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オマケ
王様の成人パーティー (王様vs舅)
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学園を卒業した王様が成人した。
国王の成人ということで、今日は王宮で盛大なパーティーが開かれている。国内外から、多くの貴族や使者が招待された。
だが、純粋に王様を祝いに来た人間は少ない。大半は、重要人物の集うこの機会を利用するのが主目的だ。
でもそれも仕方のないこと。王侯貴族のパーティーなどそんなものだ。
今、王様と話しているのは騎士団長だ。彼は、王様を祝う為に来た人間の一人だ。王様の剣の師匠だからか、随分と親しげに見える。国防の要たる彼が王様側だと見て取れるのは、かなり心強いものだ。
摂政はその光景を横目に見て、ふんと鼻を鳴らした。
剣の腕は知らんが、王は数年前に比べて随分身体つきが逞しくなったな。良いことだ。
ひ弱な王など話にならんからな!
…王が自分から鍛えて欲しいと言いに行ったらしいが…まあ、そこは評価してやらんこともない。
だがどうせ、賢く美しく完璧な我が娘の入れ知恵があったに決まっている!おかげで騎士団長とも近しくなれて良かったじゃないか。
あの真面目な騎士団長が王家への忠誠心を失くすとも思えないが、それでも個人的に慕われて悪いことはない。それも含めて娘に感謝しろ!
そんな雑念まみれにチラチラと見ていたが、王様が騎士団長と話し終えると近づいた。
丁寧に一礼し、手に持ったグラスを掲げる。
「陛下、本日はおめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
王の風格というのだろうか。
最近そんなものを漂わせ始めた王が憎々しーー
いや違う。うちの娘の婿ならば、これくらいは当然だ。こんなことを考えていたと知られたら、また妻に頭を叩かれてしまう。…いや、妻に叩かれるのはやぶさかではないが…。
摂政がそんなどうでもいい事を考えていると、王様がため息を吐いた。
「アレは、どうしたものかな?」
王様が視線をやった先にいたのは、隣国の大使だった。今我が国の貴族たちにちょっかいをかけてる真っ最中の。
一応友好国ということになっている国に「是非ともお祝いを述べたい」と言われれば、出席を断る訳にもいかない。
そんな訳で、その男は王様を祝うパーティーに堂々と出席して、本人を蹴落とす悪巧みに励んでいた。
「あの程度、どうということもありますまい」
王様がしっかりしていれば、靡く貴族もいないのだから。
摂政が肩をすくめると、王様は再度ため息を吐いた。
「そう言えるおまえが羨ましいよ」
…なんだ。随分弱気だな。
ちょっとイライラする摂政。
「自信がおありでないので?」
ニヤリと笑ってみせる。
しかし目はギラリと光って王様を射抜いた。
この程度で蹴つまずくなど許さんぞ。
何しろ王様は、摂政の娘の婿なのだ。頼りない男に娘を預けておくなど冗談ではない。
「そうではないのだが…」
口ごもり、眉を下げる王様。
歓談時間中の二人きりの会話とはいえ、随分と情けない姿を見せるものだ。
摂政は、荒く鼻息を吐いた。
「ふん。その手のことに詳しい者を、後で手配致しましょう。しっかり勉強されると宜しい」
そう言って一礼し、サッとその場を辞する。
そういうのが得意なのは…トニー卿とルドルフ卿か。ルドルフ卿は、確かさっき見かけたな。
後日呼び出して…などまだるっこしい事はしない。折角この場にいるのだから、話を通してしまうつもりだった。
早速教師の手配に向かう摂政を、王様は嬉しそうな顔で見送る。
それに気づいた摂政が、途端に渋い顔になった。
やめろ。これも全部愛する娘の為だ。おまえの為じゃない!感謝の視線なんか向けるんじゃない!
プリプリしながら視線を走らせ、見つけたルドルフ卿の元に真っ直ぐ向かう。その視界の端に、笑顔で別の貴族と話し始めた王様が映った。
さっきより、ずっといい表情だ。
そのことにほっと息を吐く。
そしてほっとしてしまった自分に気づいて、摂政は胸の中でゴニョゴニョと言い訳した。
………別に王をもう一人の息子のようになど思ってない!一応。一応義理の息子ではあるが。
最近成長が目覚ましいとか、将来が楽しみだとか全然思ってない!
そして気をとりなおすと、少しぼんやりとしていたルドルフ卿ににこやかに話しかけた。
「こんばんは。良い夜ですな」
彼はやや反王寄りだが、この機会に取り込んでしまおう。
そんな事を思いつつ。
王様が成人したので、そろそろこういった回りくどい手を増やしていく必要があるのだ。
あまり摂政が前に出過ぎると、王様が侮られてしまうから。
全く。成人したとはいえ、まだまだ手のかかる
王様の為に動く摂政の口元は、楽しそうに緩んでいた。
国王の成人ということで、今日は王宮で盛大なパーティーが開かれている。国内外から、多くの貴族や使者が招待された。
だが、純粋に王様を祝いに来た人間は少ない。大半は、重要人物の集うこの機会を利用するのが主目的だ。
でもそれも仕方のないこと。王侯貴族のパーティーなどそんなものだ。
今、王様と話しているのは騎士団長だ。彼は、王様を祝う為に来た人間の一人だ。王様の剣の師匠だからか、随分と親しげに見える。国防の要たる彼が王様側だと見て取れるのは、かなり心強いものだ。
摂政はその光景を横目に見て、ふんと鼻を鳴らした。
剣の腕は知らんが、王は数年前に比べて随分身体つきが逞しくなったな。良いことだ。
ひ弱な王など話にならんからな!
…王が自分から鍛えて欲しいと言いに行ったらしいが…まあ、そこは評価してやらんこともない。
だがどうせ、賢く美しく完璧な我が娘の入れ知恵があったに決まっている!おかげで騎士団長とも近しくなれて良かったじゃないか。
あの真面目な騎士団長が王家への忠誠心を失くすとも思えないが、それでも個人的に慕われて悪いことはない。それも含めて娘に感謝しろ!
そんな雑念まみれにチラチラと見ていたが、王様が騎士団長と話し終えると近づいた。
丁寧に一礼し、手に持ったグラスを掲げる。
「陛下、本日はおめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
王の風格というのだろうか。
最近そんなものを漂わせ始めた王が憎々しーー
いや違う。うちの娘の婿ならば、これくらいは当然だ。こんなことを考えていたと知られたら、また妻に頭を叩かれてしまう。…いや、妻に叩かれるのはやぶさかではないが…。
摂政がそんなどうでもいい事を考えていると、王様がため息を吐いた。
「アレは、どうしたものかな?」
王様が視線をやった先にいたのは、隣国の大使だった。今我が国の貴族たちにちょっかいをかけてる真っ最中の。
一応友好国ということになっている国に「是非ともお祝いを述べたい」と言われれば、出席を断る訳にもいかない。
そんな訳で、その男は王様を祝うパーティーに堂々と出席して、本人を蹴落とす悪巧みに励んでいた。
「あの程度、どうということもありますまい」
王様がしっかりしていれば、靡く貴族もいないのだから。
摂政が肩をすくめると、王様は再度ため息を吐いた。
「そう言えるおまえが羨ましいよ」
…なんだ。随分弱気だな。
ちょっとイライラする摂政。
「自信がおありでないので?」
ニヤリと笑ってみせる。
しかし目はギラリと光って王様を射抜いた。
この程度で蹴つまずくなど許さんぞ。
何しろ王様は、摂政の娘の婿なのだ。頼りない男に娘を預けておくなど冗談ではない。
「そうではないのだが…」
口ごもり、眉を下げる王様。
歓談時間中の二人きりの会話とはいえ、随分と情けない姿を見せるものだ。
摂政は、荒く鼻息を吐いた。
「ふん。その手のことに詳しい者を、後で手配致しましょう。しっかり勉強されると宜しい」
そう言って一礼し、サッとその場を辞する。
そういうのが得意なのは…トニー卿とルドルフ卿か。ルドルフ卿は、確かさっき見かけたな。
後日呼び出して…などまだるっこしい事はしない。折角この場にいるのだから、話を通してしまうつもりだった。
早速教師の手配に向かう摂政を、王様は嬉しそうな顔で見送る。
それに気づいた摂政が、途端に渋い顔になった。
やめろ。これも全部愛する娘の為だ。おまえの為じゃない!感謝の視線なんか向けるんじゃない!
プリプリしながら視線を走らせ、見つけたルドルフ卿の元に真っ直ぐ向かう。その視界の端に、笑顔で別の貴族と話し始めた王様が映った。
さっきより、ずっといい表情だ。
そのことにほっと息を吐く。
そしてほっとしてしまった自分に気づいて、摂政は胸の中でゴニョゴニョと言い訳した。
………別に王をもう一人の息子のようになど思ってない!一応。一応義理の息子ではあるが。
最近成長が目覚ましいとか、将来が楽しみだとか全然思ってない!
そして気をとりなおすと、少しぼんやりとしていたルドルフ卿ににこやかに話しかけた。
「こんばんは。良い夜ですな」
彼はやや反王寄りだが、この機会に取り込んでしまおう。
そんな事を思いつつ。
王様が成人したので、そろそろこういった回りくどい手を増やしていく必要があるのだ。
あまり摂政が前に出過ぎると、王様が侮られてしまうから。
全く。成人したとはいえ、まだまだ手のかかる
王様の為に動く摂政の口元は、楽しそうに緩んでいた。
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