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椿芽エーデルワイス

32話 危機は脱し平穏へ

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「ほらほらー、早く来てー!」

「椿芽、走るとコケるぞー!」

響が注意するものの、椿芽はお構いなしで先を走り出す。それを追いかけるように響が歩き出し、俺たちもそれについていく。

BBQエリアから少し歩いたところにある動物ふれあいコーナー。ここは椿芽と若狭さんが行きたがっていた場所だ。男子3人は文句ひとつ言わずついて行く。まあ、やらかし組には文句を言う権利なんてないけどな。

ふれあい動物村と書かれた看板が見え、俺たちは入口でスタッフさんの説明を受けて中へ入った。

「いろんな動物がいるね、朱音ちゃん!」

「そうだな。つ、椿芽!あれ見ろ!モルモットだ!」

「モルモット!?」

目を輝かせる2人は、モルモットがいるエリアへと一直線に向かう。そのテンションに若干圧倒されつつも、俺はエリア全体を見渡した。アルパカ、うさぎ、羊など、さまざまな動物がいて、それぞれ触れ合えるようフェンスや柵が工夫されている。

「お?」

ふと、小さな緑の小屋を見つける。そこには「餌やり200円」と書かれていて、俺は財布から小銭を取り出し、募金箱に400円を入れて餌袋を2つ手に取った。これを持って、みんなのいるところへ向かう。

「か゛わ゛い゛い゛……」

「椿芽、よだれ、よだれ!」

椿芽がモルモットの可愛さに完全にやられているのを、若狭さんが必死にフォローしている。俺はその様子を苦笑いで見つつ、手に持っていた餌袋を2人に差し出した。

「2人とも、餌やりのお菓子あっちで見つけたんだけど、どう?」

「え? いいの?」

「いいのか貰って……」

「まあ、さっきの詫びってことで。詫びにしては安すぎるものだけどな」

「ううん、ありがとう!」

「そうか。では受け取る。ありがとう」

詫びとしては大したものじゃないが、2人とも素直に受け取ってくれた。

「どーぞ……」

『厶キュキュ……プイプイ……』

椿芽は小さなスコップ状の餌やり道具でモルモットに餌をあげる。モルモットは小さな体を懸命に動かして、可愛らしく餌を食べていた。

「か゛わ゛い゛い゛……」

その姿に再び悶絶する椿芽。

「は゛あ゛あ゛……」

若狭さんも負けじと濁音まみれの声を漏らしながら、満足そうに餌をあげている。俺はその様子に思わず苦笑いした。餌袋を2人に渡して正解だったな。

「……ん?」

ふと、隣にいるはずの響がいなくなっていることに気づく。辺りをキョロキョロと見回すと、少し離れたところにいるのを見つけた。

「あ、いた」

その場を離れ、響がいる場所へ向かう。

「どうかしたか……?」

「……ん? ああ、こいつを見てた」

響が目を向けていたのは、うさぎだった。俺も横に並んで、そのうさぎを眺める。

「うさぎだな」

「ああ……。でさ、このうさぎの名前なんだけど」

「うん」

「みーくんって名前らしい」

「そうだな」

「いや、昔、俺のことをみーくんって呼んでた子がいたなって思い出してさ」

「神野の“か”でも響の“ひ”でもなく、“み”を選ぶとは。そいつ、なかなかのセンスだな」

「だよな……俺もそこ選ぶかって思ったわ」

その話をしていると――

ガタン!!

「うわ!! どしたの、朱音ちゃん!」

「な、なんでもない! コケただけだ……」

「なかなかダイナミックにコケたな……」

椿芽たちがこちらに向かってくる途中、若狭さんが盛大に転んだらしい。

「平気か……?」

響が心配そうに手を差し出す。

「き、気にしゅるな……!」

「噛んでるぞ……」

「う、うるさい!」

若狭さんは恥ずかしそうにしながらも響の手を取って立ち上がり、ジャージについた土を払い落としていた。

「まだアルパカとか羊とかもいるみたいだし、見て回ろうぜ」

俺は若干、若狭さんを気遣いながらも、この話題から早く逸らすべく提案した。


「おお……」

その後、小型犬がいる広場に立ち寄った俺は、何匹ものトイプードルやミニチュアダックスに囲まれ、餌を与えながら頭を撫でていた。やっぱり犬はいい。いや、犬は至高だ……。

「ねえ、悟くん」

「ん?」

ふと、椿芽がこちらに歩み寄ってきて声をかけてきた。

「ひーくん見なかった?」

「いや、またあいつどっか行ったのか……」

さっきも知らぬ間に別の場所へ行っていたし、まったく落ち着きのないやつだ。

「うん。それでね、朱音ちゃんもいなくて……」

「若狭さんも……?」

思わず眉をひそめる。あいつがどっか行くのはともかく、若狭さんまで行方不明とは意外だ。真面目で目立った行動をしないタイプだと思っていたけど、こういう場面で抜けるとはな……。

「2人でどこかに行くって感じでもなさそうだよな、あの組み合わせ」

「うん……」

椿芽が心配そうにうなずく。

「とりあえず、そこにいる鈴木も呼んで、どこ行ったか探すか」

「うん」

俺の提案に頷くと、椿芽は鈴木の方へ向かう。俺は犬を撫でていた手を止め、少し重い腰を上げた。

「ったく、なんだってこんなところで迷子みたいなことになるんだよ……」

小声でぼやきながらも、残りのメンバーで行方不明の2人を探すことにした。
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