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オマケ
元婚約者と…(ミシュの元婚約者視点)
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今日は随分大きな夜会だ。
俺の婚約者は今、友人たちと話し込んでいる。俺はそれを邪魔しないように、少し離れたところでぼんやりとしていた。
すぐ近くには知り合いの姿も見えないし、あまり婚約者から離れて、はぐれても困る。
だからドリンクを片手に何となく会場を眺めていると、元婚約者のミシュリアの姿が目に入った。
元気そうでほっとする。
婚約の解消を申し出た後、引きこもってしまったと聞いていたから。
その後、すぐに新しい婚約者ができたらしいと聞いて、知人からちらほら目撃情報も入るようになった。
新しい婚約者と仲よく出かけていると。
そう話に聞いてはいたけれど、実際に元気そうな彼女の姿を見て安堵した。
俺は別に、ミシュリアのことが嫌いだった訳ではない。新しい婚約者のレインと出会わなければ、きっと何の疑問もなく彼女と結婚していただろう。そして普通の夫婦になっていた筈だ。
けれど俺は、レインと出会ってしまった。
夜会で友人数人と話していた際、たまたまそこにいた女性。
友人の知り合いの婚約者。
初めて目が合った瞬間、心臓を撃ち抜かれたような衝撃を受けた。一言二言、言葉を交わすと、心臓が狂ったように脈打った。
ほんの一瞬話しただけ。
その日はそれだけだったのに。
その後、ふとした弾みに何度も彼女のことを思い出した。それこそ、当時婚約者だったミシュリアといる時でさえ。
これが恋なのかと、そう思った。
けれど俺にもレインにも婚約者がいたから、彼女と結ばれることはないだろうと思っていた。
彼女と俺の人生が交わることはないだろうと。
たとえこれが恋だとしても、所詮は数年もすれば消え失せる幻だと、そう思おうとしていたのに…。
その数日後に街に出た時、レインが柄の悪そうな男たちに囲まれているのを見てしまった。
気がついたら、彼女と男たちの間に割って入っていた。
何を隠そう、俺はひ弱なボンボン育ちだ。荒事にも揉め事にも慣れてはいない。
けれど逃げ出すなど論外だった。
緊張しながらも話を聞くと、どうやら彼女の侍女の荷物が男の一人に当たって、彼が手に持っていた飲み物が服にかかってしまったらしい。彼のシャツには、大きく茶色い染みができてしまっていた。
彼女はどうしたらいいのかわからずオロオロしていて、侍女はそんな主人を大の男たちから守ろうと必死で、相手の話を碌に聞いていなかった。どうやらいちゃもんをつけられたと、勘違いしているようだった。
彼女の侍女が彼らに迷惑をかけたのは事実のようなので、ひとまず謝罪してドリンク代とシミが落ちなかった時の為に服代も渡した。すると、意外にもあっさり怒りを収めて「次から気をつけろよ!」と去って行った。
見かけによらず冷静な相手でよかった。
震えそうになる手をぎゅっと握って彼女を見ると、彼女は涙目で俺を見上げていた。その可憐な様に、思わず呼吸が止まる。
「…ありがとうございます…もう…私…どうしたらいいのかわからなくて…っ…」
震える彼女をそのままにはしておけず、近くの喫茶店へと誘った。
そして彼女を落ちつかせようと色々バカな話をしていたら、彼女が不意にクスリと笑った。
彼女に会ってから、何度目かの衝撃。
この笑顔を、自分だけのものにしたい
その瞬間、そう思ってしまった…。
それでもその日は、何の約束もせずに別れた。彼女は他の男の婚約者で、俺にもミシュリアがいるのだから。
けれどその次の夜会で、たまたまミシュリアと離れていた時に彼女を見かけてしまった。目が合って、引き寄せられるように声をかけ、気づいたら一緒に街へ出かける約束を交わしていた。
「お礼がしたい」と言われたから。
礼を断るなんて無粋な真似はできない。そう自分に言い訳して。
それでも、後ろめたさは確かにあった。
そうした偶然が重なるうちに、俺の中で彼女の存在が大きくなりすぎてしまった。もう何をしていても何を見ても、レインに結びついてしまう。
…こんな気持ちでミシュリアと結婚など、とてもできない。
それに…レインが他の男のものになることが、どうしても耐えられなかった。
それで遂に、ミシュリアとの婚約を解消した。申し訳なさはあったけれど、もうどうしようもなかった。
その後一時期、ミシュリアの父親には会うたびに凄い目で睨まれた。
けれど最近は、上機嫌で素通りされる。そして俺のすぐ近くで「うちの婿殿」の自慢話を始められる。
…これは仕方がないので、甘んじて受け入れている。
そんな経緯があったから、ミシュリアが元気そうでよかった。
…俺が言えた立場ではないけれど。
しばらく穏やかな気持ちで彼女を見ていたら、そのすぐ隣からとんでもなく鋭い視線が飛んできた。
ミシュリアの新しい婚約者。
その彼が、殺気立った目を俺に向けていた。慌てて愛想笑いを浮かべると、彼は自分の身体でミシュリアを俺から隠すようにして背を向けた。
ほっと息を吐く。
見ていただけで、そこまで怒らなくても…
一瞬、決闘でも申し込まれるかと思った。
…ミシュリア、大事にされてるんだな。
------
こんな感じで!
俺の婚約者は今、友人たちと話し込んでいる。俺はそれを邪魔しないように、少し離れたところでぼんやりとしていた。
すぐ近くには知り合いの姿も見えないし、あまり婚約者から離れて、はぐれても困る。
だからドリンクを片手に何となく会場を眺めていると、元婚約者のミシュリアの姿が目に入った。
元気そうでほっとする。
婚約の解消を申し出た後、引きこもってしまったと聞いていたから。
その後、すぐに新しい婚約者ができたらしいと聞いて、知人からちらほら目撃情報も入るようになった。
新しい婚約者と仲よく出かけていると。
そう話に聞いてはいたけれど、実際に元気そうな彼女の姿を見て安堵した。
俺は別に、ミシュリアのことが嫌いだった訳ではない。新しい婚約者のレインと出会わなければ、きっと何の疑問もなく彼女と結婚していただろう。そして普通の夫婦になっていた筈だ。
けれど俺は、レインと出会ってしまった。
夜会で友人数人と話していた際、たまたまそこにいた女性。
友人の知り合いの婚約者。
初めて目が合った瞬間、心臓を撃ち抜かれたような衝撃を受けた。一言二言、言葉を交わすと、心臓が狂ったように脈打った。
ほんの一瞬話しただけ。
その日はそれだけだったのに。
その後、ふとした弾みに何度も彼女のことを思い出した。それこそ、当時婚約者だったミシュリアといる時でさえ。
これが恋なのかと、そう思った。
けれど俺にもレインにも婚約者がいたから、彼女と結ばれることはないだろうと思っていた。
彼女と俺の人生が交わることはないだろうと。
たとえこれが恋だとしても、所詮は数年もすれば消え失せる幻だと、そう思おうとしていたのに…。
その数日後に街に出た時、レインが柄の悪そうな男たちに囲まれているのを見てしまった。
気がついたら、彼女と男たちの間に割って入っていた。
何を隠そう、俺はひ弱なボンボン育ちだ。荒事にも揉め事にも慣れてはいない。
けれど逃げ出すなど論外だった。
緊張しながらも話を聞くと、どうやら彼女の侍女の荷物が男の一人に当たって、彼が手に持っていた飲み物が服にかかってしまったらしい。彼のシャツには、大きく茶色い染みができてしまっていた。
彼女はどうしたらいいのかわからずオロオロしていて、侍女はそんな主人を大の男たちから守ろうと必死で、相手の話を碌に聞いていなかった。どうやらいちゃもんをつけられたと、勘違いしているようだった。
彼女の侍女が彼らに迷惑をかけたのは事実のようなので、ひとまず謝罪してドリンク代とシミが落ちなかった時の為に服代も渡した。すると、意外にもあっさり怒りを収めて「次から気をつけろよ!」と去って行った。
見かけによらず冷静な相手でよかった。
震えそうになる手をぎゅっと握って彼女を見ると、彼女は涙目で俺を見上げていた。その可憐な様に、思わず呼吸が止まる。
「…ありがとうございます…もう…私…どうしたらいいのかわからなくて…っ…」
震える彼女をそのままにはしておけず、近くの喫茶店へと誘った。
そして彼女を落ちつかせようと色々バカな話をしていたら、彼女が不意にクスリと笑った。
彼女に会ってから、何度目かの衝撃。
この笑顔を、自分だけのものにしたい
その瞬間、そう思ってしまった…。
それでもその日は、何の約束もせずに別れた。彼女は他の男の婚約者で、俺にもミシュリアがいるのだから。
けれどその次の夜会で、たまたまミシュリアと離れていた時に彼女を見かけてしまった。目が合って、引き寄せられるように声をかけ、気づいたら一緒に街へ出かける約束を交わしていた。
「お礼がしたい」と言われたから。
礼を断るなんて無粋な真似はできない。そう自分に言い訳して。
それでも、後ろめたさは確かにあった。
そうした偶然が重なるうちに、俺の中で彼女の存在が大きくなりすぎてしまった。もう何をしていても何を見ても、レインに結びついてしまう。
…こんな気持ちでミシュリアと結婚など、とてもできない。
それに…レインが他の男のものになることが、どうしても耐えられなかった。
それで遂に、ミシュリアとの婚約を解消した。申し訳なさはあったけれど、もうどうしようもなかった。
その後一時期、ミシュリアの父親には会うたびに凄い目で睨まれた。
けれど最近は、上機嫌で素通りされる。そして俺のすぐ近くで「うちの婿殿」の自慢話を始められる。
…これは仕方がないので、甘んじて受け入れている。
そんな経緯があったから、ミシュリアが元気そうでよかった。
…俺が言えた立場ではないけれど。
しばらく穏やかな気持ちで彼女を見ていたら、そのすぐ隣からとんでもなく鋭い視線が飛んできた。
ミシュリアの新しい婚約者。
その彼が、殺気立った目を俺に向けていた。慌てて愛想笑いを浮かべると、彼は自分の身体でミシュリアを俺から隠すようにして背を向けた。
ほっと息を吐く。
見ていただけで、そこまで怒らなくても…
一瞬、決闘でも申し込まれるかと思った。
…ミシュリア、大事にされてるんだな。
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こんな感じで!
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