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1巻
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◇◇◇
夜会に向かう馬車の中で、ローザは僕をチラリとも見なかった。
いつもうんざりするくらい僕を見つめていた瞳は、外の景色に向けられ、楽しそうに輝いている。そんなローザとは対照的に、僕は気が滅入っていた。
今までの僕は、ローザにひどい仕打ちをしているなどと思っていなかった。
ただ『うっとうしく、つきまとってくる妻』にうんざりして、彼女を遠ざけることばかり考えていた。
その結果、ローザにひどい言葉を投げかけ、ひどい態度をとってきた。
しかもローザに同じことをされるまで、それをされた相手がどんな気持ちになるのか想像もしなかった。
夜会のパートナーである妻に向かって『会場以外ではエスコートしない』『君とダンスは踊らない』、そんなことを言う男がいるなんて信じられない。
その信じられない仕打ちを、妻にしてきたのが自分なのだ。
相変わらず僕を見ないローザの横顔は、凛として美しい。
先ほど、身支度を整えたローザが部屋から出てきたときは本当に驚いた。まるで月の女神が舞い降りたかのようだった。
僕の妻はこんなに美しい人だったのか。
ふと、僕はローザにはじめて出会ったときのことを思い出した。
あのころは、まだ父が健在だった。僕は父の命により、ペレジオ子爵家の令嬢ローザと婚約することになった。僕の父とローザの父が大きな事業を共同で行うことになり、両家の繋がりを深くするための、よくある政略結婚だった。
当時の僕は、女性にそれほど興味がなく、誰と結婚しても同じだと思っていた。
しかし、父に紹介されたローザを見た途端に、僕は自分でも驚くくらい簡単に恋に落ちた。
その日から、ローザのエメラルドのように輝く瞳や、艶やかなプラチナブロンド、薔薇のつぼみのように可憐な唇が脳裏に焼きつき、離れなくなった。
自分から女性を口説いた経験がなかったので、婚約者になったローザには思いつく限りの愛の言葉をささやいた。そして、仲の良い男友達に女性が喜びそうなものを聞いては、ローザにプレゼントを贈った。
僕からのアプローチに戸惑っていたローザに「僕たちは、政略結婚だからね」と、僕との結婚を拒否できないこともさりげなく伝えた。
このときばかりは、当人同士の気持ちが関係ない政略結婚だということに感謝した。だからこそ、結婚式のときに「君を一生、大切にするよ」とローザに伝えた。
それは、僕の本心であり、生涯の誓い……のはずだった。
ローザと結婚して一年目は夢のように楽しかった。
二年目に、父が馬車の事故で死亡した。急きょ父の後を継いだ僕は、ファルテール伯爵になった。
父の死は、あまりに急だった。僕は生まれてからずっと後継者として育てられてきたが、それでも伯爵としての責任と仕事に追われ、ローザと過ごす時間が減った。
でもローザは少しも文句を言わなかった。それどころか父の急な死を一緒に悲しんでくれて、僕を支えてくれた。
三年目、ローザに仕事を押しつけたことを都合よく忘れた僕は、前年はできなかった社交に力を入れた。久しぶりに会う友人たちとの会話は楽しかったし、一緒に新しく事業をはじめようということになり、外出する日が増えていった。
屋敷に戻るのが遅くなる日が続いた。そんな僕をローザはいつでも「お疲れ様」と笑顔で迎えてくれた。
はじめは嬉しかったその出迎えが、うっとうしく感じるようになったのは、いつからだろう?
ローザはいつでも僕と一緒にいることを望んだ。
たとえ具合が悪そうでも、目の下にクマができていても。僕と一緒に朝食をとることを望んでいたし、「先に寝てほしい」と言っても僕の帰りを待つことをやめなかった。
そんなローザの献身を、僕はいつからか頻繁に外出する僕への当てつけのように感じはじめた。
具合が悪そうな妻が僕の帰りを待っていると思うと、相手にするのが面倒で、さらに帰る時間が遅くなっていった。
今のローザの瞳から僕への熱が消えてしまったように、あのときの僕の瞳からも、ローザへの熱が消えてしまっていただろう。
それだけではなく、僕は伯爵夫人の仕事をひとりで満足にこなせず、社交をおろそかにする彼女を見下すようになっていた。
その気持ちがローザへの冷遇へ繋がった。
それが……僕の勘違いが原因だなんて思いもせず。
カーンカーンと、遠くで鐘が鳴る音が聞こえて僕の思考はさえぎられた。それは夜会会場への入場開始の合図だったが、僕には教会の鐘の音を思い起こさせた。
結婚式で交わした神聖な誓いの言葉が脳裏をよぎる。
病めるときも、健やかなるときも
喜びのときも、悲しみのときも
富めるときも、貧しきときも
妻として愛し敬い、慈しむことを誓いますか?
あのとき、はっきり「誓います」と言い切った僕は、三年も経たずしてその誓いを破った。
父が亡くなり僕が悲しみに暮れていたとき、ローザはずっとそばで支えてくれていた。
それなのに、僕はローザがつらいときに支えるどころか、あっさり手のひらを返した。
まるでお気に入りのおもちゃに飽きた子どもが、そのおもちゃを投げ捨てるように。
「……なにが『愛している』だ……。こんなに薄情な愛があってたまるか……」
思わず僕の口からもれた言葉はローザにも聞こえたはずなのに、彼女はなにも反応しなかった。
ローザはただ、ニコリと優しく微笑んで「デイヴィス、ついたわよ」と馬車が止まったことを教えてくれた。
◇◇◇
馬車が夜会の会場についた。その途端に、私たちは『お互いを思い合っているファルテール伯爵夫妻』を演じる。
馬車から先に降りたデイヴィスが私に左手を差し出した。親しそうに見えるよう、私がその手をとると、デイヴィスはなぜか泣きそうな笑みを浮かべる。
でも、もう『どうしたの?』とも『具合が悪いの?』とも思わない。
彼は私につきまとわれることを嫌がっている。彼を心配するのは私の役目ではない。
そのときふと、私たちに子どもができたら、デイヴィスは愛人をつくるかもしれないな、と思った。
いえ、もしかしたら、もうつくっていてもおかしくない。
どうして今までその可能性に思い至らなかったの?
デイヴィスの帰りが日に日に遅くなり、私の寝室に来なくなった時点で気がつくべきだった。
証拠はないけど、外に愛人がいると考えればこれまでのいろいろなことが腑に落ちる。
この国では、基本的に貴族同士の離婚は認められていない。けれど例外はある。
結婚して五年経っても妻との間に後継ぎが生まれなかった場合。夫は妻との離婚か、あるいは愛人をもつことが許されるのだ。もちろん妻と離婚して、その愛人を新たに妻とすることも可能だ。
私たちは、今年で結婚三年目になる。
あと二年と少しの間、私に子どもができなかったら、デイヴィスは誰からも批判を受けることなく愛人を迎え、正妻にできる。そして私を捨てることも。
私は隣を歩くデイヴィスを見上げた。
いつもは視線が合わないのに、今日に限ってなぜかデイヴィスは私の視線に気がつき、「どうしたの?」と尋ねてくる。
「……いえ」
「ローザ、顔色が悪いよ。大丈夫?」
『大丈夫?』と私を心配する言葉を、デイヴィスから久しぶりに聞いた気がする。
過去の私ならデイヴィスが優しくしてくれたと喜んだところだけど、今の私は特になにも感じなかった。
そんなことより、二年後に離婚を突きつけられる可能性が高いことのほうが問題だ。
私とデイヴィスは政略結婚なので、私たちが夫婦であるというだけで、両家にとって利益がある。
愛は盲目とはよく言ったもので、そうした政略結婚で得られる利益を捨ててでも、結婚後に『真実の愛』に目覚めた男女が愛人に走ることもないわけではない。
デイヴィスは、そこまで愚かではない。貴族の役割や、自身がファルテール伯爵であるということをよくわかっている。彼はバカな選択はしない。
でも五年目の離婚はバカな選択ではなく、伯爵家の血筋を残すための、貴族として正しい行動だ。
そうなってくると、今、私がしなければならないことは、たとえ離婚することになっても生きていけるようにデイヴィスから自立すること。
私が離縁されても、実家の両親や弟は温かく家に迎え入れてくれるだろう。でも、一度家から出た身でなにからなにまで実家の世話にはなりたくない。せめて、自分にかかる費用を自分で払えるくらいの財産はほしい。
そのためには、私がファルテール伯爵夫人である間に、できる限り権力者の奥様方と友好的な関係を築いておく必要がある。自分の名義で事業をはじめるのもいいかもしれない。
結婚当初の私なら、自分で事業をおこすなんて思いつきもしなかった。
でも、一年間、デイヴィスに重要な仕事を任されて必死に勉強したので、今の私ならできるかもしれないと前向きに考えることができる。
今日の夜会は王宮主催なので、人脈づくりには絶好の機会だ。
幸いなことに、デイヴィスは私とダンスを踊らない。しかも、しばらくすると男友達のところへ行くので、私が私のために使う時間はたくさんある。
まだこちらを見ているデイヴィスに、私は心の底から微笑みかけた。
「今日の夜会、楽しみだわ」
「そう? ならいいけど……」
私たちが会場に入ると「ファルテール伯爵夫妻、ご入場です」と係の者が声を張る。
私は淑女らしく礼をとり、デイヴィスは右手を胸に当てて軽く会釈した。
そのあと、ふたりで顔なじみの夫婦や友人たちにひと通り挨拶をした。それが終わると、私はデイヴィスの左腕にかけていた右手を離す。
「ローザ?」
戸惑うデイヴィスに私は微笑む。
「男友達のところに行くんでしょう?」
「あ、いや……」
歯切れの悪いデイヴィスに「いってらっしゃい」と手をふる。
さて、私もお目当ての高位貴族の夫人を探さないと。
この前、お茶会に招いてくれたグラジオラス公爵夫人がとてもよくしてくださったから、今日もぜひともご挨拶したい。
「ローザ、待って!」
急にデイヴィスに腕をつかまれ、私はとても驚いた。
「な、なに?」
デイヴィスは、とても言いにくそうに「久しぶりに踊らない?」と誘ってきた。こういうデイヴィスの気まぐれな言動にふりまわされ、一喜一憂していた過去が懐かしい。
「無理をしなくていいのよ」
私がそっとデイヴィスの手を払うと、デイヴィスはまた泣きそうな顔をする。
そこで私は、ようやく今日のデイヴィスの態度がおかしい理由に思い当たった。
王宮主催の夜会には、国中の貴族が招かれる。そこにはもちろん、私の父であるペレジオ子爵も含まれていた。
デイヴィスの提案した『理想の夫婦』は、私たちにとっては最高の関係だけど、外から見れば『妻を大切にしない夫』に見られてしまう可能性がある。
デイヴィスはきっと、そのことを理解しているのだ。私の父の目を気にして、今日は仲睦まじい夫婦を演じたいのだろう。
私は背伸びをすると、そっとデイヴィスに顔を近づけた。ハッとした表情になったデイヴィスは、なぜか頬を赤く染める。
「今日は私の父は参加していないわ。だから、無理に仲良さそうにしなくて大丈夫よ。私たちは、いつも通りでいいの」
安心してほしくて優しく微笑みかけると、デイヴィスはなぜか頭を抱えた。
もしかしたら本当に体調が悪いのかもしれないけど、彼につきまとうことを禁止されている私にはどうすることもできない。
デイヴィスだって、私の具合が悪いときになにもしなかったのだから、きっと今の彼もなにもしてほしくないはず。
私は静かにデイヴィスのそばを離れ、きらびやかな世界へ足を一歩踏み出した。
◇◇◇
僕に背を向けたローザは、まっすぐに歩き出した。
ローザの向かう先には、華やかに着飾った夫人たちが集まっている。彼女は気後れすることなく優雅にその輪の中へ入り、自然と溶け込んでいった。
楽しそうに会話をして微笑む彼女を、僕は離れた場所から見つめることしかできない。
馬車から降りたとき僕を見つめてくれていた彼女の美しい瞳に、僕はもう映っていない。
でも、僕が彼女になにかを言う資格はなかった。今、ローザがやっていることは、すべて今まで僕がローザにしてきたことだから。
今までの僕は、夜会での挨拶まわりが終わると、ローザを残して親しい友のもとへ行っていた。
ローザとはいつでも会えるが、親友のブレアムとはこんな機会でもなければ、なかなか会うことができない。だから、ローザよりブレアムを優先することが僕の中では当たり前だった。
しかも、僕はさっきのローザのようにそのことを優しく伝えてはいなかった。うっとうしそうにローザの手を払い、無言で去っていくこともあった。
あのときのローザは、どんな顔をしていたのだろう?
彼女の顔を見ていなかった僕は、それすらわからない。
「ごめん……ローザ」
楽しそうな夜会会場でパートナーに置いていかれ、ひとりになることが、こんなに惨めだと僕は知らなかったんだ。
うつむきながら深いため息をついた僕は、誰かに背中を叩かれた。
「どうしたんだ、デイヴィス?」
「……なんだ、ブレアムか」
一瞬、ローザが僕のもとに戻ってきてくれたのかと思ってしまった。
ブレアムは、いつものように「バルコニーに行こうぜ」とグラスを片手に誘ってきた。
「そっちの事業はどうだ? 俺のほうは……」
いつもは楽しいはずのブレアムとの会話が今日は頭に入ってこない。
意味がないとわかっていても、夜会を楽しむローザをずっと目で追ってしまう。
「デイヴィス、なにかあったのか?」
「……いや」
僕の視線を追って気がついたのか、ブレアムは「ローザ夫人を見てたのか? お元気そうでよかった」と胸をなでおろした。
「ほら、前の夜会で俺がお前に酒を飲ませたせいで、大変なことになっただろう? お前たちが離婚でもしたらどうしようかと心配していたんだ」
「り、こん……?」
予想もしなかった言葉を聞いて、僕の頭は真っ白になる。
「お前に限って離婚はないか。俺たちの中で一番モテていたのに、ローザ夫人に出会うまで女にまったく興味がなかったもんな。どこの令嬢がお前を落とすかって賭けになってたくらいだぜ? まぁ、お前からローザ夫人を紹介されて、皆、納得したけどな」
当たり前だ。ローザと離婚するなんて、今まで考えたことすらない。
ローザは僕の妻だし、そもそも僕たちの結婚は家同士の繋がりを深めるための政略結婚だ。それを理解しているローザが僕から離れるわけがない。
そこで僕は気がついてしまった。
『僕から離れるわけがない』とわかっているからこそ、僕はローザをないがしろにしていたことに。
そして認めたくないが、たぶん僕は、心のどこかでローザに追いかけられることに歪んだ喜びを感じていた。冷たくしてもなお愛してくれるローザを見て、僕のすべてを受け入れてもらっているようで満たされていたんだ。
僕の非道な行いを知りもしないブレアムは、グラスを傾けながら「今日も、ローザ夫人はお美しいな。もうすぐ俺の婚約者も社交界デビューするから、今度夫人に紹介させてくれ」と笑う。
そうだった。ローザは出会ったころから、ずっと美しかった。
結婚前はあんなに焦がれていたのに、手に入れてしまえば、彼女の美しさに慣れてしまい、僕の中で徐々に彼女の価値が下がっていった。
それでも、ローザ以外に大切な女性なんていない。
出会ったころのような熱い想いが冷めてしまっても、相手を尊重して大切にすることはできたはずだ。少なくとも、今のローザはそうしてくれている。
「僕は……なんてひどい男なんだ……」
「おいおい、どうした? また飲んでいるのか?」
「違うんだ、僕は……僕がローザに……」
ブレアムは「ああ……」と憐れむような声を出す。
「そうか、ローザ夫人はお前にしつこくまとわりついてくるんだっけ? 任された仕事もろくにできない社交もしない。外から見る分にはいいけど、性格は最悪、だったっけな? 違ったか? そんな風には見えないが、執着女が妻だなんてお前もつらいよな」
ブレアムは、ローザに蔑むような視線を送った。
その瞬間、僕はカッと頭に血が上り、気がつけばブレアムの胸ぐらをしめ上げていた。
「なっ!? なにするんだ、デイヴィス!」
腕を払われても、ブレアムへの怒りはおさまらない。
「ローザを侮辱するな!」
ブレアムは咳込みながら「は? 侮辱って……俺はお前が前に言っていたことを言っただけだぞ?」と驚いている。
そうだ、ローザを侮辱していたのは僕自身だ。ローザを蔑んでいたのも僕。
「違うんだ……。ローザは、そんな人じゃない……」
「なんだかよくわからんが、お前がローザ夫人のことで、追い詰められているのだけはわかったよ。俺も婚約者のワガママにいつもふりまわされているからな。まぁ彼女の場合は、そこが可愛いんだが」
ブレアムは慰めるように僕の肩をポンッと叩いた。
「お前たち、結婚何年目だ?」
「……三年目だ」
「じゃあ、あと二年ちょいのがまんだな」
「二年?」
わけがわからずブレアムを見ると、ブレアムは「そう、二年だ」とくり返す。
「五年経っても後継ぎが生まれなかった夫婦は離婚できるからな。あと二年がまんすれば、お前は晴れて自由の身だ」
「よかったな」ともう一度肩を叩かれた僕はそのままフラつき、バルコニーの柵にもたれかかった。
「子どもができなかったら……離婚?」
離婚――その言葉で頭がいっぱいになる。
ローザのことをあれほど疎ましいと思っていたときでさえ、離婚したいと考えたことは一度もなかった。
それが、突然現実味を伴って襲いかかる。
「い、嫌だ! ローザと離れるなんて、そんなの!」
「は?」
「僕は彼女を愛しているんだ! 僕が間違っていた! どうすればいい!? どうすれば、また彼女に愛してもらえるんだ!?」
「お、おい、デイヴィス?」
戸惑うブレアムに僕は泣きついた。
「お願いだ! どうしたらいいのか教えてくれ! このままじゃ、ローザに捨てられてしまう!」
「はぁ? とりあえず、話してみろ。聞いてやるから」
そう言うブレアムに、僕は今までローザにしてきたことをすべて話した。
黙って話を聞いていたブレアムの顔が、みるみるうちに青ざめていく。
「ブレアム、僕はどうしたらいい?」
「あ、その……」
ブレアムは視線をそらして、こちらを見てくれない。
「なんというか……もし俺がローザ夫人だったら、お前を思いっきりぶん殴っていただろうな」
「殴られるくらいで許してもらえるなら、何度だって殴られるから!」
困った顔をしたブレアムに「いや、今さら無理だろう……」とため息をつかれてしまう。
「女は気持ちが冷めたら二度と戻ってこないって、俺の婚約者が言っていたぞ」
ポンッと優しく肩を叩かれた僕は、思わずその場にうずくまった。
足元の床がガラガラと崩れていくような気がする。
「あ、ローザ夫人、誰かと踊るみたいだな」
その言葉に弾かれたように顔を上げた僕は、ブレアムが止めるのも聞かず走り出していた。
夜会に向かう馬車の中で、ローザは僕をチラリとも見なかった。
いつもうんざりするくらい僕を見つめていた瞳は、外の景色に向けられ、楽しそうに輝いている。そんなローザとは対照的に、僕は気が滅入っていた。
今までの僕は、ローザにひどい仕打ちをしているなどと思っていなかった。
ただ『うっとうしく、つきまとってくる妻』にうんざりして、彼女を遠ざけることばかり考えていた。
その結果、ローザにひどい言葉を投げかけ、ひどい態度をとってきた。
しかもローザに同じことをされるまで、それをされた相手がどんな気持ちになるのか想像もしなかった。
夜会のパートナーである妻に向かって『会場以外ではエスコートしない』『君とダンスは踊らない』、そんなことを言う男がいるなんて信じられない。
その信じられない仕打ちを、妻にしてきたのが自分なのだ。
相変わらず僕を見ないローザの横顔は、凛として美しい。
先ほど、身支度を整えたローザが部屋から出てきたときは本当に驚いた。まるで月の女神が舞い降りたかのようだった。
僕の妻はこんなに美しい人だったのか。
ふと、僕はローザにはじめて出会ったときのことを思い出した。
あのころは、まだ父が健在だった。僕は父の命により、ペレジオ子爵家の令嬢ローザと婚約することになった。僕の父とローザの父が大きな事業を共同で行うことになり、両家の繋がりを深くするための、よくある政略結婚だった。
当時の僕は、女性にそれほど興味がなく、誰と結婚しても同じだと思っていた。
しかし、父に紹介されたローザを見た途端に、僕は自分でも驚くくらい簡単に恋に落ちた。
その日から、ローザのエメラルドのように輝く瞳や、艶やかなプラチナブロンド、薔薇のつぼみのように可憐な唇が脳裏に焼きつき、離れなくなった。
自分から女性を口説いた経験がなかったので、婚約者になったローザには思いつく限りの愛の言葉をささやいた。そして、仲の良い男友達に女性が喜びそうなものを聞いては、ローザにプレゼントを贈った。
僕からのアプローチに戸惑っていたローザに「僕たちは、政略結婚だからね」と、僕との結婚を拒否できないこともさりげなく伝えた。
このときばかりは、当人同士の気持ちが関係ない政略結婚だということに感謝した。だからこそ、結婚式のときに「君を一生、大切にするよ」とローザに伝えた。
それは、僕の本心であり、生涯の誓い……のはずだった。
ローザと結婚して一年目は夢のように楽しかった。
二年目に、父が馬車の事故で死亡した。急きょ父の後を継いだ僕は、ファルテール伯爵になった。
父の死は、あまりに急だった。僕は生まれてからずっと後継者として育てられてきたが、それでも伯爵としての責任と仕事に追われ、ローザと過ごす時間が減った。
でもローザは少しも文句を言わなかった。それどころか父の急な死を一緒に悲しんでくれて、僕を支えてくれた。
三年目、ローザに仕事を押しつけたことを都合よく忘れた僕は、前年はできなかった社交に力を入れた。久しぶりに会う友人たちとの会話は楽しかったし、一緒に新しく事業をはじめようということになり、外出する日が増えていった。
屋敷に戻るのが遅くなる日が続いた。そんな僕をローザはいつでも「お疲れ様」と笑顔で迎えてくれた。
はじめは嬉しかったその出迎えが、うっとうしく感じるようになったのは、いつからだろう?
ローザはいつでも僕と一緒にいることを望んだ。
たとえ具合が悪そうでも、目の下にクマができていても。僕と一緒に朝食をとることを望んでいたし、「先に寝てほしい」と言っても僕の帰りを待つことをやめなかった。
そんなローザの献身を、僕はいつからか頻繁に外出する僕への当てつけのように感じはじめた。
具合が悪そうな妻が僕の帰りを待っていると思うと、相手にするのが面倒で、さらに帰る時間が遅くなっていった。
今のローザの瞳から僕への熱が消えてしまったように、あのときの僕の瞳からも、ローザへの熱が消えてしまっていただろう。
それだけではなく、僕は伯爵夫人の仕事をひとりで満足にこなせず、社交をおろそかにする彼女を見下すようになっていた。
その気持ちがローザへの冷遇へ繋がった。
それが……僕の勘違いが原因だなんて思いもせず。
カーンカーンと、遠くで鐘が鳴る音が聞こえて僕の思考はさえぎられた。それは夜会会場への入場開始の合図だったが、僕には教会の鐘の音を思い起こさせた。
結婚式で交わした神聖な誓いの言葉が脳裏をよぎる。
病めるときも、健やかなるときも
喜びのときも、悲しみのときも
富めるときも、貧しきときも
妻として愛し敬い、慈しむことを誓いますか?
あのとき、はっきり「誓います」と言い切った僕は、三年も経たずしてその誓いを破った。
父が亡くなり僕が悲しみに暮れていたとき、ローザはずっとそばで支えてくれていた。
それなのに、僕はローザがつらいときに支えるどころか、あっさり手のひらを返した。
まるでお気に入りのおもちゃに飽きた子どもが、そのおもちゃを投げ捨てるように。
「……なにが『愛している』だ……。こんなに薄情な愛があってたまるか……」
思わず僕の口からもれた言葉はローザにも聞こえたはずなのに、彼女はなにも反応しなかった。
ローザはただ、ニコリと優しく微笑んで「デイヴィス、ついたわよ」と馬車が止まったことを教えてくれた。
◇◇◇
馬車が夜会の会場についた。その途端に、私たちは『お互いを思い合っているファルテール伯爵夫妻』を演じる。
馬車から先に降りたデイヴィスが私に左手を差し出した。親しそうに見えるよう、私がその手をとると、デイヴィスはなぜか泣きそうな笑みを浮かべる。
でも、もう『どうしたの?』とも『具合が悪いの?』とも思わない。
彼は私につきまとわれることを嫌がっている。彼を心配するのは私の役目ではない。
そのときふと、私たちに子どもができたら、デイヴィスは愛人をつくるかもしれないな、と思った。
いえ、もしかしたら、もうつくっていてもおかしくない。
どうして今までその可能性に思い至らなかったの?
デイヴィスの帰りが日に日に遅くなり、私の寝室に来なくなった時点で気がつくべきだった。
証拠はないけど、外に愛人がいると考えればこれまでのいろいろなことが腑に落ちる。
この国では、基本的に貴族同士の離婚は認められていない。けれど例外はある。
結婚して五年経っても妻との間に後継ぎが生まれなかった場合。夫は妻との離婚か、あるいは愛人をもつことが許されるのだ。もちろん妻と離婚して、その愛人を新たに妻とすることも可能だ。
私たちは、今年で結婚三年目になる。
あと二年と少しの間、私に子どもができなかったら、デイヴィスは誰からも批判を受けることなく愛人を迎え、正妻にできる。そして私を捨てることも。
私は隣を歩くデイヴィスを見上げた。
いつもは視線が合わないのに、今日に限ってなぜかデイヴィスは私の視線に気がつき、「どうしたの?」と尋ねてくる。
「……いえ」
「ローザ、顔色が悪いよ。大丈夫?」
『大丈夫?』と私を心配する言葉を、デイヴィスから久しぶりに聞いた気がする。
過去の私ならデイヴィスが優しくしてくれたと喜んだところだけど、今の私は特になにも感じなかった。
そんなことより、二年後に離婚を突きつけられる可能性が高いことのほうが問題だ。
私とデイヴィスは政略結婚なので、私たちが夫婦であるというだけで、両家にとって利益がある。
愛は盲目とはよく言ったもので、そうした政略結婚で得られる利益を捨ててでも、結婚後に『真実の愛』に目覚めた男女が愛人に走ることもないわけではない。
デイヴィスは、そこまで愚かではない。貴族の役割や、自身がファルテール伯爵であるということをよくわかっている。彼はバカな選択はしない。
でも五年目の離婚はバカな選択ではなく、伯爵家の血筋を残すための、貴族として正しい行動だ。
そうなってくると、今、私がしなければならないことは、たとえ離婚することになっても生きていけるようにデイヴィスから自立すること。
私が離縁されても、実家の両親や弟は温かく家に迎え入れてくれるだろう。でも、一度家から出た身でなにからなにまで実家の世話にはなりたくない。せめて、自分にかかる費用を自分で払えるくらいの財産はほしい。
そのためには、私がファルテール伯爵夫人である間に、できる限り権力者の奥様方と友好的な関係を築いておく必要がある。自分の名義で事業をはじめるのもいいかもしれない。
結婚当初の私なら、自分で事業をおこすなんて思いつきもしなかった。
でも、一年間、デイヴィスに重要な仕事を任されて必死に勉強したので、今の私ならできるかもしれないと前向きに考えることができる。
今日の夜会は王宮主催なので、人脈づくりには絶好の機会だ。
幸いなことに、デイヴィスは私とダンスを踊らない。しかも、しばらくすると男友達のところへ行くので、私が私のために使う時間はたくさんある。
まだこちらを見ているデイヴィスに、私は心の底から微笑みかけた。
「今日の夜会、楽しみだわ」
「そう? ならいいけど……」
私たちが会場に入ると「ファルテール伯爵夫妻、ご入場です」と係の者が声を張る。
私は淑女らしく礼をとり、デイヴィスは右手を胸に当てて軽く会釈した。
そのあと、ふたりで顔なじみの夫婦や友人たちにひと通り挨拶をした。それが終わると、私はデイヴィスの左腕にかけていた右手を離す。
「ローザ?」
戸惑うデイヴィスに私は微笑む。
「男友達のところに行くんでしょう?」
「あ、いや……」
歯切れの悪いデイヴィスに「いってらっしゃい」と手をふる。
さて、私もお目当ての高位貴族の夫人を探さないと。
この前、お茶会に招いてくれたグラジオラス公爵夫人がとてもよくしてくださったから、今日もぜひともご挨拶したい。
「ローザ、待って!」
急にデイヴィスに腕をつかまれ、私はとても驚いた。
「な、なに?」
デイヴィスは、とても言いにくそうに「久しぶりに踊らない?」と誘ってきた。こういうデイヴィスの気まぐれな言動にふりまわされ、一喜一憂していた過去が懐かしい。
「無理をしなくていいのよ」
私がそっとデイヴィスの手を払うと、デイヴィスはまた泣きそうな顔をする。
そこで私は、ようやく今日のデイヴィスの態度がおかしい理由に思い当たった。
王宮主催の夜会には、国中の貴族が招かれる。そこにはもちろん、私の父であるペレジオ子爵も含まれていた。
デイヴィスの提案した『理想の夫婦』は、私たちにとっては最高の関係だけど、外から見れば『妻を大切にしない夫』に見られてしまう可能性がある。
デイヴィスはきっと、そのことを理解しているのだ。私の父の目を気にして、今日は仲睦まじい夫婦を演じたいのだろう。
私は背伸びをすると、そっとデイヴィスに顔を近づけた。ハッとした表情になったデイヴィスは、なぜか頬を赤く染める。
「今日は私の父は参加していないわ。だから、無理に仲良さそうにしなくて大丈夫よ。私たちは、いつも通りでいいの」
安心してほしくて優しく微笑みかけると、デイヴィスはなぜか頭を抱えた。
もしかしたら本当に体調が悪いのかもしれないけど、彼につきまとうことを禁止されている私にはどうすることもできない。
デイヴィスだって、私の具合が悪いときになにもしなかったのだから、きっと今の彼もなにもしてほしくないはず。
私は静かにデイヴィスのそばを離れ、きらびやかな世界へ足を一歩踏み出した。
◇◇◇
僕に背を向けたローザは、まっすぐに歩き出した。
ローザの向かう先には、華やかに着飾った夫人たちが集まっている。彼女は気後れすることなく優雅にその輪の中へ入り、自然と溶け込んでいった。
楽しそうに会話をして微笑む彼女を、僕は離れた場所から見つめることしかできない。
馬車から降りたとき僕を見つめてくれていた彼女の美しい瞳に、僕はもう映っていない。
でも、僕が彼女になにかを言う資格はなかった。今、ローザがやっていることは、すべて今まで僕がローザにしてきたことだから。
今までの僕は、夜会での挨拶まわりが終わると、ローザを残して親しい友のもとへ行っていた。
ローザとはいつでも会えるが、親友のブレアムとはこんな機会でもなければ、なかなか会うことができない。だから、ローザよりブレアムを優先することが僕の中では当たり前だった。
しかも、僕はさっきのローザのようにそのことを優しく伝えてはいなかった。うっとうしそうにローザの手を払い、無言で去っていくこともあった。
あのときのローザは、どんな顔をしていたのだろう?
彼女の顔を見ていなかった僕は、それすらわからない。
「ごめん……ローザ」
楽しそうな夜会会場でパートナーに置いていかれ、ひとりになることが、こんなに惨めだと僕は知らなかったんだ。
うつむきながら深いため息をついた僕は、誰かに背中を叩かれた。
「どうしたんだ、デイヴィス?」
「……なんだ、ブレアムか」
一瞬、ローザが僕のもとに戻ってきてくれたのかと思ってしまった。
ブレアムは、いつものように「バルコニーに行こうぜ」とグラスを片手に誘ってきた。
「そっちの事業はどうだ? 俺のほうは……」
いつもは楽しいはずのブレアムとの会話が今日は頭に入ってこない。
意味がないとわかっていても、夜会を楽しむローザをずっと目で追ってしまう。
「デイヴィス、なにかあったのか?」
「……いや」
僕の視線を追って気がついたのか、ブレアムは「ローザ夫人を見てたのか? お元気そうでよかった」と胸をなでおろした。
「ほら、前の夜会で俺がお前に酒を飲ませたせいで、大変なことになっただろう? お前たちが離婚でもしたらどうしようかと心配していたんだ」
「り、こん……?」
予想もしなかった言葉を聞いて、僕の頭は真っ白になる。
「お前に限って離婚はないか。俺たちの中で一番モテていたのに、ローザ夫人に出会うまで女にまったく興味がなかったもんな。どこの令嬢がお前を落とすかって賭けになってたくらいだぜ? まぁ、お前からローザ夫人を紹介されて、皆、納得したけどな」
当たり前だ。ローザと離婚するなんて、今まで考えたことすらない。
ローザは僕の妻だし、そもそも僕たちの結婚は家同士の繋がりを深めるための政略結婚だ。それを理解しているローザが僕から離れるわけがない。
そこで僕は気がついてしまった。
『僕から離れるわけがない』とわかっているからこそ、僕はローザをないがしろにしていたことに。
そして認めたくないが、たぶん僕は、心のどこかでローザに追いかけられることに歪んだ喜びを感じていた。冷たくしてもなお愛してくれるローザを見て、僕のすべてを受け入れてもらっているようで満たされていたんだ。
僕の非道な行いを知りもしないブレアムは、グラスを傾けながら「今日も、ローザ夫人はお美しいな。もうすぐ俺の婚約者も社交界デビューするから、今度夫人に紹介させてくれ」と笑う。
そうだった。ローザは出会ったころから、ずっと美しかった。
結婚前はあんなに焦がれていたのに、手に入れてしまえば、彼女の美しさに慣れてしまい、僕の中で徐々に彼女の価値が下がっていった。
それでも、ローザ以外に大切な女性なんていない。
出会ったころのような熱い想いが冷めてしまっても、相手を尊重して大切にすることはできたはずだ。少なくとも、今のローザはそうしてくれている。
「僕は……なんてひどい男なんだ……」
「おいおい、どうした? また飲んでいるのか?」
「違うんだ、僕は……僕がローザに……」
ブレアムは「ああ……」と憐れむような声を出す。
「そうか、ローザ夫人はお前にしつこくまとわりついてくるんだっけ? 任された仕事もろくにできない社交もしない。外から見る分にはいいけど、性格は最悪、だったっけな? 違ったか? そんな風には見えないが、執着女が妻だなんてお前もつらいよな」
ブレアムは、ローザに蔑むような視線を送った。
その瞬間、僕はカッと頭に血が上り、気がつけばブレアムの胸ぐらをしめ上げていた。
「なっ!? なにするんだ、デイヴィス!」
腕を払われても、ブレアムへの怒りはおさまらない。
「ローザを侮辱するな!」
ブレアムは咳込みながら「は? 侮辱って……俺はお前が前に言っていたことを言っただけだぞ?」と驚いている。
そうだ、ローザを侮辱していたのは僕自身だ。ローザを蔑んでいたのも僕。
「違うんだ……。ローザは、そんな人じゃない……」
「なんだかよくわからんが、お前がローザ夫人のことで、追い詰められているのだけはわかったよ。俺も婚約者のワガママにいつもふりまわされているからな。まぁ彼女の場合は、そこが可愛いんだが」
ブレアムは慰めるように僕の肩をポンッと叩いた。
「お前たち、結婚何年目だ?」
「……三年目だ」
「じゃあ、あと二年ちょいのがまんだな」
「二年?」
わけがわからずブレアムを見ると、ブレアムは「そう、二年だ」とくり返す。
「五年経っても後継ぎが生まれなかった夫婦は離婚できるからな。あと二年がまんすれば、お前は晴れて自由の身だ」
「よかったな」ともう一度肩を叩かれた僕はそのままフラつき、バルコニーの柵にもたれかかった。
「子どもができなかったら……離婚?」
離婚――その言葉で頭がいっぱいになる。
ローザのことをあれほど疎ましいと思っていたときでさえ、離婚したいと考えたことは一度もなかった。
それが、突然現実味を伴って襲いかかる。
「い、嫌だ! ローザと離れるなんて、そんなの!」
「は?」
「僕は彼女を愛しているんだ! 僕が間違っていた! どうすればいい!? どうすれば、また彼女に愛してもらえるんだ!?」
「お、おい、デイヴィス?」
戸惑うブレアムに僕は泣きついた。
「お願いだ! どうしたらいいのか教えてくれ! このままじゃ、ローザに捨てられてしまう!」
「はぁ? とりあえず、話してみろ。聞いてやるから」
そう言うブレアムに、僕は今までローザにしてきたことをすべて話した。
黙って話を聞いていたブレアムの顔が、みるみるうちに青ざめていく。
「ブレアム、僕はどうしたらいい?」
「あ、その……」
ブレアムは視線をそらして、こちらを見てくれない。
「なんというか……もし俺がローザ夫人だったら、お前を思いっきりぶん殴っていただろうな」
「殴られるくらいで許してもらえるなら、何度だって殴られるから!」
困った顔をしたブレアムに「いや、今さら無理だろう……」とため息をつかれてしまう。
「女は気持ちが冷めたら二度と戻ってこないって、俺の婚約者が言っていたぞ」
ポンッと優しく肩を叩かれた僕は、思わずその場にうずくまった。
足元の床がガラガラと崩れていくような気がする。
「あ、ローザ夫人、誰かと踊るみたいだな」
その言葉に弾かれたように顔を上げた僕は、ブレアムが止めるのも聞かず走り出していた。
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