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11話 委員会とくじ引き
しおりを挟む「それじゃ、今日のロングホームルームは委員会決めでもしましょうか。」
先生が黒板に各委員会の名前を書きながら、明るい声で言った。
「各委員会ごとに男女で2名必要だから、とりあえずやりたい委員会がある人は手を挙げてね」
教室の中がザワつく。みんなが自分の希望する委員会を考えている中、一人の女の子が元気よく手を挙げた。「はい! 学級委員希望です!」
その子は確か、響とトイレで出会った黒髪の子だ。記憶の中で印象が強く残っている。
「お、若狭さんやってくれるのかい? こうやる気がある子がいてくれると助かるね。」
先生はにこやかに彼女に答えると、黒板の学級委員のところに「若狭朱音《わかさあかね》」と記入した。
「それじゃ、じゃんじゃん行こうか!他にやりたい子はいる?」
先生が明るい声で呼びかけると、教室が少しざわめきシーンとした空気が流れた。
「そかそか、大体こうなると思ってたよ」
先生は教卓の下からゴソゴソと何かを探し始める。
「じゃじゃじゃーん!こうなったらもうくじで決めるしかないよね」
先生が取り出したのは、四角い白い箱だった。
「そんな横暴な!」
響が立ち上がり、少し声を荒げる。彼の反応には思わずクラスの視線が集まった。そして彼に合わせるように周りも同調する。ざわざわとした教室の空気が、響の言葉に一瞬張り詰めた。
「ほほう、反抗するとな……よしそのリーダーシップ心気に入った……ほんじゃ神野くんも学級委員ね」
先生はニヤリと笑いながら、響を指名した。その瞬間、教室は一層ざわつき、周りからは驚きと笑いが混ざった声が上がった。
「なんでそうなるんだよ!」
響が思わず叫ぶ。周りからはくすくす笑いが漏れて、先生は楽しげに肩をすくめた。
「べーつにくじ引きで選んでもいいけど先生、出席番号7番が出るまで引き直すから」
先生があくまで平然とそう言い放つ。
「俺の出席番号じゃねーか!」
響がさらに声を上げると、教室の笑い声が一段と大きくなった。
「待ってください先生!」
その場でピンと背筋を伸ばして、若狭さんが立ち上がる。黒髪が揺れて、少し真剣な表情だ。
「そういう決め方はよろしくないと思います」
彼女の冷静な意見に、クラスが少し静まる。
「確かにねーでも先生、先生に異議を申し立てれる生徒はクラスの代表として適任だと思うんだよねー」
先生は意地悪そうに微笑んで若狭さんを見るが、響の方にもすかさず目線を移す。
「そんなことは……」
若狭さんは一瞬ためらったが、先生のペースに押されて何も言えなくなる。
「私は神野君でいいと思いまーす」
先生の悪ノリに釣られたか、クラスの他の子が声をあげた。
「俺もー」
続いて、さらに何人かが賛同する。響の抗議はあっさりと封じ込められていった。
居心地が悪くなった若狭さんは席に戻ると、ちらりと響を睨むように見た。とはいえ、今回に限っては響のせいじゃないんだよなあ。俺はそう思いながら、机に突っ伏してため息をつく。
先生はそんな様子も気にせず、すっかりノリノリだ。
「それじゃーじゃんじゃん引いて行くよー!当たっても己の運の無さを呪えー!」
箱の中でくじがシャカシャカとかき混ぜられ、教室がざわつく。地獄の運試しの時間だ。
先生が次々とくじを引いていくたび、当たった生徒たちは「マジかよ…」と頭を抱えたりして、教室は一気に阿鼻叫喚の渦に包まれていく。
「ほんじゃ次は美化委員ねー、出席番号1番と13番!天野と佐藤だねー」
…よりによって俺も呼ばれるとは。思わず机に頭をゴンッと打ちつけた。
机に突っ伏しながら内心で軽く絶望。せっかくなら何も当たらずやり過ごしたかったのに……
ロングホームルームがようやく終わり、そして放課後になる。先生が教室の前に立ち、ニヤッと笑って一言。
「それじゃ、選ばれた子達は放課後、各委員集会がある教室に向かってねー」
言い終わると、先生はさっさと教室から出て行った。委員会に選ばれなかった子達は解放されたと次々と教室を後にする。
俺がため息をついていると、椿芽がすっと俺の席にやってきた。
「残念なことに私たち、美化委員になってしまったね…仕方ないけど行くしかないようだよ、悟くん」
「はあ…そうだな」
諦めモードで椿芽に答え、俺は重い腰を上げて席から立ち上がる。仕方ない、さっさと済ませて帰ろう。そんなことを思いながら、椿芽と一緒に教室を出た。
廊下を並んで歩いていると、椿芽が申し訳なさそうに俺に話しかけてきた。
「昨日は、悟くんに気を使わせてしまったみたいだね…」
「ああ、別に気にしなくてもいいよ。それより響は何やらかしたんだ?」
椿芽が小さく笑って続けた。
「昨日はあの後、クレープをまたご馳走になったよ」
あいつ、ちゃんと機嫌を取るのに手を抜かないのは偉いな…なんて思っていると、椿芽は少し口元を引き締めた。
「それでね、響くんの家に帰ったら琴音さんとアリスちゃんがいてね…あ、琴音さんは響くんのお姉さんだよ」
「ああ、お隣さんだもんな…って、響、姉がいたのか」
「うん。それでね、玄関にズラーッと並べられてたの」
「…何が?」
なんとなく嫌な予感がするが、椿芽は気にせず続けた。
「エッチな本」
「…そうか」
「しかも、巨乳なやつ」
そう言いながら、椿芽は自分の胸をちらっと見て「むむむ…」と少し不満そうな顔をした。
(いや、椿芽もそこまで小さいわけじゃないと思うけどな…)
「それでどうなったんだ?」と俺が促すと、椿芽は肩をすくめながら答えた。
「琴音さんがひーくんにね……『なんで姉萌え本がないのよ!』って怒り出してね」
「そこ!?」
「アリスちゃんも『なんでいとこものがないの?』って怒ってね」
「へえ……」
「で、私もつい『なんで巨乳ものなんだー!』って、ちょっと悪ノリに乗っちゃってさ」
椿芽は「あはは」と、なんとも言えない顔で笑っている。
「そ、そっか……」
俺は返事しながら、心の中で密かに響に同情した。響……お前、日々すごい戦場で生きてるんだなあ……
「それじゃ、椿芽自身は響にもう怒ってないんだな?」
「そうだね、昨日の朝はいろいろお見苦しいところあったけど……今はもう平気だよ」
椿芽は少し照れくさそうに笑っている。やっぱり幼なじみ同士、何だかんだで許せちゃうんだろうな。
「そうか、そりゃ良かった」
俺も少しホッとしながら答えた。どうにかこうにか、響と椿芽の平和は守られたみたいだ。
「あ、着いたみたいだよ」
椿芽が立ち止まり、教室のプレートを指さす。どうやらここが美化委員会の集まり場所らしい。なんだかんだと廊下で話し込んでたせいで、他のメンバーはもう中に入ってるっぽいな。
「んじゃ、入るか」
俺たちはちょっと気合を入れて、教室のドアを引いた。
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