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本編

恋9

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朝、目が覚めると彼女が静かに泣いていた。
声を殺して。

衝動的に押し倒した。

「誰のことを想って泣いてるの?」

彼女の顔を上から見下ろす。
涙で濡れた顔。

僕のベッドで、他の男のことを想って泣くなんてっ…

つい、肩を握った手に力がこもる。彼女の顔が痛みに歪んだ。

「っ…ジョーゼフ様の…ことをっ…」

信じられずに、静かに泣き続ける彼女の唇を塞いだ。彼女はそれを受け入れる。なんの抵抗もせず。

嘘の気配が感じ取れなくて戸惑った。

「どうして泣くの?」

唇を離してさっきより穏やかに聞いても、彼女の涙は止まらない。
涙を零し続ける彼女と視線が絡んだ。
僕を見つめる切なげな瞳。

不意に気づいた。
無意識に除外していた可能性。

「もしかして、僕のことが好き?」

「っ…」

彼女は目を見開いて、思い切り顔を逸らした。
でも、その頬は真っ赤で。横を向いて顔を背けたって無駄なくらいに真っ赤で。
だって首まで赤くなってる。

「ねぇ…僕のことが…好きなの?」

ゾクゾクしながら指の背で頬を撫でた。そっぽを向いた彼女の真っ赤な頬を。

泣くほど僕のことが好き?
そんな顔しちゃうくらい?

彼女にそんなふうに思ってもらうには、もっとずっと時間がかかると思ってたのに…。
……本当に?

「…申し訳…ありません…」

目を伏せた彼女から返ってきた小さな謝罪は、肯定にしか聞こえなかった。

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