人生の行き先

Hanakappa!

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第十四話 結ばれた二人

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  私はまたばったりと倒れてしまった。
函館の市場にて、意識が朦朧として真っ直ぐに歩けなかった私を同じ班でもなかった優奈が助けてくれた。
まるであのときのように助けてくれたみたいだ。もし私が1人だったら何もできなかったはずなのに。
誰か隣に1人でもいるだけでこんなにも変わるなんて私は正直思わなかった。
死んでも返すことのできない大きな借りができてしまったから、私は勝手に死ぬなんてできない。
悠木先生が旅館まで運び、裕太に看病してもらい、無事一命を取りとめることができた。

  そして私旅館で目が覚めた。優奈が助けてくれた時にも目は覚めたが、旅館に来てすぐに眠ってしまったからだ。
「あれ?どうしたのみんな?」
「やっと目を覚ましたな。」
「よかった。」
「戻ってきた!」
「はは・・・。」

私は何が起こったのかがわからなかった。
頭をアスファルトに打ち付けて衝撃が大きすぎたせいで記憶が一部吹っ飛んだ。
前に私が意識がない時に何が起きたかというのは後から聞いたものだ。
私が唯一聞こえたのは優奈が私を背中に担いで駅まで一生懸命走るローファーの音だけだった。


裕太が何かを話そうともじもじしていた。
「あの、皆さんに伝えなければいけない話があります。」
「何ですか?」
「お父さん、もしかしてまた隠し事でもしてるんじゃないの?」
「違うよ。僕も昨日知ったばかりなんだ。」
「俺も聴いていいですか?」
「はい。由香里さんと優奈の担任なので聴いてもいいですよ。」

とんでもない空気になった。まるで好きなものが買えてウキウキしていたら偶然元カレに会ってしまった時の空気のようだ。

「昨日、僕は由香里さんの看病として、寝ている間ずっと横で起きて見ていたんです。そして由香里さんのブラウスのポケットから何かがはみ出ていました。」 
私は何のことかはさっぱりわからなかったが、ずっと横にいてくれたんだ。
「そして僕はその物をとって見てしまったんです。」
「裕太さん。中に何が入っていたんですか。」
先生が真剣に話に向き合ってくれているのが彼を見てすぐにわかる。私と優奈は何のことだかさっぱりわからず、珍紛漢紛だった。

「入っていたものは2枚のある写真でした。」

「え?」
一同困惑していた。
私はポケットに物を入れない主義の人なので、これが入っていることは知らなかった。きっと誰かが入れたのだろう。

「何でここに入っていたんですか?」
私は右胸にあったブラウスのポケットに指をさして言った。
「それはわからないです。」
「一体どんな写真だったんですか?」
私は疑問に思ったことがたくさんある。
前に言ったこともそうだし、私の写真なんてあんまりなかったはずなのになぜここにあったのかが引っかかってしまった。

「その2枚の写真というのは、一つは病院の病室で寝ている人の写真で、もう一つは2人の女性が赤ちゃんをお互いで抱き合っている写真でした。」

「ちょっと見せてくれない?」
優奈が言った。きっと何かが引っかかったのだろう。それともそのことに関して聞いたことがあるのかはわからない。

「いいけど」
僕は優奈に例の写真を渡した。
優奈たちはまず1枚目の写真をじっくりと見た。

「これ、お父さんの病院じゃん。」
「全然普通の話に見えてきたんだけど。まさか私を騙した?」
優奈は冗談気味で僕に言ってきた。
そうなると覚悟してはいたが、
「そんなことあるわけないじゃん」的な否定表現を言いそうな雰囲気ではあった。

「優奈、左下にネームプレートがあるでしょ。それが患者の名前だよ。」

間違い探し的に目を凝視してみると、こう書いてあったという。

「下村 優奈 5歳」と。

「何で私がいるの?」
優奈は冗談で現実的に起こるわけがないと思っていたが、驚きすぎて腰を抜かしてしまった。
「でも何で私が写ってる写真が由香里のところにあるの?」
「よくわからないの。私もこの写真初めてみるから。」
この写真を見ていた一同はみんな不思議に思っていた。

「問題はそこじゃないんだ。2枚目を見て欲しいんだ。」 
「2枚目?」
優奈は2枚目の写真を見せた。

「何これ?女の人がいる。」
「私にも見せて。」
「しかも2人か。」
「赤ちゃんも2人いる。」
よくわからなかった。この人は一体何が言いたかったのか。私は憤りを感じてしまった。私たちを騙して操ろうとしていると考えてしまったのだ。
「何が言いたかったんですか。裕太。くだらない話はやめてください!」
  テーブルに手で「バン!」と強く押しつけ、2枚の写真を床に投げ捨てたのだ。
「何するんだよ!由香里。」
「そうだよ。なんてことすんのよ。」
「私は何が言いたいのかわからない。赤の他人の写真見せられて話なんかできると思う!?」
「何よ!これは私がいるのよ!よく赤の他人なんて言えるわね!」
私と優奈は口喧嘩になってしまった。
雄太は止めようとするが手に負えなかった。

しかし、先生が私が投げ捨てた写真を拾おうとするとあることが書かれてあって、事が急転する。

床に桜のように舞い散って落ちていった写真を私たちは一秒も見ずに私たちはまだ喧嘩してた。
「あーもう2人ともやめてください!」
2人は胸ぐらを掴みまくった。

「おい!なんか書いてあるぞ!」

「最愛の娘 由香里の誕生!って書いてある。」

「え?なんで私の名前があるの?」
私はさらに困惑した。まさか優奈だけじゃなくて私の名前も刻まれていたとは思わなかった。

「由香里さん。落ち着いて。これから何があったかを話しますね。」
「わかりました。」

裕太は何があったのかという話を再開した。
「由香里さん。これはあなたのお母さんである由美さんがあなたを産んで一ヶ月の時に抱いて写真を撮った物なんです。」

なんでここにあるのかを知らなかった優奈はついに真実を知ってしまった。
「由香里。そういうことだったんだ。私わかったよ。」 
「由美さんと由香里の隣にいるの私だよ。」
「え?」
「実はね、聞いたことがあるんだ。私のお母さんが産んでくれた時の写真を見せてくれたの。そうしたらね、由美っていう女性と一緒に写真を撮ったって言ってたよ。」
「そうなんだ。私知らなかった。」

「それから、僕の妻は恵って言うんだけど、彼女には姉がいるんだ。けど、優奈を産んですぐに喧嘩して疎遠になってしまったらしいんだ。ちょっとした喧嘩が原因でね。しかし、今日電話で話してくれたんだけど妹の名前は由美であることを話してくれたよ。」
「私。ちょっとわからないです。お母さんが恵さんの妹ということは。」
「そうだよ。恵と由美さんは姉妹で、恵が産んだのが優奈で、由美が産んだのが由香里だったということは優奈と由香里は「従姉妹」って言うことなんだよ。」

「本当ですか。まさか優奈と・・・。」
私は衝撃の真実を聞いてしまったせいか、出る言葉が出なかった。
「ええ、本当です。」
「お母さん何も言ってくれなかったのに。まさかこんなことがあるなんて。私には大事な従姉妹がいたんだ。」
泣くことしかできなかった私と何故か笑っている優奈がいた。

「優奈、私たち従姉妹だったんだね。」
「私も知らなかったよ。聞いてはいたけど。」

「実は、恵は喧嘩して疎遠になった妹がいることを後悔していたんだ。喧嘩の発起人は恵にあったんだ。今まで話しは求められてもずっと断ってきたが、僕が説得してくれたら真実を話してくれたよ。本当に感謝してるよ。恵にはね。」

「まさかそんなことがあったなんて。色々とすみません。」
「何言ってるのよ。私たち従姉妹よ。もう敬語なんて使わないで。」
「わかったよ。」

「実はそれだけじゃないんだ。」
「何?他にもあるの?」
「ああ、そうなんだ。」
「私も優奈も知らないことなの?」
「いや、由香里は知ってるが、優奈は全く知らないと思う。」

「優奈。5歳の時に心臓移植の手術をしたのを覚えてる?」
「うん。」
「実はその心臓を提供してくれたのが由香里だったんだ。」
「え!嘘・・・・。」
「本当に?由香里ありがとう。でも私のせいであなたの妹が・・・。」
「ううん。いいの。全部忘れたわ。」
「だって私の心臓が由香里の中にあるんでしょ?私は救ったの。幼い優奈をね。」
「道理で私が眠っている写真を撮って今まで大切に保存していたのか。ということは親族の中にいたということなの?」
「うん。そうみたい。私はあの時遠い親戚が体調を崩して入院してるとしか聞かされてなかったから。私はまだあなたたちの存在を知らなかっだけど、お母さんはすごく警戒してたみたい。誰か嫌いな人がいるのかなって思ってたけど。これだったんだ。」

私は優奈の肩に両手を添えてこう言った。

「もう悲しまないで。私が5歳で優奈を救って、11歳で妹が私を救って死んでしまったけど、もしあの出来事がなかったら今こんなことがないと思うし、私達は出会わなかったかもしれないの。」
  あの時、一期一会で終わってたという可能性もあった。たしかに私はあの時私が全て悪いと思っていた。病室にいた私のポケットに家から持ち出していた小刀があったからそれで首切って自害しようと思ってたけど、妹の犠牲があったから私はここまで生きることができたことを優奈たちに話した。
「今までたくさんの出来事で苦しんで弱音を吐くかもしれないけど、これがあったから出会えたのよ。ありがとう。」

私は真摯に優奈の目を見ていた。
視線はまっすぐだった。
「由香里。ありがとう。私も嬉しいよ。手術で死ぬと思ってたけど、提供者があなただって知って生きる意味を改めて持てた気がするわ。」
「そして治療してくれてありがとう。裕太。」
「ええ、こちらこそ。まさか患者だったあなたが優奈の従姉妹だとは思えなかったよ。僕も今までこんなこと知らなかったけど、もっと早く知っていたらと思うと、なんだかわからなくなるよ。ごめんなさい!」

「いいんです。どうせ私は死ぬんだよ。」

悠木先生ももらい泣きをしていた。顔を熟したリンゴみたいな色をしていて、涙は滝のようにジョボジョボと流していた。

「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・。」
あまりにも多すぎる涙に手で抑えても溢れ出したままだ。服もびしょびしょである。20代のちゃんとした高校教師でさえも泣いてしまうのだ。
そして、2人に腕に担いで抱きついた。
まるでハグされたかのように。
「お前ら、大好きだーーーー!!」
泣きながら先生は言った。
「先生、セクハラです。」
「やめてください。」
「おい!少しはいいだろ!」
「なんでですか。」
「お父さんもいるし、よっぽどのことをしなきゃいいだろー?」
「いや、まさか2人が従姉妹だとは思わなかったなー。俺感動しちゃった。」
「たしかに2人とも似てる。」
 たしかにとても似ている。由香里は裸眼で生活をしていたが、優奈は眼鏡をかけていたため、とてもわかりにくかったという。

「由香里もう諦めようよ。」
「いいんじゃない。抱かれて終わろうよ。最初で最後かもしれないし。先生に抱かれるの。」
別に嫌ではなかった。
先生は若いし、対した体臭もないし、鍛えているので、ガタイが良くて筋肉もあった。まるで私たちを包み込んでくれるような感じだったからだ。先生の奥さんどんな人なんだろう。


「本当に良かったです。」
最終的に裕太も混ざり、4人で抱き合ったという。今まで、各々が苦労してきたことは全てこのためにあったんだのではないだろうかと思わせてくれるように。
大号泣だったが、私は嬉しかった。




 話していたら朝になってしまった。
日の出が山に差し掛かろうとしている。
3日目になったということだ。
最終日は学校に戻らないといけないから、今日しか優奈とみんなで楽しむことができない。

私は客室のベランダに1人。
朝のそよ風で夏の暑さを涼しんでいた。
鈴の音が鳴り響く街に帰りたい。そう思うようになった。けどそれは不可能だ。最長でも一週間だから、明日がその一週間の最後の日となるからだ。

私は今になって命が惜しい。
あれだけ死にたいって嫌な回数叫びまくってたのに。自傷行為もしたし自殺行為もしたことがある私にこんなことは起こり得なかった。
人が死ぬってこんなことだったんだ。

私が死ぬと周りの人がさらに強くなって人生を歩んでいく。そう考えたら死も嫌なことではない。いつか人は死ぬんだから。その時を待てばいいだけだ。
私は気持ちが楽になった。
私が戻ろうとしたらドアのノック音が聞こえた。優奈だった。
「由香里、時間だよ。行こう。」
「わかった。」
私は足早に荷物をまとめて観光地に出かける準備をした。
「優奈どうしたの。なんか今落ち込んでたよね。」
「ああ、私?なんかとんでもないこと知ってすぐにあんたがいなくなるなんて考えられなかった。なんか寂しくなってきちゃった。」
「そんなこと言わないでよ。私は必ず明日死ぬんだからさ、今日ぐらい楽しませてよ。ていうかここまで生きて来れたのも全て奇跡。優奈のおかげだよ。落ち込まないで。」 

私が人を慰めた。
いつもは優奈が私を嫌という程慰めていたのに。
事が逆転することもあるんだ。
私はあのことを考えなければいけない。
来世どうなっているかわからないからな。

「わかったよ。もう落ち込まない。」
「ならよかった。」
「よーし!函館行って海産物食べまくるぞー!」
「私、旭山動物園行きたい。」
「わかった。どっちも行こうよ。」

2人はいつのまにか笑ってた。
優しく微笑み、過去の私に完全に戻れた気がする。

  従姉妹は友達よりも結びつきが強いから、こんな事ができるのかわからないけど、人生のどん底に叩き落とされた私をここまで救ってくれた。私でさえも救う事ができるのなら、きっと私以外の人たちでも、出来るよね。


私は旅館をでて、雲ひとつない青空を見ていた。久しぶりの青空だ。
「由香里。青空見てると、また地獄に落ちちゃうよー。先行ってるわー。」
「ちょっと待ってよー。」

2人が仲良くしている裏では黒い影が潜んでいた。




第十五話に続く。










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