花影

貴方

「私にね、少しだけ話してくれたらよかったの。」そう言って君は僕の頬を優しくつまんだ。君から流れてくる涙の色は霞んで見えて僕には何も言い返すことができなかった。
　子供を殺した過去のある貴方のその秘密は決して口外しないように口止めされている。されど、私の関わる人間にまで文句を言う事になってくると、話が変わってくる。涙は枯れ果てた。私は毎日必死になって働いている。貴方はその秘密が口外され、自分に落ち度が露呈する事を怯えている。だから、誰のことも信じられなくて、毎日猜疑心の眼差しで、人のことを愚民と呼んで、私や周りの人たちの事を悪く、そして蔑（さげす）んでいる。私はいつか死ぬだろう。けれど、死ぬ迄にどうしても叶えたい夢があって、それは貴方の子供を産む事だ。私は、貴方のそばにずっと居るから、消えても悲しまないで欲しい。それだけを願っている。貴方は流産した事を、罪の意識を私に背負わせて、なじり罵倒した。だが、貴方からすれば、それは貴方の願いでもあったのだから、それを裏切った私は恨まれて当然かもしれない。貴方を愛している。私はいつも電話を切る時に、そう貴方に呼びかける。貴方はまたかよ、と半ば呆れがちに不貞腐れた様な面構えで、僕を誰だと思ってんだ？当たり前だろ？愛してるよ…（決まってるじゃないか）と言ってくれる。私はいつまで貴方の傍に居られるかな？いつか、わたしも命を終える。けれど、どうか貴方の書くなと言う幻聴に負けないで。貴方の障害は私が一番よく知っている。貴方は小説を書いている時が一番輝いている。それは、まるで自分の子供達の様な宝物の様に私には映っている。貴方の作品のfun第一号は、私です。貴方の作品の中で私は生きていると思うと胸が弾むぐらい、ときめいてしまう。貴方の瞳はいつもキラキラしていて、可愛い。子供の様な笑顔で私に優しく微笑む貴方は、私までも笑顔にする、素敵な天使だった。ありがとう、貴方のために生きていたい、愛してるよ。そう、君は僕にずっと、語りかけていた。そんな君だから、あと、二日後に誕生日を迎える君に贈るよ。

"今日は、直美の誕生日です。たんじょうびおめでとう、愛してるよ"そう添えて、君の大好きな尾崎豊の曲、『きっと忘れない』を唄うんだ。

愛してるよ、そう添えてね。