鳴り響くドンナーの街

空顎

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泣く街

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この街はいつもこうだ。

昼も夜も関係なく雨が降り続け、すぐに雷鳴が鳴り響いてはまたやってきた音にかき消される。その繰り返し。

もうここに来てかれこれ12年になる。
冷える肝も無くなってしまった。


そう思いながら纏 雄穂(まとい ゆうほ)は家を出た。この街で外を出歩くにはまず傘、これは必需品だ。これが無ければ365日間濡れるハメになる。
次に避雷用の首輪型デヴァイス。これは5年前から本格的に導入され始めたシロモノだが、確かな性能のようだ。皆がこの首輪を付けるようになってからは死亡事故がニュースであまり流れなくなったような気がする。


「今日は霙のち雷雨…鳴りだす前に家に帰れるといいのだけれど…」


そんな考えを口に出しながら彼女は席に着くなり、机に顔を伏せた。
ここ私立蘭葉高校(しりつらんばこうこう)はこの街唯一の共学校、そして普通科の学校である。他の高校では工学が主体なので普通科は極めて珍しい。
何故そこまで工学に力を入れるんだろうなぁ、とどうでもいい思考を巡らせている間にSHRが始まっている。いつもなら担任が小難しい話を喋り出す頃合いだが、と伏せたまま様子を伺ったがどうやら今日は違うようだ。

「本日より長らく休学していた生徒がこのクラスに復帰する!皆さんとはほぼ初対面になるので改めて自己紹介して貰うぞ~。雷堂!入れ!」

そう聞こえ顔を上げるとそこには端正な顔立ち、青い眼の男子が立っていた。

「雷堂 翔(らいどう かける)です。家の用事で休学させてもらってました!見たことない人ばっかりで仲良くなれるか不安も残りますが、早く馴染んでいきたいと思います!よろしく!」

とても爽やかな笑顔の自己紹介だったがそこから不意に微睡んでしまい、寝ぼけまなこを擦るころにはSHRが終わり閑散とした教室に取り残されていた。そういえば1限は移動教室だったっけ、とすぐに支度をして教室を出る。


ふと耳を澄ますと、予報外れの雷鳴が街に轟いていた。
ここは雨と雷の街、世銀(せぎん)。悲しみと怒りが氾濫する街____
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