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第1章 努力は一瞬の苦しみ、後悔は一生の苦しみ
暴れ馬アダマス
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天は澄み、大地は永遠と続いているかのようだ。
暖かく、朗らかな風が赤ん坊をあやすかのように吹き、俺の心を洗い流してくれる。
「俺の罪を浄化してくれているようだ」
なんとも臭いこと言ってしまっている。
こんなこと、誰もいないからできることであって、人前では恥ずかしくて死んでしまう。
こんなことをしても、俺が人を殺したことには変わりないのだがな。
なんとも虚しさだけが残った。
「・・・まあ、今日はせっかくお忍びでこうして来たんだ。のんびりするのも悪くない」
ウェルロッド領の首都から東の外れの方に行くと、あたり一面が小川と草原でできた広い土地がある。
ここは俺にとって癒しの場所となっている。
俺が幼いころーー今も、成人していない幼い少年ではあるがーーに屋敷を抜け出して冒険していた時に見つけた場所だ。
俺は、いつも何かやる気がなくなったり、いろんなことが嫌になった時はここにきて気持ちをリセットするようにしている。
自分のメンタル調整という意味を込めたちょっとした休息なのだ。
ここに来るのも一つの修行だと思って、ダッシュでここまで走ってきているわけだから、休みというよりも修行に近い。
「さてさて、昼飯にでもするか」
そう言って、俺は右手を前に出して魔術を行使する。
すると空中に穴が現れて欲しいものが勝手に外に出てくる。
取り出したものは鶏肉を大量に使ったサンドイッチだ。
「さて、いただきます」
前世からの習慣のせいか、今でも『いただきます』をしてしまう。
まあ、感謝を込めて食べるのでこの世界でのとか関係なくいいことだからやっている。
それに、なんとなくだが、その方が気持ちがいいのだ。
さて、ここで俺は魔術を使用したわけだが、この世界では魔術が存在する。
魔術にもいろんな種類があって、一般的には二種類存在する。
一つは何か触媒を使った魔術だ。
古いものだと魔法陣の上に生贄や供物となるものを置いてそれを媒介に何かを行使するもの。
新しいものだと、魔石と呼ばれるものを使って、魔道具として加工したものにして魔術を行使する。
これは結構一般的なもので、社会的にも流通しており、今のレーザー銃の部品の一つとして使われている。
しかも、魔石は天然のものだけではなく、人工でも生成することが可能となった。
おかげで、そこまで高価なものではない。
も一つの魔術として、自己の中にある魔力を使って魔術を行使するものだ。
これには個人差があって、魔力量が少ない人から魔力量の多い人までいる。
俺の場合、魔力量はそこそこ多い方だったらしい。
これは血統によるものらしいが、修行を積んでいくうちに魔力量が馬鹿みたいに増えていって、今では長時間の魔術行使が可能になった。
俺の魔力量の多さにはアイもびっくりしていた。
まあ、このご時世、魔術を極めるのにあまり意味はないとされている。
それはやっぱり科学技術の進歩によるものだ。
科学技術と言っても魔術と合わせたものになる全く次元の違うものだ。
この感覚は前世の時と同じだろう。
戦争で、剣術とかほぼ必要ないのと同じだ。
それでも俺はそれを極めていた。
古風だと言われているが、おかげで魔術を鍛えることでいろんなことが個人でできるようになった。
それが、こうしたなんでも保存、保管できる魔術だ。
俺はこれを宝物庫と呼んでいる。
まあ、ほとんど大したものは入っていないのだが、今日はサンドイッチの入ったバスケットを入れていたのだ。
「本当、リリーは料理上手だな」
俺は空っぽだった胃にサンドイッチを流し込んでいく。
最近になっていろんな人と少しづつ話すようになった。
別に、大したことではないはずなのだが、みんなは感極まっていたな。
特にクロードなんて、なぜか涙まで流していた。
しかも、俺にしがみついて来て鬱陶しかった。
次から、クロードは注意人物だ。
リリーはいつも通り仕事をしてくれるから、本当に頼りになる。
今回もサンドイッチを作ってくれと内緒で頼んだらすごい勢いて作ってくれた。
しかも、俺の要望通り、タンパク質重視のサンドイッチだ。
出発の準備をしているところにリリーがやってきて、目を真っ赤にしているのに笑顔で手渡ししてくれた。
「とても美味しくできていると思います! いってらっしゃいませ!」
どうも、夜遅くまで作っていたらしい。
そこまでしなくてもよかったのにと思うが、彼女の仕事にケチをつけるのは良くないと思い、感謝の言葉だけ送ると鼻血を出しながら走っていった。
多分、彼女もどこか残念な要素を持っているのだろう。
そんな気がする。
昼食を食べ終わって紅茶を飲んでいると、遠方で何か群れ見たいのが見えた。
「何かいるのか?」
こんなところで地上を闊歩しているのは牛と馬くらいだが、どうもそんな感じではない。
俺は目に魔術を行使する。
『千里眼』と呼ぶようにしているこの魔術は魔力の量によってはどこまででも見ることができる。
俺はそれを使って群れを見た。
「馬、羊、牛が束になって何からか逃げてる」
俺はバスケットを宝物庫の中にしまうと足に魔力を流し込む。
すると常人では考えられないようなスピードで走り出した。
それは 走るというよりも地上スレスレを飛んでいるかのようにも見える。
俺は近くまで来た。
「おいおいなんだあれは」
そこには馬よりも一回り程大きな体格で、薄汚れているが純白の毛並みに黄金の立髪に煌びやかな鱗で覆われており、肉食獣のような馬のような頭に額には一角がある大きな生物がいた。
「おい! 大人しくしろ!!」
その大きな馬に手綱をつけてなんとかいうことを聞かせようとしている男がいた。
俺はその男の方を向いて言った。
「おーい。この大きな馬のような生き物はなんだ?」
男はビクッと驚いたように反応して俺の方を向いた。
「な、何って見たらわかるだろ? 馬だよ馬」
俺はもう一度良くみると馬ーーのようには見えない。
ーーこの男、何か隠しているな。
「なあ、俺には馬のようには見えないんだが」
「俺には馬のように見える」
男は頑なにこの生き物を馬と言う。
というか、一角はまだしも鱗で覆われているのに馬はないだろ。
「これはこの辺に生息しているものではないな」
男は俺のことを睨んできた。
「おい、坊主。あまり大人を揶揄うような真似はするなよ。痛い目に会いたくなかったらな」
おいおい。
とんでもんない逸材が目の前にいるではないか。
こんなありきたりで、臭いことを言うやつななかなかいない。
俺はニヤリとにやけてしまった。
「何笑ってんだ? 殺すぞ」
子供相手に大人気ない。
でも、嫌いじゃない。
「いえいえ、失礼しました。では、あなたはここで何をしていたのですか? まさか密猟者ではないですよね?」
男は頭に血管を浮かばせて腰に下げていた剣を俺の頭に下ろしてきた。
すると、俺が動くと同時にアイの子機が俺の前に出てきてバリアを張った。
バリッ
気持ちのいい弾き返す音がした。
「なに? こんなおもちゃを隠し持っていたのか」
男は何度も俺に向かって剣を振り下ろしてくる。
「死ね! 死んでしまえ!」
この男は間違いなく犯罪者だ。
だが、あまりにも小物だ。
俺は正直飽きた。
なんか、本物の小物を見てどうも幻滅してしまった。
ただ、殴ることしか脳がない阿呆に見えてきたのだ。
「アイ、もういい。俺がやる」
俺がそう言っても、アイはバリアを張るのをやめない。
『いえ、いけません。万が一旦那様の見に何かあれば大変でございます。現在、騎士団を送っておりますので暫しお待ちください』
俺はがっくしと肩を落とした。
騎士団が来てしまっては俺の楽しいピクニックが終わってしまう。
俺は咄嗟に考えた。
ーーこいつを消せば、俺は安全だと思って騎士団を引き返してくれるかもしれない。
ここに来る騎士団は俺専属の騎士団だ。
なんでも、護衛でいつでもそばに置いておかなければいけないらしい。
俺はそれが嫌いなので、あまりそばに置いていないのだが、こういう事態に陥ったときは飛んでやってくる。
遅くても3分ほどでやってくるだろう。
なんたる技術力だろうか。
俺は、すぐにこの男を消すことに決めた。
「もういいーー死ね」
俺は目に『千里眼』とは違う魔術を行使した。
すると、目の前の男の動きが止まった。
「仰せのままに」
男は自分が持っていた剣で首を掻っ切った。
この魔術は精神干渉系催眠の魔術で、人に向けてしてもいい魔術ではない。
普通の人は使えないが、俺くらい魔術を極めるとこういうことができるようになるらしい。
これはとあるアニメを真似して編み出した俺だけの魔術なのだ。
ただ、弱点もあって、あまり大勢を一気に催眠攻撃することができないところだろう。
アイから乱用しないように固く躾けられたため、俺が何か悪事ですることはない。
まあ、この男の場合犯罪者であることは間違いないので俺がやっても問題ないと・・・思われる。
と言うか、俺が領主なのだから俺直接手を下しても問題ない。
俺の一幕が終わると同時に騎士団が到着した。
「アレク様! ご無事でしょうか!」
騎士団長の男が俺の元に駆け寄ってきた。
やはりくるのが早すぎると思う。
まあ、優秀なのはいいことなので変なことは言わないが。
「この男の素性を調べろ」
俺はどうも、この男が持っていたこの生物のことが気になる。
俺の直感だが、俺はその直感を何よりも大事にするタイプの人間だ。
騎士団長が俺に敬礼をする。
「かしこまりました」
俺はそれだけ伝えると、その生物の前まで行く。
警戒しているのか、俺に対して威嚇するように唸っている。
「なあ、この生物がなんなのか知らないか?」
騎士団長はその生物をじっくり見てから俺に言った。
「申し訳ございません。私も、この生物がなんなのかわかりません・・・ただ、幻獣種の一種だと思われます」
「幻獣種?」
「はい。逸話でのみその存在が語られることがなかった生物です。現在ではドラゴンやユニコーン、ペガサスなどの逸話の生物は発見されています。この生物を見るに麒麟のようではありますが、麒麟は顔が龍と言われています。また、一角の角からユニコーンのようでもありますが、鱗のようなものに覆われているのでそれも違うと思います。強いて言うのであれば、麒麟かユニコーンの亜種ではないかと思われます」
なるほどな。
つまり、超レアな生物ということだろう。
ーー純粋に欲しい!
そうだ、いいことを思いついた。
「なあ、こいつ飼うわ」
俺がそんなことを言うと、ギョッとした顔をして騎士団長が俺の顔を見る。
「あ、あの。申し上げにくいのですが、幻獣種を飼い慣らすのは無理でございます」
「・・・なぜ?」
「幻獣種は人に懐かないのです。彼らは孤独を好み、愛した同種のもの意外は近づけないのです」
なんとつまらない話だろう。
俺はこの生物ーー馬を見た。
馬は一歩後ろに下がって俺を睨みつける。
馬は俺の方をみて、何か品定めするかのようにジロジロ見た。
「なんだ、俺を品定めしてんのか? どうだ、俺は」
俺がそういうと、馬は頭を上下に動かす。
そして、俺に頭を下げて擦り付けてきた。
「なんだ。俺に買われたいのかーーいいだろう。これからはお前は俺の馬だ」
俺は馬にそう言った。
馬は俺に寄り添うようにして答えた。
その光景を騎士団の人は驚いた様子で見ていた。
「な、なんということでしょう。私は奇跡でも見ているのでしょうか」
「き、騎士団長。我々の伯爵様はすごいお方かもしれません!」
「さすがアレク様です!」
皆、口々に感想を述べていた。
俺はこいつに名前をつけてやることにした。
「名前はなににするかな・・・お前とは長いこと共に過ごしそうな気がするからな、なによりも強くなってほしいからーー【アダマス】はどうだ? いや、お前はこれから【アダマス】だ」
【アダマス】は名前が気に入ってくれたのか頬を擦り合わせてきた。
俺は、アダマスの頭を優しく撫でているとアイの子機が俺の前に現れた。
『旦那様、緊急事態です。分家の5家全てがウェルロッド家に謀反しました。内乱の始まりです』
騎士団はざわめき出した。
俺はそれを聞いてニヤリとする。
「やっと動き出したか。皆、戻るぞ」
「「「「はッ!」」」
そして、俺は屋敷の方に戻った。
この時のアレクは40歳と言う若さだった。
そして、これがアレクにとっての初陣となるのであった。
暖かく、朗らかな風が赤ん坊をあやすかのように吹き、俺の心を洗い流してくれる。
「俺の罪を浄化してくれているようだ」
なんとも臭いこと言ってしまっている。
こんなこと、誰もいないからできることであって、人前では恥ずかしくて死んでしまう。
こんなことをしても、俺が人を殺したことには変わりないのだがな。
なんとも虚しさだけが残った。
「・・・まあ、今日はせっかくお忍びでこうして来たんだ。のんびりするのも悪くない」
ウェルロッド領の首都から東の外れの方に行くと、あたり一面が小川と草原でできた広い土地がある。
ここは俺にとって癒しの場所となっている。
俺が幼いころーー今も、成人していない幼い少年ではあるがーーに屋敷を抜け出して冒険していた時に見つけた場所だ。
俺は、いつも何かやる気がなくなったり、いろんなことが嫌になった時はここにきて気持ちをリセットするようにしている。
自分のメンタル調整という意味を込めたちょっとした休息なのだ。
ここに来るのも一つの修行だと思って、ダッシュでここまで走ってきているわけだから、休みというよりも修行に近い。
「さてさて、昼飯にでもするか」
そう言って、俺は右手を前に出して魔術を行使する。
すると空中に穴が現れて欲しいものが勝手に外に出てくる。
取り出したものは鶏肉を大量に使ったサンドイッチだ。
「さて、いただきます」
前世からの習慣のせいか、今でも『いただきます』をしてしまう。
まあ、感謝を込めて食べるのでこの世界でのとか関係なくいいことだからやっている。
それに、なんとなくだが、その方が気持ちがいいのだ。
さて、ここで俺は魔術を使用したわけだが、この世界では魔術が存在する。
魔術にもいろんな種類があって、一般的には二種類存在する。
一つは何か触媒を使った魔術だ。
古いものだと魔法陣の上に生贄や供物となるものを置いてそれを媒介に何かを行使するもの。
新しいものだと、魔石と呼ばれるものを使って、魔道具として加工したものにして魔術を行使する。
これは結構一般的なもので、社会的にも流通しており、今のレーザー銃の部品の一つとして使われている。
しかも、魔石は天然のものだけではなく、人工でも生成することが可能となった。
おかげで、そこまで高価なものではない。
も一つの魔術として、自己の中にある魔力を使って魔術を行使するものだ。
これには個人差があって、魔力量が少ない人から魔力量の多い人までいる。
俺の場合、魔力量はそこそこ多い方だったらしい。
これは血統によるものらしいが、修行を積んでいくうちに魔力量が馬鹿みたいに増えていって、今では長時間の魔術行使が可能になった。
俺の魔力量の多さにはアイもびっくりしていた。
まあ、このご時世、魔術を極めるのにあまり意味はないとされている。
それはやっぱり科学技術の進歩によるものだ。
科学技術と言っても魔術と合わせたものになる全く次元の違うものだ。
この感覚は前世の時と同じだろう。
戦争で、剣術とかほぼ必要ないのと同じだ。
それでも俺はそれを極めていた。
古風だと言われているが、おかげで魔術を鍛えることでいろんなことが個人でできるようになった。
それが、こうしたなんでも保存、保管できる魔術だ。
俺はこれを宝物庫と呼んでいる。
まあ、ほとんど大したものは入っていないのだが、今日はサンドイッチの入ったバスケットを入れていたのだ。
「本当、リリーは料理上手だな」
俺は空っぽだった胃にサンドイッチを流し込んでいく。
最近になっていろんな人と少しづつ話すようになった。
別に、大したことではないはずなのだが、みんなは感極まっていたな。
特にクロードなんて、なぜか涙まで流していた。
しかも、俺にしがみついて来て鬱陶しかった。
次から、クロードは注意人物だ。
リリーはいつも通り仕事をしてくれるから、本当に頼りになる。
今回もサンドイッチを作ってくれと内緒で頼んだらすごい勢いて作ってくれた。
しかも、俺の要望通り、タンパク質重視のサンドイッチだ。
出発の準備をしているところにリリーがやってきて、目を真っ赤にしているのに笑顔で手渡ししてくれた。
「とても美味しくできていると思います! いってらっしゃいませ!」
どうも、夜遅くまで作っていたらしい。
そこまでしなくてもよかったのにと思うが、彼女の仕事にケチをつけるのは良くないと思い、感謝の言葉だけ送ると鼻血を出しながら走っていった。
多分、彼女もどこか残念な要素を持っているのだろう。
そんな気がする。
昼食を食べ終わって紅茶を飲んでいると、遠方で何か群れ見たいのが見えた。
「何かいるのか?」
こんなところで地上を闊歩しているのは牛と馬くらいだが、どうもそんな感じではない。
俺は目に魔術を行使する。
『千里眼』と呼ぶようにしているこの魔術は魔力の量によってはどこまででも見ることができる。
俺はそれを使って群れを見た。
「馬、羊、牛が束になって何からか逃げてる」
俺はバスケットを宝物庫の中にしまうと足に魔力を流し込む。
すると常人では考えられないようなスピードで走り出した。
それは 走るというよりも地上スレスレを飛んでいるかのようにも見える。
俺は近くまで来た。
「おいおいなんだあれは」
そこには馬よりも一回り程大きな体格で、薄汚れているが純白の毛並みに黄金の立髪に煌びやかな鱗で覆われており、肉食獣のような馬のような頭に額には一角がある大きな生物がいた。
「おい! 大人しくしろ!!」
その大きな馬に手綱をつけてなんとかいうことを聞かせようとしている男がいた。
俺はその男の方を向いて言った。
「おーい。この大きな馬のような生き物はなんだ?」
男はビクッと驚いたように反応して俺の方を向いた。
「な、何って見たらわかるだろ? 馬だよ馬」
俺はもう一度良くみると馬ーーのようには見えない。
ーーこの男、何か隠しているな。
「なあ、俺には馬のようには見えないんだが」
「俺には馬のように見える」
男は頑なにこの生き物を馬と言う。
というか、一角はまだしも鱗で覆われているのに馬はないだろ。
「これはこの辺に生息しているものではないな」
男は俺のことを睨んできた。
「おい、坊主。あまり大人を揶揄うような真似はするなよ。痛い目に会いたくなかったらな」
おいおい。
とんでもんない逸材が目の前にいるではないか。
こんなありきたりで、臭いことを言うやつななかなかいない。
俺はニヤリとにやけてしまった。
「何笑ってんだ? 殺すぞ」
子供相手に大人気ない。
でも、嫌いじゃない。
「いえいえ、失礼しました。では、あなたはここで何をしていたのですか? まさか密猟者ではないですよね?」
男は頭に血管を浮かばせて腰に下げていた剣を俺の頭に下ろしてきた。
すると、俺が動くと同時にアイの子機が俺の前に出てきてバリアを張った。
バリッ
気持ちのいい弾き返す音がした。
「なに? こんなおもちゃを隠し持っていたのか」
男は何度も俺に向かって剣を振り下ろしてくる。
「死ね! 死んでしまえ!」
この男は間違いなく犯罪者だ。
だが、あまりにも小物だ。
俺は正直飽きた。
なんか、本物の小物を見てどうも幻滅してしまった。
ただ、殴ることしか脳がない阿呆に見えてきたのだ。
「アイ、もういい。俺がやる」
俺がそう言っても、アイはバリアを張るのをやめない。
『いえ、いけません。万が一旦那様の見に何かあれば大変でございます。現在、騎士団を送っておりますので暫しお待ちください』
俺はがっくしと肩を落とした。
騎士団が来てしまっては俺の楽しいピクニックが終わってしまう。
俺は咄嗟に考えた。
ーーこいつを消せば、俺は安全だと思って騎士団を引き返してくれるかもしれない。
ここに来る騎士団は俺専属の騎士団だ。
なんでも、護衛でいつでもそばに置いておかなければいけないらしい。
俺はそれが嫌いなので、あまりそばに置いていないのだが、こういう事態に陥ったときは飛んでやってくる。
遅くても3分ほどでやってくるだろう。
なんたる技術力だろうか。
俺は、すぐにこの男を消すことに決めた。
「もういいーー死ね」
俺は目に『千里眼』とは違う魔術を行使した。
すると、目の前の男の動きが止まった。
「仰せのままに」
男は自分が持っていた剣で首を掻っ切った。
この魔術は精神干渉系催眠の魔術で、人に向けてしてもいい魔術ではない。
普通の人は使えないが、俺くらい魔術を極めるとこういうことができるようになるらしい。
これはとあるアニメを真似して編み出した俺だけの魔術なのだ。
ただ、弱点もあって、あまり大勢を一気に催眠攻撃することができないところだろう。
アイから乱用しないように固く躾けられたため、俺が何か悪事ですることはない。
まあ、この男の場合犯罪者であることは間違いないので俺がやっても問題ないと・・・思われる。
と言うか、俺が領主なのだから俺直接手を下しても問題ない。
俺の一幕が終わると同時に騎士団が到着した。
「アレク様! ご無事でしょうか!」
騎士団長の男が俺の元に駆け寄ってきた。
やはりくるのが早すぎると思う。
まあ、優秀なのはいいことなので変なことは言わないが。
「この男の素性を調べろ」
俺はどうも、この男が持っていたこの生物のことが気になる。
俺の直感だが、俺はその直感を何よりも大事にするタイプの人間だ。
騎士団長が俺に敬礼をする。
「かしこまりました」
俺はそれだけ伝えると、その生物の前まで行く。
警戒しているのか、俺に対して威嚇するように唸っている。
「なあ、この生物がなんなのか知らないか?」
騎士団長はその生物をじっくり見てから俺に言った。
「申し訳ございません。私も、この生物がなんなのかわかりません・・・ただ、幻獣種の一種だと思われます」
「幻獣種?」
「はい。逸話でのみその存在が語られることがなかった生物です。現在ではドラゴンやユニコーン、ペガサスなどの逸話の生物は発見されています。この生物を見るに麒麟のようではありますが、麒麟は顔が龍と言われています。また、一角の角からユニコーンのようでもありますが、鱗のようなものに覆われているのでそれも違うと思います。強いて言うのであれば、麒麟かユニコーンの亜種ではないかと思われます」
なるほどな。
つまり、超レアな生物ということだろう。
ーー純粋に欲しい!
そうだ、いいことを思いついた。
「なあ、こいつ飼うわ」
俺がそんなことを言うと、ギョッとした顔をして騎士団長が俺の顔を見る。
「あ、あの。申し上げにくいのですが、幻獣種を飼い慣らすのは無理でございます」
「・・・なぜ?」
「幻獣種は人に懐かないのです。彼らは孤独を好み、愛した同種のもの意外は近づけないのです」
なんとつまらない話だろう。
俺はこの生物ーー馬を見た。
馬は一歩後ろに下がって俺を睨みつける。
馬は俺の方をみて、何か品定めするかのようにジロジロ見た。
「なんだ、俺を品定めしてんのか? どうだ、俺は」
俺がそういうと、馬は頭を上下に動かす。
そして、俺に頭を下げて擦り付けてきた。
「なんだ。俺に買われたいのかーーいいだろう。これからはお前は俺の馬だ」
俺は馬にそう言った。
馬は俺に寄り添うようにして答えた。
その光景を騎士団の人は驚いた様子で見ていた。
「な、なんということでしょう。私は奇跡でも見ているのでしょうか」
「き、騎士団長。我々の伯爵様はすごいお方かもしれません!」
「さすがアレク様です!」
皆、口々に感想を述べていた。
俺はこいつに名前をつけてやることにした。
「名前はなににするかな・・・お前とは長いこと共に過ごしそうな気がするからな、なによりも強くなってほしいからーー【アダマス】はどうだ? いや、お前はこれから【アダマス】だ」
【アダマス】は名前が気に入ってくれたのか頬を擦り合わせてきた。
俺は、アダマスの頭を優しく撫でているとアイの子機が俺の前に現れた。
『旦那様、緊急事態です。分家の5家全てがウェルロッド家に謀反しました。内乱の始まりです』
騎士団はざわめき出した。
俺はそれを聞いてニヤリとする。
「やっと動き出したか。皆、戻るぞ」
「「「「はッ!」」」
そして、俺は屋敷の方に戻った。
この時のアレクは40歳と言う若さだった。
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