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十八話

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 「吐きそう」
真っ青な顔でイールビはすっかり高くなった太陽を見ていた。

「無理するからです」
ロッロも目の周りが赤く腫れていて、疲れた顔をしていた。

「誰のせいや」

「私ですね、ふふ」

「流石に寝る」

「そうしてください」

「膝」

「え…?」

「膝貸せ」

「はい…」

「どーせお前寝ないんだろ、膝貸せ」

「はい、見てますよ」

「キモ」

と、言いながらもイールビはゴロンと正座したロッロの膝に寝転んだ。

「どうせキモいですよ」

「ストーカーめ…」

「たまたま見ただけですから」

「口答え…する…な…」

「…イールビ様?」

「…」

「…寝ちゃった」

ロッロは登る太陽を眩しそうに見つめながら心の中で祈った。

《どうか…この時が…。

この先は、無くても構いません、

この幸せな時が…

ずっと、続きます、ように…》

………

蓄音機の音が途絶えた。
収録されている曲が全て終わったのだ。

ロッロは自分も眠っていた事に気がついた。

「あっ…」

今何時だろう、と、窓の外を見ると月がだいぶ低い位置にいた。まだ空は暗いが、もうじき夜明けだ。

黒猫の姿のイールビもロッロの発した小さな声でもぞもぞと目を覚ました。

《…ん…。しまった、かなり逝ってたわ》

夢を見ていたのだ。長い長い夢を。
それも昔の夢。
夢の中で人の姿で膝に寝転んでいたはずのイールビは黒猫の姿でロッロの膝の上で伸びをする。

《なんか懐かしい夢を見ていた》

「私もです。昔の…」

《はは。オーニーズとやらと戦ってたわ。その後結局分身は破られたんだったな。今でもちょいムカだな》

「あの時は封印の巻貝を破壊してもらうにはそれが一番でしたのでやむを得ませんね…」

…その後オーニーズ現れたのは3年後だった。
待ちくたびれた!ともはや忘れかけていたイールビだったが、その間に少しずつ気が向いては集めた神力をムヒコーウェルにそろそろ渡さなくてはいけない時期でもあった。

しかし、自分の労力を容易く渡したく無かった為、ムヒコーウェルに渡す前に破壊してしまおうという事になったのだった。

分身に封印の巻貝を持たせ、オーニーズにやられたふりをして破壊させる。ロッロはそれが上手くいくようサポートする役目を見事果たし、神力の手に入らなかったムヒコーウェルもオーニーズの手によって破れ、世界は平和になったのだった。
奪われた声も元に戻り、イヤザザ地区の皆も、オーニーズも、アッキ、タバス、スーザンヌも今は仲良く暮らしている。
イールビはイヤザザ地区より少し離れたこの屋敷で静かに暮らしていた。
そして毎晩のように、ロッロを呼ぶのだった。

《同じ夢を見るなんて、不気味だ。キモい、寒気がする。お前なんかと》

「もぅ…」

ロッロの膝から飛び降りた黒猫は黒い霧に包まれると、黒髪で牛の角の生えた黒ずくめの男へと変化する。

「はあ。お前の膝は寝心地わりーし。夢はキモいし。最悪だ。そういや、なんか話があるって言ってたな。こんな時間になっちまった。手短に話せよ」

ニコニコして罵倒を聞いていたロッロの表情が突然曇った。

「あ…」

「なんだよ」

「そうでした、私…イールビ様に…伝えなくてはいけない事が…」

「勿体ぶるな、早く言え」

もじもじと口を開かないロッロに、チッ、とイールビがと舌打ちをする。

「……私、」

「私、魔界に、帰ります」
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