完結)余りもの同士、仲よくしましょう

オリハルコン陸

文字の大きさ
上 下
19 / 27
オマケ

夫とお出かけ

しおりを挟む
ジェイが劇を観に行こうと誘ってくれた。

結婚してからも、ジェイは時々こうして二人きりのデートに誘ってくれる。昼間は彼が忙しいので、大抵は夜の回に。

昼間と違って、夜の観劇は社交目当てに来る人も多い。余裕を持って劇場に着いて、開演までロビーで過ごすのだ。

必然的に、ドレスコードもそれ用のものになる。もちろん化粧もそれに合わせる。
こんな時、つくづくマリーがいてくれてよかったと思う。マリーの手にかかれば、普通顔の私も夫の隣に立っても遜色のない女に変われるから。

後は気合いと仕草だ。


仕草といえば、嫁いでからジェイにお願いしてマナーの先生を雇ってもらった。ジェイが教わったのと同じ先生を。
だって前々から、ジェイの動きは綺麗だと思っていたから。ジェイは「厳しいぞ」と顔をしかめていたけれど。

そして来てくれた人は、年配の、けれどとても所作の美しい女性だった。
初めて会った時に「ジェイと対になれるような、美しい動きをマスターしたいんです」と伝えたら「よい心意気です」と満足そうに頷かれた。
「心がけ」じゃなくて「心意気」という言葉選びに、お父様と通じるものを感じたのは内緒だ。

ともかく、どうやらそれで気に入られたらしく、先生の心情的にはとても優しく教えてくれたらしい。
…私の主観ではめちゃくちゃスパルタだったけど…。

そんな訳で、仕草には結構自信がある。なにせあの先生の仕込みだ。

因みにそのマナーの先生とは、今でも時々会ってお茶をしたりしている。厳しく動きをチェックされながら…。

…うん、フォローアップは大事。
特に動作なんて注意してくれる人がいないことだから。
それに先生は昔のジェイのことを話してくれるので、それを聞くのもとても楽しみなのだ。
ジェイは少し嫌がるけれど。


ええと…。
そんな訳で、仕事モードで他の人と話すジェイの隣で微笑んでいるのが、今日の私のお仕事だ。
時々「お綺麗な奥様ですね」とお世辞を挟んでくれるのに笑って返しながら、心の中でマリーと先生にお礼を言う。


そんな気の張る社交も、開演を知らせるベルが鳴れば終わる。
ボックス席だし、そもそも劇の最中に話しかけるような無粋な人はいない。それが許されるのは、劇場が火事か自宅が火事かくらいの時だ。
だから、ゆったりとした気分で劇を楽しむ。

時々、ジェイはどんな顔で劇を観ているのか気になってこっそり視線をやると、何故かバッチリ目が合ってしまう。
「どうした?」というように微笑まれて、慌てて「なんでもありません」と首を横に振る。「劇よりあなたのことが気になりました」なんて言えない。
折角連れてきてもらっているのだし、劇もちゃんと面白いのだから。

それにしても、ジェイは相変わらず勘がいい。私がジェイの方を見ると、いつもこちらを見ている。
おかげで、彼が誰かと話している時くらいしか、彼のことをこっそり観察できない。


劇が終わると、そのまま馬車に乗って帰る。
終わってからもロビーで交流する人は多いけれど、私はそこまで社交が好きではないし、ジェイも別にいたがらない。それにできれば子どもたちにおやすみのキスをしたい。

だから劇の感想は、馬車の中で語り合う。
綺麗に舗装された道のおかげで、あまり揺れないから馬車の中も快適だ。

結婚前と変ったことといえば、感想を語り合う場所と、隣同士で寄り添って座って、手を繋ぎながら話す、ということくらいだろうか。

こんな風に、結婚してからも彼と仲よくしていられるのがとても嬉しい。

しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

結婚5年目の仮面夫婦ですが、そろそろ限界のようです!?

宮永レン
恋愛
 没落したアルブレヒト伯爵家を援助すると声をかけてきたのは、成り上がり貴族と呼ばれるヴィルジール・シリングス子爵。援助の条件とは一人娘のミネットを妻にすること。  ミネットは形だけの結婚を申し出るが、ヴィルジールからは仕事に支障が出ると困るので外では仲の良い夫婦を演じてほしいと告げられる。  仮面夫婦としての生活を続けるうちに二人の心には変化が生まれるが……

婚約者を交換しましょう!

しゃーりん
恋愛
公爵令息ランディの婚約者ローズはまだ14歳。 友人たちにローズの幼さを語って貶すところを聞いてしまった。 ならば婚約解消しましょう? 一緒に話を聞いていた姉と姉の婚約者、そして父の協力で婚約解消するお話です。

伯爵令嬢の苦悩

夕鈴
恋愛
伯爵令嬢ライラの婚約者の趣味は婚約破棄だった。 婚約破棄してほしいと願う婚約者を宥めることが面倒になった。10回目の申し出のときに了承することにした。ただ二人の中で婚約破棄の認識の違いがあった・・・。

殿下が私を愛していないことは知っていますから。

木山楽斗
恋愛
エリーフェ→エリーファ・アーカンス公爵令嬢は、王国の第一王子であるナーゼル・フォルヴァインに妻として迎え入れられた。 しかし、結婚してからというもの彼女は王城の一室に軟禁されていた。 夫であるナーゼル殿下は、私のことを愛していない。 危険な存在である竜を宿した私のことを彼は軟禁しており、会いに来ることもなかった。 「……いつも会いに来られなくてすまないな」 そのためそんな彼が初めて部屋を訪ねてきた時の発言に耳を疑うことになった。 彼はまるで私に会いに来るつもりがあったようなことを言ってきたからだ。 「いいえ、殿下が私を愛していないことは知っていますから」 そんなナーゼル様に対して私は思わず嫌味のような言葉を返してしまった。 すると彼は、何故か悲しそうな表情をしてくる。 その反応によって、私は益々訳がわからなくなっていた。彼は確かに私を軟禁して会いに来なかった。それなのにどうしてそんな反応をするのだろうか。

近すぎて見えない

綾崎オトイ
恋愛
当たり前にあるものには気づけなくて、無くしてから気づく何か。 ずっと嫌だと思っていたはずなのに突き放されて初めてこの想いに気づくなんて。 わざと護衛にまとわりついていたお嬢様と、そんなお嬢様に毎日付き合わされてうんざりだと思っていた護衛の話。

【完結】愛くるしい彼女。

たまこ
恋愛
侯爵令嬢のキャロラインは、所謂悪役令嬢のような容姿と性格で、人から敬遠されてばかり。唯一心を許していた幼馴染のロビンとの婚約話が持ち上がり、大喜びしたのも束の間「この話は無かったことに。」とバッサリ断られてしまう。失意の中、第二王子にアプローチを受けるが、何故かいつもロビンが現れて•••。 2023.3.15 HOTランキング35位/24hランキング63位 ありがとうございました!

声を取り戻した金糸雀は空の青を知る

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「大切なご令嬢なので、心して接するように」 7年ぶりに王宮へ呼ばれ、近衛隊長からそう耳打ちされた私、エスファニア。 国王陛下が自ら王宮に招いたご令嬢リュエンシーナ様との日々が始まりました。 ですが、それは私に思ってもみなかった変化を起こすのです。 こちらのお話には同じ主人公の作品 「恋だの愛だのそんなものは幻だよ〜やさぐれ女騎士の結婚※一話追加」があります。 (本作より数年前のお話になります) もちろん両方お読みいただければ嬉しいですが、話はそれぞれ完結しておりますので、 本作のみでもお読みいただけます。 ※この小説は小説家になろうさんでも公開中です。 初投稿です。拙い作品ですが、空よりも広い心でお読みいただけると幸いです。

公爵令嬢の婚約解消宣言

宵闇 月
恋愛
拗らせ王太子と婚約者の公爵令嬢のお話。

処理中です...