5 / 35
椿芽エーデルワイス
5話 青春のエアホッケー
しおりを挟む「ぶっちゃけどこ行く?」
響が俺に尋ねてくる。
「んー、まあ最寄り駅からちょっと行ったとこの大きな駅とか?なんか暇つぶしにはなるだろ」
適当なプランを返すと、響は少しだけ渋い顔をした。
「あそこまでか……まあ、散歩ついでだと思えばいいか」
「ちょいちょい、あんたたち……」
何か言いたそうにしている椿芽をよそに、俺は響に向けて「うっし、有酸素運動だと思えばいけるべ」と言い放つ。
「おい、ちょっとはこっちの話を聞かんかい」
椿芽はプクーッとほっぺを膨らませて、なんかご立腹。
「なんだよ、椿芽?」
「まさか女の子にそこまで歩けって申すか?」
椿芽の言い分もわかるが、響は「いいじゃん、有酸素運動で痩せるぞ」と軽く返す。椿芽、むっとした顔をして──
「ふんぬっ!」
「イタッ!何すんだよ!」
響のすねを、わりと本気で蹴り入れた。響がほんとに痛そうにしてるのを見て、思わず心の中で「今の痛そう……」とつぶやいてしまった。
「わ、私は太っとらんし!」
「流石に遠いか? 椿芽」俺は少し心配になって聞いてみる。
「うにゃ、そんな遠ないから気にせんでええぞい」
「いいんかい!」
「おっほん、良いかいあんちゃんたち、女の子にはちゃんと逐一『平気かい?』『大丈夫かい?』っていたわる必要があるのです!」椿芽は胸を張ってふんす、と得意げに言う。
「そんなもんなのか?」俺は首をかしげながら聞く。
「そーなのです!」
「いやー、特にこいつにはそこまで気にしなくていいと思うけどな」響が椿芽をちらりと見ながら言った瞬間──
「おいこら、また蹴りを入れられたいのかい?」椿芽が鋭く睨んで、再びすねを狙ってくる。けど、今回は響がうまく阻止。
「2度目を防げないとでも思ったか?」
「ほほう……そちは私に宣戦布告をするか……」
「いいぜ……わからせてやる」
「夫婦漫才するならここじゃなくて、あそこでやりなよ」俺が呆れながら指差すと、気づけばもう駅周辺に到着していた。ちょうど近くにゲームセンターがあったので、俺はそこに向かって提案する。
「ここで決着つけようぜ!
俺たちはゲームセンターに入って、勝負がつけられそうなやつを物色。
「お、これどう?」
目についたエアホッケー台を指差して、二人に声をかけると、椿芽は目を輝かせて近づいてきた。
「おぉ……エアホッケー!いいじゃん!」
椿芽、もう勝つ気満々の顔。響も「いいな、ルールも簡単だし」と乗り気だ。
「よし、お二人さん、ポジションについてくれ。ゲーム代は俺が出すから」
ちょっとだけ気前よく提案してやると、二人ともニコッと笑って「ありがと」と軽く言ってマレットを手に取った。
「んじゃここはレディファーストで」
俺は椿芽にパックを渡す。椿芽、待ってましたと言わんばかりに構えをとって──勝負開始だ。
「よーし、いくぞー!」
椿芽が気合いを入れてパックを放つ。軽めに見えるけど、意外といい感じのスピードで響のほうに滑っていく。
「その程度で俺に勝てるかよ!」
響はすかさずパックを打ち返す。腕に力が入って、ゴッと激しい音が響く。パックは勢いよく椿芽の陣地に向かって飛んでいった。
「よっと、おりゃー!」
椿芽は余裕の笑みを浮かべて、勢いに乗ってきたパックを狙いすました角度で打ち返す。パックは壁にぶつかって、ジグザグに跳ね返りながら響のほうへ──
「くっ……!」
響はそれに反応して、動き回るパックを追いかける。手元が少し乱れたのか、ちょっと苦戦してる様子。それでも、なんとかしっかり打ち返した。
「ほいっ」
椿芽はそのパックを難なく受け止め、軽やかに返す。
「まだまだ!」
響は返ってきたパックに勢いをつけて打ち返す。パックはまっすぐ飛んでいく──かと思いきや、若干のカーブで椿芽のテリトリーに向かっていく。
「よいしょ」
椿芽はそのまま勢いに乗るかと思いきや、手元で一旦パックを落ち着かせ、自分のテリトリーにしっかりと収める。
「ふっふっ、甘いねぇ~!ひーくん、あま~いあまちゃんだよ!」
椿芽はくすくす笑いながら、パックを横に転がし、響を焦らすかのようにじらす。
「ふんっ!」
一瞬、打つ素振りを見せて、響の反応を探るように微妙にフェイントをかける。そして、響が少し動いた瞬間に「おららー!」と再び力を込めてパックを叩き出した。
「なんの!」
響もすぐに応戦するものの、勢いに乗りすぎて体勢が崩れ、椿芽のスピードには追いつけなかった。
その瞬間、パックは再び椿芽の手元に戻り──見事にカウンターが決まった。
「よっしゃ!」
椿芽が得点を決めて嬉しそうにガッツポーズをしてみせる。響が悔しそうに歯を食いしばり、「弱っちぃねえ……ひーくん」と余裕たっぷりに言う。
「くっ、こりゃ実力差が歴然だな……」
俺も思わずぽつりと漏らしてしまう。
「うるさい!舐めんな!まだ1点だ!」
…………………………………………………………………………
「あらま、びっくり、ボロ負けだな……」
結果は10-2で椿芽の圧勝だった。こっちの必死の攻防なんてまるでお構いなしって感じで、あっさりと勝ち切られた。
「ふふーん、ひーくんが私に勝てるとでも?」
椿芽はどや顔で響を見下ろす。響はというと、床に膝をつき、拳を握りしめながら男泣きしていた。
「くそ……!」
そんな響を見てると、ちょっと笑いをこらえるのが大変だ。
すると、椿芽がくるっと俺の方を向いて、「よし、じゃあそのまま悟くんも相手してやろう!」と自信満々に言い放つ。
「は? これはあくまで二人の痴話喧嘩の決着だろ?」と俺が引き気味に言うと、
「おっと、そのご自慢のムキムキボディは見かけ倒しかい?」
余計な挑発をしてくる。
「やってやろうじゃねーか、この野郎!」
言われるがままにムキになって、俺も台にお金を入れ、パックを手に取った。
──そして、しばらくして……
「お二人さん、弱いねぇ……」
結局、俺も完敗だった。スコアはひどくて言いたくもない。結局、俺は響と同じように床に膝をつき、項垂れていた。
「悟……」
響が俺に手を差し出す。
「すまない……」
俺もその手を握り返して、「大丈夫だ、俺もお前の気持ちわかるぞ」と声をかける。
「俺たちで、エアホッケー上手くなろう……」と響がつぶやく。
「打倒、天野椿芽だな……」
俺たちはガシッと抱き合い、謎の絆が芽生えた気がする。
「エアホッケーで紡ぐボーイズラブ?」
椿芽がハートポーズを作ってふざけてくる。
「「だから違う!」」
「いやー、すまないねえ」
椿芽はもぐもぐと響に奢ってもらったクレープを口いっぱいに詰め込み、幸せそうな顔をしている。
「いいよ、気にすんな」
響は笑って、なんだかんだで満足そうに見える。
俺がスマホの時計を確認すると、そろそろお開きの時間っぽい。
「そろそろ帰るか?」俺が二人にそう告げると、
「だな……俺たちはここの駅から乗って帰るわ」
響が頷き、改札の方を指差す。
「おう、また明日な!」俺も手を振り返すと、椿芽がぴょんと俺の方へ振り向いた。
「悟くん、悟くん」
「ん? 何だ、椿芽?」
「明日は最寄り駅で待ち合わせしよ!ひーくんと私と悟くんで、そのまま一緒に学校行こう!」
椿芽は嬉しそうに提案してくる。
「お、それいいな!」響もすぐさま賛成して、なんだか楽しそうだ。
「お、それは嬉しいな。お邪魔じゃなければご一緒させてもらおう」俺もにやりと笑って、気軽に乗っかる。
「んじゃまたねー!」
「またなー!」
俺は2人が改札をくぐって駅構内に消えていくのを見送る
さてと、ちょっと遠回りになるけど歩いて帰るか。夜風が心地いいし、たまにはこんな感じも悪くない。
(結局今日、響に接触してきたのは幼なじみの椿芽だけか)
「ハーレムが形成されるかも」なんて言われてビビってたけど、そんな気配は今のところなかったな。クラスの女子がちらっと響を見てるのはわかるけど、なんかこう……特に動き出すような雰囲気じゃなかったし。
(それに、幼なじみが天使とか悪魔ってオチもなさそうだし)
俺はほっと胸をなでおろしつつ、案外この「神の試練」も楽に終わりそうだな、なんて気楽に考えながら、のんびり家路に着いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる
歩く魚
恋愛
かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。
だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。
それは気にしてない。俺は深入りする気はない。
人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。
だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。
――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる