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はあ…
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「カレン!今日、今をもって君との婚約を破棄する!」
決めポーズで突然私に向かって叫び出したのは、まぁ一応知っている男だった。けれどその内容にポカンとして彼の顔を見つめ返した。
真っ昼間の学園の噴水でそんなことを言い出した男に、周囲の視線も集まる。
サラサラした金色の髪。
透き通った青い切れ長の瞳。
スッとした鼻筋に薄い唇。
背は高く身体は引き締まっている。
それによく通る声。
十人中十人の女性がカッコいいと認め、十人中八人の男性が舌打ちしそうな、そんな容姿。
そんな彼に唐突に予想外のことを言われ、私は困ったように首を傾げてみせた。
「どういうことです?」
彼は芝居掛かった仕草でフッと笑うと前髪をかき上げた。
…ここまででわかると思うが、彼はナルシストだ。
「どうもこうもない!私は君に愛想が尽きたのだよ!」
声を張って腕を拡げて。
…あんたはどこの舞台役者だ。
思わず内心突っ込みを入れつつ、あくまで淑女として対応する。
「ちょっと意味がわかりません」
「ッフッ!そんなだから君に愛想が尽きたと言うのだよ!」
…本当にもう、帰っていいかな?
っていうか教室戻りたい。
このバカ、…あ、バカって言っちゃった。は、成績順のクラス分けのおかげで、私とは大分離れたクラスなのだ。
わざわざついては来ないだろう。
「よくわかりませんので、要点をまとめて書面でご連絡願えますか?」
まだるっこしいやり取りが面倒になってきた私は、まだ食べかけだったお弁当を包み直して噴水脇のベンチから立とうとした。
これ以上ここでは食べられそうにないし、このまま彼に付き合っていたらお昼休みが終わってしまう。
仕方ない。教室で食べよう。
せっかくいい天気で、外で食べるのが気持ちよかったのに…。
ため息を吐く私に、彼が食ってかかる。
「なんだその態度は!そんなだから愛想が尽きたとーー」
なんかまだ喚いてる。
どうでもいいけど相変わらずボキャブラリー少ないな。さっきから「愛想が尽きた」しか言われてない。
まぁ聞くに堪えない罵倒語の羅列よりはマシか
彼への評価を上方修整した。
「具体的かつ簡潔にお願いします。お昼休みが終わってしまいますので」
ベンチから立ち上がり、ふぁさっと栗色の長い髪を手で払ってから、内心眉をひそめた。
しまった。彼に釣られて芝居掛かった仕草をしてしまった
全く、長らくこんなのと婚約者だったから…
内心の苛立ちを抑え込んで、彼を静かに見つめ返す。
ちょっと視線に殺気がこもってしまったかもしれないが、それはご愛嬌だ。
僅かに後退った彼に告げる。
「あなたとの婚約は、一年以上前に解消されています。人の話を聞かないあなたは、気づいていなかったようですが」
一年以上婚約破棄に気づかないとか、どんな間抜けだ
スラスラ出てくる内心の罵倒が懐か…しくない。
彼と婚約させられていた時は、ほぼ毎日のようにこんな感じだったなと思い返す。
もう彼が婚約者じゃなくて本当によかった。
成長してもバカの治らない彼に見切りをつけて、婚約を解消してくれた父に感謝する。
ポカンと口を開けている彼は無視して、隣を見た。
私の今の婚約者。
背は小さくて可愛らしい感じでそして
「凄いね!流石僕のカレンだ!」
キラキラした目で見つめてくる、何故かこんな私に心酔しているちょっと変わった現婚約者。
うん、アレと比べれば随分マシだ。頼り甲斐があるかと言われると困るけれど、男の価値は頼り甲斐だけじゃない。
だいたい未だに口を開けて呆然としている元婚約者みたいな、自信だけはある泥舟に頼ったら身が滅ぶ。
「はい。行きましょうクリス」
少なくともクリスは、何も言わなくとも私に合わせてお弁当を包み直してこの場を去る準備くらいはできる。一年も婚約破棄に気づかない阿呆とは違う。
そう思うと自然と笑みがこぼれた。
そんな私をうっとりと見上げるクリス。
…こういうところは慣れないのだけれど…
落ち着かない気分を味わいつつも、連れ立ってその場を離れた。
背後でようやく我に返った元婚約者の取り乱した声や、野次馬の爆笑が聞こえるが、知ったことではない。
当分あの男とは関わりたくないと思う私の空いていた方の手を、クリスがそっと遠慮がちに握った。
決めポーズで突然私に向かって叫び出したのは、まぁ一応知っている男だった。けれどその内容にポカンとして彼の顔を見つめ返した。
真っ昼間の学園の噴水でそんなことを言い出した男に、周囲の視線も集まる。
サラサラした金色の髪。
透き通った青い切れ長の瞳。
スッとした鼻筋に薄い唇。
背は高く身体は引き締まっている。
それによく通る声。
十人中十人の女性がカッコいいと認め、十人中八人の男性が舌打ちしそうな、そんな容姿。
そんな彼に唐突に予想外のことを言われ、私は困ったように首を傾げてみせた。
「どういうことです?」
彼は芝居掛かった仕草でフッと笑うと前髪をかき上げた。
…ここまででわかると思うが、彼はナルシストだ。
「どうもこうもない!私は君に愛想が尽きたのだよ!」
声を張って腕を拡げて。
…あんたはどこの舞台役者だ。
思わず内心突っ込みを入れつつ、あくまで淑女として対応する。
「ちょっと意味がわかりません」
「ッフッ!そんなだから君に愛想が尽きたと言うのだよ!」
…本当にもう、帰っていいかな?
っていうか教室戻りたい。
このバカ、…あ、バカって言っちゃった。は、成績順のクラス分けのおかげで、私とは大分離れたクラスなのだ。
わざわざついては来ないだろう。
「よくわかりませんので、要点をまとめて書面でご連絡願えますか?」
まだるっこしいやり取りが面倒になってきた私は、まだ食べかけだったお弁当を包み直して噴水脇のベンチから立とうとした。
これ以上ここでは食べられそうにないし、このまま彼に付き合っていたらお昼休みが終わってしまう。
仕方ない。教室で食べよう。
せっかくいい天気で、外で食べるのが気持ちよかったのに…。
ため息を吐く私に、彼が食ってかかる。
「なんだその態度は!そんなだから愛想が尽きたとーー」
なんかまだ喚いてる。
どうでもいいけど相変わらずボキャブラリー少ないな。さっきから「愛想が尽きた」しか言われてない。
まぁ聞くに堪えない罵倒語の羅列よりはマシか
彼への評価を上方修整した。
「具体的かつ簡潔にお願いします。お昼休みが終わってしまいますので」
ベンチから立ち上がり、ふぁさっと栗色の長い髪を手で払ってから、内心眉をひそめた。
しまった。彼に釣られて芝居掛かった仕草をしてしまった
全く、長らくこんなのと婚約者だったから…
内心の苛立ちを抑え込んで、彼を静かに見つめ返す。
ちょっと視線に殺気がこもってしまったかもしれないが、それはご愛嬌だ。
僅かに後退った彼に告げる。
「あなたとの婚約は、一年以上前に解消されています。人の話を聞かないあなたは、気づいていなかったようですが」
一年以上婚約破棄に気づかないとか、どんな間抜けだ
スラスラ出てくる内心の罵倒が懐か…しくない。
彼と婚約させられていた時は、ほぼ毎日のようにこんな感じだったなと思い返す。
もう彼が婚約者じゃなくて本当によかった。
成長してもバカの治らない彼に見切りをつけて、婚約を解消してくれた父に感謝する。
ポカンと口を開けている彼は無視して、隣を見た。
私の今の婚約者。
背は小さくて可愛らしい感じでそして
「凄いね!流石僕のカレンだ!」
キラキラした目で見つめてくる、何故かこんな私に心酔しているちょっと変わった現婚約者。
うん、アレと比べれば随分マシだ。頼り甲斐があるかと言われると困るけれど、男の価値は頼り甲斐だけじゃない。
だいたい未だに口を開けて呆然としている元婚約者みたいな、自信だけはある泥舟に頼ったら身が滅ぶ。
「はい。行きましょうクリス」
少なくともクリスは、何も言わなくとも私に合わせてお弁当を包み直してこの場を去る準備くらいはできる。一年も婚約破棄に気づかない阿呆とは違う。
そう思うと自然と笑みがこぼれた。
そんな私をうっとりと見上げるクリス。
…こういうところは慣れないのだけれど…
落ち着かない気分を味わいつつも、連れ立ってその場を離れた。
背後でようやく我に返った元婚約者の取り乱した声や、野次馬の爆笑が聞こえるが、知ったことではない。
当分あの男とは関わりたくないと思う私の空いていた方の手を、クリスがそっと遠慮がちに握った。
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