ようこそ、ミステリーツアーへ

田中 慈

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最終章 その後

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 蔵持は必死に帰らせてくれと頼んだ。

 「ええい、やかましい!罪を認めずに言い訳ばかりするのなら、しゃべることができないようにしてやる。」
そう言うと、鬼へと豹変した鬼は鋭い爪で蔵持の口を切りつけた。
「痛い!何をする気だ!」
蔵持の口元から血が滲み出た。

 鬼は虎色のズボンからヘドロのような泥水の入った小瓶を取り出した。
そして、蔵持の口の中へその泥水を流し込み始めた。
それは猛毒であった。
口の中へ含んだ途端に燃えるように熱くなり、舌はみるみる赤黒くはれ上がってしまった。
「うう。痛い。苦しい。僕が悪かった。もう勘弁してくれ。」
虫の鳴くような声で訴えた。
「この世で誰かを傷つけたならば、必ずその報いを受けねばならぬ。おまえはその報いを受けるために地獄ここへやって来たのだ。もう抜け出すことはできないと思え。」
鬼は容赦なくそう言った。

 炎で包まれている男の口の中で、今度は無数の黒虫が湧きはじめた。
黒虫たちが焼けただれた口を食いちぎる。
蔵持はあまりの痛さにもはや動物のように吠え続けるしかできなかった。
その苦しみに想像を絶するものであった。

 「旅の余興はこれくらいでよかろう。これからが本当の地獄めぐりだ。」
鬼はそう冷たく言い放った。
蔵持は現世で犯した罪が、どれほど重いことなのかということにようやく気づいた。
それと同時に男の目から次から次へと涙がこぼれ落ちた。

 ちょうどそのころ、蔵持の豪邸ではかつてないほどの大騒ぎとなっていた。
それもそのはず、主人である蔵持が待てど暮らせどいつまで経っても帰ってこなせいだ。
旅の途中で事故に巻き込まれたのか。それとも急病でどこかの病院に入院しているか。
いやいや、それなら警察や病院から何らかの連絡がくるに違いない。
もしかしたら、誰かに連れ去られたのだろうか。
これまでの蔵持の行いをみる限り、恨みをもつ人間は少なくないはずだ。
何者かに命を狙われているのではないだろうか。
様々な憶測が飛び交ったが、確証はなく結局はどれも噂に過ぎなかった。

 ただごとではない非常事態に、小間使いたちの心中も穏やかではない。
心配になった一番古株の小間使いが、蔵持を行方をたずねようとあの旅行店へと出かけていった。
しかし、不思議なことにいくら探し回っても旅行店など見つからない。
旅行店はあったであろうその場所には、一体のお地蔵さまが静かにぽつんと立っているだけであった。

今となっては、蔵持の行方を誰も知らない。
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