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27話 RESTART
しおりを挟むなんとも言えない静寂。
何の音も聞こえないはずなのに、どこか心地よい感覚。奇妙だが、こんな感覚には覚えがある……。
「You dead!! やっちまったな、ボーイ!」
突然、耳元で甲高い声が響いた。俺はゆっくりと目を開けると――見覚えのある男の顔が目の前にあった。
「……アウチィ!?」
反射的に俺の右手が動いていた。パァンと乾いた音が空間に響く。
「いきなり叩く奴がどこにいる! ましてや私は神だぞ!」
目の前の存在は、以前にも会った“神”だった。ふざけた調子で怒りを露わにしているが、どこか余裕のある態度を崩さない。
「あ……ごめん、つい……」
俺は反射的だったとはいえ、やりすぎたかもしれないと素直に謝った。
「それよりもボーイ、私は言ったはずだろう?」
「……何を?」
俺が首を傾げると、神は肩をすくめて大げさなため息をついた。
「響ボーイのサポートだよ! 前に言いましたよネ!!!」
その言葉に、俺は思わず顔をしかめた。
「うぐぅ……」
「あんな話を聞いたら手助けしたくなるだろうが!」
憤慨する神に、俺はつい反論してしまった。
「ボーイ。話に流されやすいにもほどがありまーーす!」
少しバカにされたような口調に、俺は無意識に目をそらしてしまう。
「悪かったよ……」
「それより、椿芽ガールのあれは一体なんなんだ……!」
そうだ。死ぬ直前に見たあの光景――あの椿芽の姿が頭をよぎる。
「ボーイ、慌てなくても今から説明しまーす!」
神がパチンと指を鳴らす。すると、何もなかった空間に対面する形で豪華な王座のような椅子が二つ現れた。
「立ち話もなんですし座っちゃいましょうか」
そう促され、俺はその椅子に座った。
「彼女が一体何者なのか……」
「結論から言うと、椿芽ガールは天使デース」
「……」
「しかも彼女は天使の中でも、ある意味一番タチの悪い天使デース」
「タチの悪い……?」
「彼女は神創天使と言う天使デース」
「神創天使……?」
「神が創った天使ってこと」
その言葉に、俺は椅子から勢いよく立ち上がり、神に向かって詰め寄る。
「STOP!STOP!別に私が創ったわけではありませーん!」
「……」
納得はできないが、俺はまた椅子に座り直した。
「恐らく、大天使の誰かが勝手に創ったのでしょう……」
神は気の抜けた口調でそう言うと、続けた。
「神創天使、あれははるか昔、天使が悪魔たちとの決戦に備えて創られた兵器なのデース」
「兵器……?」
「実際に目にしてみた方がわかりマース」
神が再び指を鳴らすと、目の前に大きなビジョンが現れた。
「……」
俺はその光景に息を飲んだ。そこに映っていたのは――天使と呼ぶにはあまりにも異形の姿。それを見ただけで体が震えた。
「あれが、君を殺した椿芽ガールですよ」
「……!?」
あれが……椿芽……?そんな馬鹿な。
「響ボーイと君を殺して、完全に心を壊し本来の姿になったのでしょう……」
映像の中で、椿芽だった何かが暴れ回り、人々を無慈悲に蹂躙していく。その凄惨な光景に言葉を失う俺をよそに、神はビジョンを消した。
「本来、神創天使は自我を持ちまセーン。なので椿芽ガールの存在はおかしなものなのデス」
「……」
「しかし、この子に調べてもらった結果、とある事実が発覚しました」
神がそう言うと、空間に銀髪の少女が現れ、分厚い本を神に手渡した。神はその本をめくりながら話を続ける。
「Thanks! 椿芽ガールはボーイ、君と同じで一度死んでいるだ……」
「え……?」
「知っているはずだろ? 彼女は交通事故にあった、と」
その言葉に、俺は記憶の奥底にある椿芽の話を思い出す。
「でも……無傷だったって……」
「両親が即死する事故で無傷な方がおかしいと思いまセンか?」
神は静かに首を振り、言葉を続ける。
「ガールはその時死に、強く願ったのデス。『まだ死にたくない』と……」
「……」
「その時、天使が現れ、蘇らせると同時に神創天使の力を植え付けたのでショウ」
俺は言葉を失う。そんな過去が……。
「可哀想な椿芽ガールですネ……。悪魔と言われた彼女は天使となって生まれ変わったのに、辿る結末は悪魔そのもの……」
「……」
「悔やんでも仕方ありまセーン……。今は舞い戻り、この結末を覆すしかありまセーン」
神の言葉に俺は俯く。だが、決意を込めた言葉を紡いだ。
「なあ……椿芽が元の人間に戻ることってできないのか……?」
「残念ながら、私に戻す力はありまセーン」
「……」
「しかし、天使ならわかるかもしれまセーン」
「……!?」
「彼らは他にも響ボーイの近くに潜んでいるでしょう……」
神の言葉に、俺は僅かな希望を見出す。
「しかし今はこの事態を終息させる必要がありマース」
神は目を閉じて言った。
「ガールは君の後押しで一歩踏み出すどころか、百歩くらい踏み出してしまいました。それをひっくり返すのは大変なコトですが、やれますネ? ボーイ」
俺の選択が引き金となったこの事態……俺がやらなければ、誰がやる?
「……わかった」
「ではGood luck、ボーイ」
神の声と共に、周囲に不思議な渦が生まれ、俺の体を包み込む。
「大切な死に戻りはあと7回しかありまセーン……。今回みたいな使い方しちゃダメデース」
「……ん? ちょっと待て」
渦の中で立ち止まる。
「その話は聞いてない」
「へ?」
「死に戻りの回数制限は聞いてないぞ!!!!」
「Oh……そんなことは……」
「主、前回伝え忘れていたはずです」
横に立っていた銀髪の少女が冷静に言い放つ。
「おい」
「誰にでも忘れることはアルサ!!!」
「とりあえず、あんたシバいてから元の世界戻る……」
指を鳴らしながら神に歩み寄る俺を、神は慌てて止めにかかる。
「STOP!STOP!私、偉大な神ですよ!!!」
「知るかああああああああああああああああ」
俺の怒号が響き渡った。
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