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第一章 奇妙な旅行店
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《業界初!いまだかつて誰も行ったことのない場所を旅してみませんか?詳しくは店内スタッフにお尋ねください。》
とある大豪邸のポストにこんな一枚のチラシが入っていた。
この大豪邸には大金持ちで有名な蔵持という男が住んでいた。
高級車や有名絵画をいくつも持っていて、大豪邸では何十人もの小間使いたちが往来していた。
その生活ぶりはどこかの王様や貴族のようであった。
蔵持はほしいものがあるとどんな手を使ってでも手に入れた。
この世で自分がまだ手に入れてないものなどないように思えるほどであった。
しかし、蔵持は今の生活にまだ満足できなかった。
まだ誰も手にしたことのない何かがほしいと思う気持ちが消えなかった。
丁度そんなとき、蔵持はこの不思議なうたい文句のチラシを手にした。
“誰も行ったことのない場所”とはどこだろうか。
蔵持は興味本位でこの旅行店へ出向いてみることにした。
この旅行店は、木造の古い建物で街路地の隙間に隠れるようにひっそりと建っていた。
店内は狭く、薄暗いうえに埃っぽい。
壁一面には古びた旅行チラシがいくつも貼ってあるが、聞いたこともない国の見たこともない景色ばかりであった。
脇に置かれている机には多くの書類や資料が山のように積み上げられおり、清潔感がまったくない。
本当にきちんと旅行店を営業しているのかさえも疑わしく感じられた。
「いらっしゃいませ。蔵持様、お待ちしておりました。」
奥のほうから旅行店の店主らしき人物が声をかけてきた。
眉は凛々しく、野球のベースのような角ばった頬。
スーツが今にも張り裂けそうなほどの筋肉質でがっちりとした大男であった。
「なぜワシの名前を知っている?」
まだ一言も話さないうちから、店主が自分の名前を言い当てたので、少し不信感を持った。
「商売人にとってお客様は神様ですから…名乗っていただかなくとも、どなた様かわかるものです。」
そう言いながら店主は丁寧にハンカチで額の汗をぬぐった。
いくらプロの商売人と言えども、名乗らずとも誰が言い当てることなど出来るものなのかと蔵持は疑問に思った。
「チラシはご覧いただけましたか?」
「もちろんだ。そうじゃなきゃ、こんな貧乏臭く狭い店に来るわけがないだろう。」
店主は蔵持を椅子にすわるように促し、コーヒーを入れた。
そして、書類棚の中から『蔵持様ご専用~旅のしおり~』と書かれた一枚の紙を取り出した。
それには、出発予定日時しか書かれていない。
「行き場所もなにも書かれてないじゃないか。さっさと教えろ。」
「それは行ってみてからのお楽しみですので、今は申し上げられません。しかし、当店ではお客様一人ひとりに合ったご旅行を毎回ご提案させていただいております。このプランはお客様のような方にぴったりですよ。きっとご満足いただけるはずです。」
店主は自信ありげに答えた。
蔵持はこの店主の言うことに半信半疑であった。
しかし、“誰も行ったことのない場所”というフレーズが気どうしてもになって仕方がない。
疑う気持ちはあったが、思い切ってこの旅行に参加してみることにした。
「蔵持様、ありがとうございます。ただし…このご旅行に関しまして一点だけ大切なお約束がございます。」
『旅のしおり』の中に【本旅行に関する最重要事項】として以下のことが書かれていた。
◎本旅行の参加につきまして、ご成約後の途中キャンセルは一切受け付けませんので、ご了承ください。キャンセルをご希望される可能性があるお客様は本旅行への参加はお控えいただくようお願い申し上げます。
「この旅行の参加条件はたった一つ。何があろうとも旅行途中で引き返すことだけはできません。これだけは決してお忘れのないように。」
店主はそう言ってにっこりと笑った。
やけに大きく太い糸切り歯がきらりと光った。
とある大豪邸のポストにこんな一枚のチラシが入っていた。
この大豪邸には大金持ちで有名な蔵持という男が住んでいた。
高級車や有名絵画をいくつも持っていて、大豪邸では何十人もの小間使いたちが往来していた。
その生活ぶりはどこかの王様や貴族のようであった。
蔵持はほしいものがあるとどんな手を使ってでも手に入れた。
この世で自分がまだ手に入れてないものなどないように思えるほどであった。
しかし、蔵持は今の生活にまだ満足できなかった。
まだ誰も手にしたことのない何かがほしいと思う気持ちが消えなかった。
丁度そんなとき、蔵持はこの不思議なうたい文句のチラシを手にした。
“誰も行ったことのない場所”とはどこだろうか。
蔵持は興味本位でこの旅行店へ出向いてみることにした。
この旅行店は、木造の古い建物で街路地の隙間に隠れるようにひっそりと建っていた。
店内は狭く、薄暗いうえに埃っぽい。
壁一面には古びた旅行チラシがいくつも貼ってあるが、聞いたこともない国の見たこともない景色ばかりであった。
脇に置かれている机には多くの書類や資料が山のように積み上げられおり、清潔感がまったくない。
本当にきちんと旅行店を営業しているのかさえも疑わしく感じられた。
「いらっしゃいませ。蔵持様、お待ちしておりました。」
奥のほうから旅行店の店主らしき人物が声をかけてきた。
眉は凛々しく、野球のベースのような角ばった頬。
スーツが今にも張り裂けそうなほどの筋肉質でがっちりとした大男であった。
「なぜワシの名前を知っている?」
まだ一言も話さないうちから、店主が自分の名前を言い当てたので、少し不信感を持った。
「商売人にとってお客様は神様ですから…名乗っていただかなくとも、どなた様かわかるものです。」
そう言いながら店主は丁寧にハンカチで額の汗をぬぐった。
いくらプロの商売人と言えども、名乗らずとも誰が言い当てることなど出来るものなのかと蔵持は疑問に思った。
「チラシはご覧いただけましたか?」
「もちろんだ。そうじゃなきゃ、こんな貧乏臭く狭い店に来るわけがないだろう。」
店主は蔵持を椅子にすわるように促し、コーヒーを入れた。
そして、書類棚の中から『蔵持様ご専用~旅のしおり~』と書かれた一枚の紙を取り出した。
それには、出発予定日時しか書かれていない。
「行き場所もなにも書かれてないじゃないか。さっさと教えろ。」
「それは行ってみてからのお楽しみですので、今は申し上げられません。しかし、当店ではお客様一人ひとりに合ったご旅行を毎回ご提案させていただいております。このプランはお客様のような方にぴったりですよ。きっとご満足いただけるはずです。」
店主は自信ありげに答えた。
蔵持はこの店主の言うことに半信半疑であった。
しかし、“誰も行ったことのない場所”というフレーズが気どうしてもになって仕方がない。
疑う気持ちはあったが、思い切ってこの旅行に参加してみることにした。
「蔵持様、ありがとうございます。ただし…このご旅行に関しまして一点だけ大切なお約束がございます。」
『旅のしおり』の中に【本旅行に関する最重要事項】として以下のことが書かれていた。
◎本旅行の参加につきまして、ご成約後の途中キャンセルは一切受け付けませんので、ご了承ください。キャンセルをご希望される可能性があるお客様は本旅行への参加はお控えいただくようお願い申し上げます。
「この旅行の参加条件はたった一つ。何があろうとも旅行途中で引き返すことだけはできません。これだけは決してお忘れのないように。」
店主はそう言ってにっこりと笑った。
やけに大きく太い糸切り歯がきらりと光った。
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