、太陽の光は別ににはならねぇよ。他の吸血鬼ヴァンパイアは知らねえけどな。」

「……じゃあ、伝承みたいな奴は存在するかもしれないがーー……お前には当てはまらないということか?」

「そーそー。理解が早くて助かるよ。あとなーー……さっきの心を読むみたいなモノは、長年生きてきて磨かれたモノだな。読心術って言うんだけど、普通の人間でさえ…会得することが出来る簡単なシロモノだな。多分、アンタも習えば出来るぜ?あとは、経験とカンだな」


「お前は、それだけの経験をしてきたーー……長いときを生きてきたーー……ということか?」

「あーー……そーそー。そんな感じ。多分どこぞの騎士団長や王様よりは、確実に長生きしてるネ。ずっとヒマでさー、色んな国を旅してたからさー知り合い多いんだわ…オレ。あーー商人みたいなこともやったしなー騎士や傭兵みたいなこともしたなー……」




 その言葉に一つの疑問が俺の頭をよぎったーー……



「なあ…もう一つ質問していいか?」

「ん?……いいぞーー♪」


「なら、?」







 俺の言葉に先程までのソイツの雰囲気は消え、底冷えするような冷たい雰囲気が俺らのいる寝室を満たした。
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