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接近

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彼の家の馬車に揺られて、屋敷まで帰ってきた。
彼にエスコートされ、玄関までたどり着く。…たどり着いてしまった。

少し寂しい。
別れの瞬間はいつも…。
名残惜しく彼を見上げると、優しく微笑まれた。

「今日もとても楽しかった。また近いうちに」

「はい」

いつもの台詞。
でも嬉しい。
嬉しさにちょっとはにかみながらも、馬車に戻る彼を見送ろうとしたのだけれど、何故か彼は動かない。じっと私を見ている。

何か言い忘れたことでもあるのだろうか?

首を傾げた私に、彼が一歩近づいた。
驚く間も無くふわりと抱きしめられる。そしてこめかみに柔らかい何かが触れる感触と、ちゅっという音。

「っ!!!」

息を飲む。
彼はくるりと踵を返すと、大急ぎで馬車に向かって去っていく。

「おやすみ」

そう言い残した彼の頬は、玄関に灯る光に照らされて赤く見えた。

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