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ある村人の話

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※※この話は少々不快な表現が含まれておりますので、ご注意ください※※



十数年前に、どこから来たのか美しい女が村に住まわせてほしいと現れた。様子を見れば女は身籠っており、哀れに思った当時の村長は娘を受け入れた。時が経ち、女は子を産んでそのまま死んだ。
 産まれた子供は愛らしい女の子だった。村長は自分の娘として育てることにしたが、流行り病で死んだ。 村長の叔母が引き取ることになったが、やはり病で死んだ。偶然ではあったのだろうが娘が忌み子として恐れの対象となるのは仕方がなかった。

――殺してしまおう。

 誰かが言った。けれど、誰が殺すかの話し合いになると、誰もが嫌がった。

――生贄にしたらいい。

村から見える険しい山の上には鬼が住まうと言う。鬼は人を食べる。特に若く美しい娘を好むのだ。そこで、年に一度若い娘を生贄として捧げることで、村は鬼のお膝元で生活を許されているらしい。鬼は確かに実在するが、生贄を捧げなくても村が襲われることは無かった。人の味に飽きたのかもしれない。だが、村は生贄を捧げることを止めはしなかった。この少ない時期には食物を捧げ、食糧難になれば口減らしをした。つまり村の都合で利用していた。ここ数年は人を捧げることはしなかった。
「赤子を捧げるのは難しいのではないか?」
「だが、誰が育てる。死ぬかもしれんのに」
「小屋を与えて、順番で世話をしたらいい。そこで赤子が死んだならそれはそれで仕方がない」
「世話の人員だって、働かない半端もんを使えばいいんだ」

 惨いことだ。生まれてすぐ母を亡くした赤子に罪はない。そう思っていても、声に出すことはできなかった。そうして生き延びた赤子は、汚れた姿でも形の良い顔立ちがわかるような美しい姿に成長した。これに危機感を覚えた村のやつらは、まだあどけない少女を生贄に出すことにした。年頃の息子を持つ親達が我が子をたぶらかされてはいけないと声を上げたのだ。忌み子が村から出ていくのを止めるものはいない。私だってそうだ。哀れには思うがわが身が可愛かった。
――可哀想に。
 そう声に出すことさえ躊躇った。

 最後の日。私は娘の詰め込まれた箱に釘を打った。金槌をぐいと押し付けられて私は戸惑った。けれどすぐに黙って釘を打ち付けた。私を囲む村人の冷たい目を恐れたからだ。

 運が悪い子供だった。私はそう思う事で、全てを忘れることにした。だがそれも、長くはもたなかった。娘を生贄にしたのち、女を探しているという男が現れたのだ。村の誰もが知らないと言い男を追い払ったが、男は納得した様子もなくじっとこちらを見つめて、酷く冷たい目で笑った。それからすぐに村を出て行ったが私にはあの男がまた村を訪れる気がしてならなかった。

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