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20話 悪魔の子
しおりを挟む「悪魔の子……?」
俺は動揺を悟られないように、心の内でその言葉を噛みしめた。響は椿芽に聞かれていないか周りを見渡した後、低い声で話し始める。
「あいつが引っ越してきたあと、なぜか不幸な出来事が立て続けに起きてさ……それと、あの当時の椿芽の無口で閉じた感じの性格もあいまって、『悪魔』だのなんだのと陰口を叩かれるようになってたんだ」
「……」
「俺もそんなのただの偶然だって、あいつをかばってたんだけど……ある出来事があってさ」
「出来事……?」
響の視線が少し遠くを見つめるように揺らぐ。まるであの時の記憶を辿るかのように、言葉を選ぶように続けた。
「椿芽の両親が……交通事故で亡くなったんだ」
「……!?」
俺はその言葉に息を飲む。
「椿芽たちが乗ってた車に、対向車が突っ込んできたらしくて……奇跡的に椿芽だけが無傷で助かったんだけど、両親は……」
響の声がかすかに震えた。俺は何も言えず、ただ響の言葉を待つ。
「それ以来、椿芽は叔母さんたちに引き取られたんだけど、今でも元の家に一人で住んでるんだ」
「そうだったのか……」
俺は椿芽の明るい笑顔の裏に、そんな過去が隠れていたなんて、想像もしていなかった。
「でもさ、椿芽は今も、両親が悲しまないようにって、自分を奮い立たせて頑張ってるんだ。周りにはあんな風に明るく振る舞ってるけど、内心はきっと……」
響は少しだけ寂しげに微笑んだ後、俺にまっすぐな目を向けて言った。
「だから、俺は椿芽がずっと笑顔でいてほしいって思ってるんだ」
俺も響の言葉に、静かに頷いた。
「なんかすまん……いきなり重い話してさ……」
「いいよ……気にするな」
響の真剣な表情を見て、俺も改めて椿芽のことを思い返していた。あいつが今の笑顔を見せられるようになるまでには、きっと色んな葛藤があったんだろう。
「もー、ひーくん達、座ってないで早くやるよー!」
エアホッケー台の向こう側から、椿芽が俺たちに元気いっぱいに呼びかけてくる。その声には、重い話を聞いたばかりの俺たちに軽やかさを取り戻させてくれる力があった。
「わりぃわりぃ、今行くよ」
響は椿芽に声を返したあと、俺と顔を見合わせて小さく笑い合い、さっきまでの話をそっと胸にしまい込んでから、椿芽たちのもとへと歩いていった。
3人を見送ったあと、一人で家に向かいながら、ふと頭に浮かんだのは「悪魔の子」という言葉だった。響が話してくれた過去の出来事、そして神から聞いた「天使と悪魔」の話が重なり合って、心に引っかかって離れない。
もし、あの神が言っているように、天使と悪魔が響を狙っているとするなら…。仮に椿芽がその「悪魔」だったとしても、俺にはどうにも納得がいかない。椿芽は確かに響に好意を抱いているみたいだが、その気持ちを無理に押し殺しているようにも見えた。もし本気で響を狙っているなら、そんな風にはならないはずだ。
「そもそも響から『悪魔』なんてワードが出るとは思わなかったし……」
考えれば考えるほど、頭の中がこんがらがっていく。俺が知っていること、そして響が話してくれた話、そのどれもが上手く噛み合わない。
「椿芽の叔母さん達なら、何か知ってるかもしれないな……」
正直、出会って間もない俺に、いきなり家族の話を教えてくれるかはわからない。でも、どうしてもこのモヤモヤを少しでも晴らしたくて、俺は家に帰るのを辞め、椿芽の叔母さんたちが営んでいる食堂へ向かうことを決意した。
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