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8.お怒りです

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「……あの、大和さん。これは一体」
「布団やな、他のなんかに見えるんか?」
 夜ご飯を終えた後、連れていかれたのはいつもの部屋ではなかった。そして大和さんは私を抱えたまま部屋の中に入り、布団の上に下ろしてくれた。目の前にあるのは確かに布団だ。そして二枚ある。色違いの落ち着いた赤と青。夫婦布団みたいに見えるが、それがぴったりとくっついている。
「これは……」
「今日から一緒に寝ることにしたから、慣れてな」
 にっこりと笑った大和さんには有無を言わせない迫力があった。

 迷子になった日。蘭さんの声が聞こえた後も私は部屋に戻ることも、食事の場所へ移動することもできずに土の上に座っていた。多分腰が抜けたのかもしれない。心臓も落ち着かなくてそのまま休んでいた。どうせ食事の時間には大和さんが迎えに来るのだ。部屋に私がいなければ探すだろう。ここは部屋からもそう遠くないから、すぐに気づいてくれるはずだ。だから、待っていてもいいだろう。なんてのんきに思っていたのが間違いだった。
「灯……ここで、何してるん」
 酷く冷たい声だった。
「えっと……、ちょっと歩きすぎちゃって休んでました」
 嘘はついていない。いつもより歩きすぎたのは事実だ。だけれど、プレッシャーと言うか重たい空気を感じて顔をあげられない。
「なあ、逃げようとしてたんと違うん?」
「えっ、どこに?」
 どこに。自分で発した言葉に驚いた。でも実際どこに逃げると言うのだろうか。私を生贄として差し出した村に戻るなんて死んでもごめんだ。いや、帰ったところで受け入れてもらえる気がしない。そもそも山の中を歩いているうちに動けなくなるだろう。前世に戻れると言うのなら、帰りたい。
「だって、私に帰る場所なんて……どうせ、死ぬんだったらここで食べられた方がまだ」
「……そんな顔せんといて。俺の勘違いやったならいい」
 頭をそっと撫でられる。なんだか悔しくて言葉が出なかった。私にとってここは帰ってくる場所だったのに。大和さんから見た私は、いつ逃げ出してもおかしくない存在だったのだろうか。だから、いつも部屋に迎えに来ていたのだろうか。
「大和さんの馬鹿あああ……」
「えっ……灯?なんで、お前が泣くんや」
 涙が出て止まらなかった。慌てた大和さんが私の顔を着物の袖で力任せに拭った。苦しくて、もがいたらまた勢いよく解放される。
「うっ…げほっ」
「あああ、ごめんな。なんや俺が悪かったから、もう泣かんで……その、心配したんや」
 わかるか。そう優しく言われて、私は仕方なく頷いた。心配して怒ってくれたと言うのなら、今はそれでいい。けれど、私は今後どうしたらいいのか。どうすればいいのかをちゃんと受け止めなきゃいけない。そう思った。
「あの、大和さん……お話があります」
「うん?まあ、後でな。とりあえず食べに行かんと蘭が怒るで」
 私の返事を待たずに抱き上げられて、連れていかれる。泣いたら確かにお腹が空いたので抵抗はしなかった。
「腹が減っては戦はできぬ」
 ぼそりと呟いた言葉に大和さんは不思議そうに首を傾げた。

 そんなことがあった後、食事を終えた私はこの部屋に連れてこられた。蘭さんが慌てた様に大和さんに何かを言っていた気がするけれど、何を話しているかまではわからなかった。
「寝るって、寝るだけですよね」
 確認、一応の確認だ。
「……寝る以外になんかあるん?」
 ふっと、色気たっぷりに笑った大和さんの破壊力はやばかった。数秒意識を手放した気がする。
「あ、ありません!」
 勢いよく布団に潜ると、大和さんの楽しそうな笑い声が聞こえた。
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