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椿芽エーデルワイス

23話 校外学習へ行こう

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「……どれだ?」

トイレに行って出遅れた俺は、学校の敷地内にずらりと並ぶ大型バスを前に、どれに乗ればいいのか分からずに立ち尽くしていた。たくさんのバスがあると、どれも同じに見えるもんだな。

「こっち、こっちだよ、佐藤君」

担任の先生が、一台のバスから上半身だけをひょいっと出して手招きしている。

「あ、はーい」

先生に促されるまま、俺はそのバスへと向かうことにした。

「遅いわよ」

「あっ、すみません!」

先生に軽く注意され、恐縮しながらバスの中へ。俺は自分の席へと進むと、後ろ側から響が手を挙げて合図していた。

「こっちだ、悟」

「あざす!」

俺は響の隣の席に座り込む。ちょうど全員が揃ったらしく、先生は運転手と話し合って出発の準備を進めているようだ。

「私、今回の行き先行くの初めてなんだ」

前の席に座っていた椿芽が、シートの上から顔を出して、少し楽しそうにこちらを見てきた。

「いや、俺も初めてだわ」

響がすかさず返すが、椿芽は少し呆れた顔で返した。

「ひーくんが行ったことないのは知ってるし」

「悟くんはどう?」

「いや、俺も初めてだな……」

今回の校外学習の目的地は、県の南部にある体験型の総合公園らしい。海の近くにあると聞いているが、どんなところか正直あまりイメージが湧かない。

「僕は行ったことあるけど、のんびりした公園でとてもいいところだよ」

通路の反対側に座っていた鈴木が、すかさず補足してくれる。

「ほう……」

俺はちょっと興味が湧いて、頷いた。

「そもそも校外学習なのに、内容がほぼ遠足じゃないか……」

椿芽の隣に座っていた若狭さんが、ため息交じりに言う。

「まあ、一応体験学習とかあるみたいだし……」

響がフォローするように言うが、若狭さんは不満げだ。

「あれってただアスレチックで遊ぶだけじゃん……」

「いやまあ、グループでコミュニケーション取って協力しながら目標達成しようっていうアレだろ?」

俺も苦し紛れにフォローを入れるが、若狭さんはどうも納得していない様子だ。

「あ、そういえばあそこ、カピバラとかウサギと触れ合えるコーナーがあったはずだよ」

鈴木の一言に、すかさず反応する二人の声が重なる。

「カピバラ……!」

「ウサギ……!」

若狭さんと椿芽が、まるでキラキラした目で鈴木を見ている。

「こらそこ、座りなさい。出発するよ」

先生の一言で俺たちは急いで姿勢を正す。車内が静まり返る中、やがてバスがゆっくりと動き出した。


「……暇だ……」

バスが動き出してから20分くらい経っただろうか。隣にいる響は早々に寝こけ、前の席の若狭さんと椿芽は2人で楽しそうに女子トーク、鈴木はというと、ソシャゲに夢中だ。

「ふわ……」

俺も最初はスマホをいじっていたけど、揺れるバスの中でだんだん気持ち悪くなってきてしまい、今は仕方なく通路越しに響を挟んで窓の外の景色をぼんやり眺めている。

「寝よ……」

俺は諦めて、睡魔に身を委ねることにした。




「おいコラ、お前ら起きろ」

「ん……もう着いたん?」

目を覚ますと、前の席の若狭さんに揺さぶられ、俺と響はぼんやりと体を起こす。軽く欠伸をしながらバスを降りると、周りの景色に少し感動した。

普段の騒がしい日常とは違って、のどかで静かな雰囲気が漂っている。海が近いせいか、磯の香りもふんわりと漂ってきて、妙に心地良い。

俺たちは班ごとに列を作り、公園の入口から園内へと進んでいく。

「おお、お花畑があるね!」

椿芽が目を輝かせながら、広がる花畑を見つめている。

「あれはエーデルワイスだな……」

隣にいた若狭さんが教えてくれると、椿芽は感心したようにうなずいた。

「へえー」

そんな会話をしながら、俺たちは集合場所へ到着。園の関係者と先生から注意事項の説明があるが、正直、俺はあまり集中していない。

「それじゃあ、皆さん今日はよろしくお願いします」

園のスタッフの挨拶が終わり、ようやく校外学習のレクリエーションが始まる。
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