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ほほう。あの噂は本当だったか。

「…どなたです?」

興味深々な態度をわかりやすく作って尋ねる。
カレン公爵令嬢はチラリと笑うと、もったいぶって扇子を揺らした。

おっと、焦らしますか。

「教えてくださいよー」

これ、プロの報道見て憧れてたやつだ。
こういう八百長染みたやり取り、やってみたかったんだよね。

「どうしようかしら?」

ふふっと笑うカレン公爵令嬢。

「お願いしますよー」

「そうねえ」

焦らすなあ、もう!
く~!楽しい~!

思わず本気でウキウキしてしまう。
けれど、そんな楽しい時間に水を差す無粋な輩がいた。

「何だと!?俺と別れてたった半年で、もう新しい相手がいるだと!?ふざけるな!この尻軽が!」

婚約破棄からノータイムで新しい婚約者を紹介した、超絶尻軽第一王子だ。

許すまじ。
ああいうお決まりのやり取りするの、ずっと憧れてたのに!

カレン公爵令嬢は一転、笑みを消すともの凄く冷たい目で第一王子を見た。

「とても御断りなどできない方からのお申し出でしたので」


っ!やっぱりか!


その言葉に、意識が切り替わる。
マイクを握る手に力がこもって、ミシリと音がした。
おっと、いけない。

「というと、やはりお噂の?」

割り込んでみると、カレン公爵令嬢は楽しそうに微笑んでくれた。

「あら、噂になってるの?恥ずかしいわ」

噂って言っても、耳の早い界隈だけですけどね。
現に会場の生徒の大半は首を傾げてるし、王族なのに情報に疎そうな第一王子は

「っ!誰だ!俺の女に手を出す奴は!」

と吠えた。
カレン公爵令嬢が心底嫌そうな顔になる。

「あなたの女になった覚えは一度もございません」

「何だと!?俺の婚約者だっただろうが!」

「婚約者という公的な立場であって、俺の女などという俗なものではありませんわ。それにとうの昔に終わった話です」

おー、きついきつい。
やっぱ私、この人好きだわ。

「どこのどいつだ!まあ、たとえ婚約していようが、次期国王のこの俺が妃にと望んでやっているんだ。もちろんそんな奴との婚約は破棄するよな?そしてありがたく俺と再び婚約をーー」


「御断りしますよ。兄上」


スッと人だかりから出てきたのは第二王子だった。
ちなみに第一王子は第一側妃の子ども、第二王子は第二側妃の子どもだ。
彼は第一王子のほんの数日後に生まれた二人目の王子。
王太子である第一王子に遠慮してか、普段こういう場所で声を上げるような人ではなかった筈だけれど…

カメラのレンズを向けて、下から上へと舐めるように撮影する。第一王子と違って、美男子だし気品があるんだよね。
…今日は自分から前に出てきたから、撮ってもいいよね?

撮り甲斐のある被写体に興奮して夢中で撮影していたら、レンズに向かってにっこり微笑まれた。

ファンサービスもバッチリか!

カレン公爵令嬢の隣に立ち、親しげに腰に手を回すと第二王子は告げた。


「カレンの新しい婚約者は私ですよ、兄上」



やっぱりかー!!!



興奮に、カメラの画面がブレる。
って今気づいたけど、もしかしてこれ私の独占スクープ!?


二人の王子に奪い合われる、美しき公爵令嬢!


無難だけど大衆受けしそうなタイトルが頭の中で踊った。
報道者魂野次馬根性が滾るっ!
これは責任を持って記録媒体フィルムに収めないと!

…それに…この流れなら、あっちの噂も本当かもしれないし…。

特大スクープの予感に、心臓がドクンドクンと脈打つ。
信憑性は低いと思ってたんだけど、カレン様が絡むとなるとーー





「この国を治める者の傍らに、彼女以上に相応しい女性はいませんから」





はい、キタァーーー!!!!!




周囲が一瞬静まり返り、それから大きくどよめいた。
それはそうだろう。
だって今、第二王子は自分が次期国王だと宣言したのだから。
皆、それに気づいて大いにざわめきーー

「ああ。だからもう一度俺の婚約者にしてやると言っている」



…若干一名、理解できていないアホがいた。



◇  ◇  ◇





場がもう一度静まりかえった。
今度の沈黙は痛いほどだ。
会場の心は一つ。


おい、この状況を理解できていないバカがいるぞ


しかもそいつは当事者だ。
静かにざわめくパーティー会場。こんなわかりきったツッコミ、誰も入れたくない。

第二王子はこの状況にも動じずに、パン!と大きく手を打つと皆の注目を集めた。

「さあ、パーティーを続けよう」

落ち着いたその声に、皆こう思った。



そうだ。聞かなかった事にしよう



弦楽団が演奏を再開し、騒ぎの中心にできていた輪が崩れる。
その流れから、一人取り残される第一王子。

「っ…おいっ!だから俺の婚約ーー」

「後は頼むよ?」

第二王子が第一王子の侍従に目配せした。コクリとそれに頷き、第一王子を促す侍従。

「さ、殿下こちらへ」

慣れている。
第一王子の扱いに慣れている。
…ちょっと気の毒だ…

「おい!何で俺が、今このタイミングで去らねばーー」

喚きながらも第一王子は、会場から連れ出されて行った。
それを見送った第二王子が、クルリとこちらを見た。思わず軽く後退る。

「君、王宮から正式な発表があるまで、その記録は表に出さないように」

…次期国王から直々に釘を刺されてしまった。
ネタは記者の魂なのに。

つい恨みのこもった視線を返すと、

「二、三日中には発表するから」

と苦笑されてしまった。
まあそれくらいなら仕方ないか。
国家権力に逆らってもいい事ないし。

渋々頷いた。

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