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【番外編・ハロルドとの恋愛エンディング】
01 ハロルドに情報を流す
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--もしも、物語の途中で、メアリーがハロルドに全ての情報を話していたら……?
**
死にたくない、でもどうしたらいいのか分からない。
一人で悩んで苦しんだ結果、メアリーはハロルドに自分が持っている全ての情報を話すことにした。
メアリーは、自分の聖なる力が歴代の聖女と比べてとても強いこと、実はノーヴァン伯爵と血が繋がっていなかったこと、そして、それをばらされたくなければ、大神官の養女になれと脅されたこと、全てをハロルドに話した。
話が終わると、それまで黙って聞いていたハロルドは「うん」と頷いた。
「君は、大神官の養女になるつもりはないのかな? 君にとって悪い話じゃないよね?」
「はい」
「どうして?」
(どうしてって……ゲーム『聖なる乙女の祈り』の中では、パティが聖女になった後って、一切、神殿の話が出てこないのよね……)
例えば、ハロルドルートのエンディングだと、『聖女兼王妃になったパティが生涯ハロルドを支え、国のために尽力しました』や、エイベルルートのエンディングでは、『王家を形式化して貴族政の後、民主化に進みました』とか、ふわっと少しだけこの国のその後を知ることができた。
(まぁ、神殿のトップクラスの地位の聖女が、神殿以外の男性とラブラブになるんだもんね。『聖女パティを手に入れる=神殿の力を手に入れる』みたいなものなのかな?)
つまりそれは、これから神殿が力を無くしていくということで。
(私はこれ以上、ややこしいことには巻き込まれたくないのよね……)
メアリーが黙っていると、ハロルドが忍び笑った。
「まぁ、いいか。役に立つ面白い話も聞けたし、君のことは見逃してあげるよ」
「あ、ありがとうございます!」
「でもねぇ」
ハロルドは思案するように、腕を組みながら自身のあごを指で撫でた。
「神殿に目を付けられた君は、これからどこに行っても見張られるね。それこそ、国中に神殿を讃える教会があるのだし」
「……あ」
(しまった、そこまで考えてなかった……)
「私に見逃してもらっても、大神官に目を付けられた時点で、君の逃げ道はもうないと言うことだね」
青ざめるメアリーに、ハロルドは「助けてあげようか?」と、とても楽しそうに微笑んだ。
「助けてくれるんですか?」
メアリーが驚いてハロルドを見ると、「もちろん。ただし、条件があるけど」と怪しく笑う。嫌な予感しかしないが、メアリーは一応聞いてみた。
「その条件って……?」
「私と婚姻して、のちにこの国の王妃になること」
(それは、絶対に嫌!)
メアリーは、顔ではニコリと微笑みを浮かべながら、心の中で『ヤダヤダヤダ!』と頭を抱えた。
「歴代聖女より強力な力を持つ王妃だなんて、王権を復活させるための足がかりとして最高だよ」
「それは……私には身に余る光栄で、その……」
「嫌なの?」
ど直球に聞かれて、仕方なくメアリーは小さく頷いた。
「断わる理由を聞いてもいい?」
メアリーは微かに震える手を握りしめた。それに気が付いたのかハロルドは「どういう理由であれ、君には一切、危害を加えないと約束するよ」と付け加えた。
「そうだね、逆にここで本当のことを言わないと、君を王族侮辱罪で捕えよう」
(無茶苦茶だわ!)
覚悟を決めてメアリーは口を開いた。
「私は……ハロルド殿下が怖いのです」
ハロルドは驚いたように目を見開いた。
「殿下は、ご自身の目的のためなら、手段を選びません。今まで私を殺そうとしていたこともそうですし、例え、私が王妃になったとしても、利用価値が無くなればすぐに切り捨てる非情さも持っています。殿下のように怖い方の側にいたくありません……」
メアリーは自身の震える両手を胸に抱え込むと、ハロルドの視線を避けるようにうつむいた。
「君は……」
そう呟いた後、ハロルドは深いため息をついた。
「私を喜ばせる天才なのかな?」
言葉の意味が分からずメアリーが顔を上げると、ハロルドは照れるように腕で顔を隠していた。
「殿下?」
戸惑い声をかけると、わざとらしい咳払いが聞こえた。
「私はこういう外見だから、昔からものすごく侮(あなど)られやすいんだ。王子と言っても貴族を押さえる力もない。もちろん、このままで終わらせる気はないけどね」
ハロルドの顔には、怖いくらい美しい微笑が浮かんでいる。
「君は、私に怯えながらいつも敬意を払ってくれるね。そういうのを畏敬(いけい)と言うんだ。私はこの国の国民全てが、国王に畏敬の念を持つべきだと考えている」
ハロルドが少しだけ視線を逸らした。
「だから、怯える君を見ていると……皆がこうあるべきだと思い、嬉しく感じてしまうよ。しかも、私にこんなに怯えておきながら、神殿最高位の大神官を『不健康そうなおじいちゃん』って……」
ハロルドが、ブハッとまた噴き出した。
「メアリー、君ほど私という人間の本質を理解している人はいないだろう」
ハロルドは立ち上がると、メアリーのすぐ側まできた。そして、震えるメアリーの左手を優しく握ると、手の甲に軽くキスをする。
「君には、ずっと私の側で震えて怯えていて欲しい」
(絶対……嫌……)
「絶対に嫌という顔をしているね。でも、もう君は分かっているはずだ」
ゆっくりと整い過ぎたハロルドの顔が近づいてきた。
「こうなってしまった私からは、どうあがいても逃げられないって」
そう囁いたハロルドは、震えるメアリーの頬に優しくキスをした。
**
死にたくない、でもどうしたらいいのか分からない。
一人で悩んで苦しんだ結果、メアリーはハロルドに自分が持っている全ての情報を話すことにした。
メアリーは、自分の聖なる力が歴代の聖女と比べてとても強いこと、実はノーヴァン伯爵と血が繋がっていなかったこと、そして、それをばらされたくなければ、大神官の養女になれと脅されたこと、全てをハロルドに話した。
話が終わると、それまで黙って聞いていたハロルドは「うん」と頷いた。
「君は、大神官の養女になるつもりはないのかな? 君にとって悪い話じゃないよね?」
「はい」
「どうして?」
(どうしてって……ゲーム『聖なる乙女の祈り』の中では、パティが聖女になった後って、一切、神殿の話が出てこないのよね……)
例えば、ハロルドルートのエンディングだと、『聖女兼王妃になったパティが生涯ハロルドを支え、国のために尽力しました』や、エイベルルートのエンディングでは、『王家を形式化して貴族政の後、民主化に進みました』とか、ふわっと少しだけこの国のその後を知ることができた。
(まぁ、神殿のトップクラスの地位の聖女が、神殿以外の男性とラブラブになるんだもんね。『聖女パティを手に入れる=神殿の力を手に入れる』みたいなものなのかな?)
つまりそれは、これから神殿が力を無くしていくということで。
(私はこれ以上、ややこしいことには巻き込まれたくないのよね……)
メアリーが黙っていると、ハロルドが忍び笑った。
「まぁ、いいか。役に立つ面白い話も聞けたし、君のことは見逃してあげるよ」
「あ、ありがとうございます!」
「でもねぇ」
ハロルドは思案するように、腕を組みながら自身のあごを指で撫でた。
「神殿に目を付けられた君は、これからどこに行っても見張られるね。それこそ、国中に神殿を讃える教会があるのだし」
「……あ」
(しまった、そこまで考えてなかった……)
「私に見逃してもらっても、大神官に目を付けられた時点で、君の逃げ道はもうないと言うことだね」
青ざめるメアリーに、ハロルドは「助けてあげようか?」と、とても楽しそうに微笑んだ。
「助けてくれるんですか?」
メアリーが驚いてハロルドを見ると、「もちろん。ただし、条件があるけど」と怪しく笑う。嫌な予感しかしないが、メアリーは一応聞いてみた。
「その条件って……?」
「私と婚姻して、のちにこの国の王妃になること」
(それは、絶対に嫌!)
メアリーは、顔ではニコリと微笑みを浮かべながら、心の中で『ヤダヤダヤダ!』と頭を抱えた。
「歴代聖女より強力な力を持つ王妃だなんて、王権を復活させるための足がかりとして最高だよ」
「それは……私には身に余る光栄で、その……」
「嫌なの?」
ど直球に聞かれて、仕方なくメアリーは小さく頷いた。
「断わる理由を聞いてもいい?」
メアリーは微かに震える手を握りしめた。それに気が付いたのかハロルドは「どういう理由であれ、君には一切、危害を加えないと約束するよ」と付け加えた。
「そうだね、逆にここで本当のことを言わないと、君を王族侮辱罪で捕えよう」
(無茶苦茶だわ!)
覚悟を決めてメアリーは口を開いた。
「私は……ハロルド殿下が怖いのです」
ハロルドは驚いたように目を見開いた。
「殿下は、ご自身の目的のためなら、手段を選びません。今まで私を殺そうとしていたこともそうですし、例え、私が王妃になったとしても、利用価値が無くなればすぐに切り捨てる非情さも持っています。殿下のように怖い方の側にいたくありません……」
メアリーは自身の震える両手を胸に抱え込むと、ハロルドの視線を避けるようにうつむいた。
「君は……」
そう呟いた後、ハロルドは深いため息をついた。
「私を喜ばせる天才なのかな?」
言葉の意味が分からずメアリーが顔を上げると、ハロルドは照れるように腕で顔を隠していた。
「殿下?」
戸惑い声をかけると、わざとらしい咳払いが聞こえた。
「私はこういう外見だから、昔からものすごく侮(あなど)られやすいんだ。王子と言っても貴族を押さえる力もない。もちろん、このままで終わらせる気はないけどね」
ハロルドの顔には、怖いくらい美しい微笑が浮かんでいる。
「君は、私に怯えながらいつも敬意を払ってくれるね。そういうのを畏敬(いけい)と言うんだ。私はこの国の国民全てが、国王に畏敬の念を持つべきだと考えている」
ハロルドが少しだけ視線を逸らした。
「だから、怯える君を見ていると……皆がこうあるべきだと思い、嬉しく感じてしまうよ。しかも、私にこんなに怯えておきながら、神殿最高位の大神官を『不健康そうなおじいちゃん』って……」
ハロルドが、ブハッとまた噴き出した。
「メアリー、君ほど私という人間の本質を理解している人はいないだろう」
ハロルドは立ち上がると、メアリーのすぐ側まできた。そして、震えるメアリーの左手を優しく握ると、手の甲に軽くキスをする。
「君には、ずっと私の側で震えて怯えていて欲しい」
(絶対……嫌……)
「絶対に嫌という顔をしているね。でも、もう君は分かっているはずだ」
ゆっくりと整い過ぎたハロルドの顔が近づいてきた。
「こうなってしまった私からは、どうあがいても逃げられないって」
そう囁いたハロルドは、震えるメアリーの頬に優しくキスをした。
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