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5話 青春のエアホッケー

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「ぶっちゃけどこ行く?」

響が俺に尋ねてくる。

「んー、まあ最寄り駅からちょっと行ったとこの大きな駅とか?なんか暇つぶしにはなるだろ」

適当なプランを返すと、響は少しだけ渋い顔をした。

「あそこまでか……まあ、散歩ついでだと思えばいいか」

「ちょいちょい、あんたたち……」

何か言いたそうにしている椿芽をよそに、俺は響に向けて「うっし、有酸素運動だと思えばいけるべ」と言い放つ。

「おい、ちょっとはこっちの話を聞かんかい」

椿芽はプクーッとほっぺを膨らませて、なんかご立腹。

「なんだよ、椿芽?」

「まさか女の子にそこまで歩けって申すか?」

椿芽の言い分もわかるが、響は「いいじゃん、有酸素運動で痩せるぞ」と軽く返す。椿芽、むっとした顔をして──

「ふんぬっ!」

「イタッ!何すんだよ!」

響のすねを、わりと本気で蹴り入れた。響がほんとに痛そうにしてるのを見て、思わず心の中で「今の痛そう……」とつぶやいてしまった。

「わ、私は太っとらんし!」

「流石に遠いか? 椿芽」俺は少し心配になって聞いてみる。

「うにゃ、そんな遠ないから気にせんでええぞい」

「いいんかい!」

「おっほん、良いかいあんちゃんたち、女の子にはちゃんと逐一『平気かい?』『大丈夫かい?』っていたわる必要があるのです!」椿芽は胸を張ってふんす、と得意げに言う。

「そんなもんなのか?」俺は首をかしげながら聞く。

「そーなのです!」

「いやー、特にこいつにはそこまで気にしなくていいと思うけどな」響が椿芽をちらりと見ながら言った瞬間──

「おいこら、また蹴りを入れられたいのかい?」椿芽が鋭く睨んで、再びすねを狙ってくる。けど、今回は響がうまく阻止。

「2度目を防げないとでも思ったか?」

「ほほう……そちは私に宣戦布告をするか……」

「いいぜ……わからせてやる」

「夫婦漫才するならここじゃなくて、あそこでやりなよ」俺が呆れながら指差すと、気づけばもう駅周辺に到着していた。ちょうど近くにゲームセンターがあったので、俺はそこに向かって提案する。

「ここで決着つけようぜ!

俺たちはゲームセンターに入って、勝負がつけられそうなやつを物色。

「お、これどう?」
目についたエアホッケー台を指差して、二人に声をかけると、椿芽は目を輝かせて近づいてきた。

「おぉ……エアホッケー!いいじゃん!」
椿芽、もう勝つ気満々の顔。響も「いいな、ルールも簡単だし」と乗り気だ。

「よし、お二人さん、ポジションについてくれ。ゲーム代は俺が出すから」
ちょっとだけ気前よく提案してやると、二人ともニコッと笑って「ありがと」と軽く言ってマレットを手に取った。

「んじゃここはレディファーストで」
俺は椿芽にパックを渡す。椿芽、待ってましたと言わんばかりに構えをとって──勝負開始だ。 

「よーし、いくぞー!」
椿芽が気合いを入れてパックを放つ。軽めに見えるけど、意外といい感じのスピードで響のほうに滑っていく。

「その程度で俺に勝てるかよ!」
響はすかさずパックを打ち返す。腕に力が入って、ゴッと激しい音が響く。パックは勢いよく椿芽の陣地に向かって飛んでいった。

「よっと、おりゃー!」
椿芽は余裕の笑みを浮かべて、勢いに乗ってきたパックを狙いすました角度で打ち返す。パックは壁にぶつかって、ジグザグに跳ね返りながら響のほうへ──

「くっ……!」
響はそれに反応して、動き回るパックを追いかける。手元が少し乱れたのか、ちょっと苦戦してる様子。それでも、なんとかしっかり打ち返した。

「ほいっ」
椿芽はそのパックを難なく受け止め、軽やかに返す。

「まだまだ!」
響は返ってきたパックに勢いをつけて打ち返す。パックはまっすぐ飛んでいく──かと思いきや、若干のカーブで椿芽のテリトリーに向かっていく。

「よいしょ」
椿芽はそのまま勢いに乗るかと思いきや、手元で一旦パックを落ち着かせ、自分のテリトリーにしっかりと収める。

「ふっふっ、甘いねぇ~!ひーくん、あま~いあまちゃんだよ!」
椿芽はくすくす笑いながら、パックを横に転がし、響を焦らすかのようにじらす。

「ふんっ!」
一瞬、打つ素振りを見せて、響の反応を探るように微妙にフェイントをかける。そして、響が少し動いた瞬間に「おららー!」と再び力を込めてパックを叩き出した。

「なんの!」
響もすぐに応戦するものの、勢いに乗りすぎて体勢が崩れ、椿芽のスピードには追いつけなかった。

その瞬間、パックは再び椿芽の手元に戻り──見事にカウンターが決まった。

「よっしゃ!」
椿芽が得点を決めて嬉しそうにガッツポーズをしてみせる。響が悔しそうに歯を食いしばり、「弱っちぃねえ……ひーくん」と余裕たっぷりに言う。
 
「くっ、こりゃ実力差が歴然だな……」
俺も思わずぽつりと漏らしてしまう。

「うるさい!舐めんな!まだ1点だ!」


 …………………………………………………………………………

「あらま、びっくり、ボロ負けだな……」

結果は10-2で椿芽の圧勝だった。こっちの必死の攻防なんてまるでお構いなしって感じで、あっさりと勝ち切られた。

「ふふーん、ひーくんが私に勝てるとでも?」
椿芽はどや顔で響を見下ろす。響はというと、床に膝をつき、拳を握りしめながら男泣きしていた。

「くそ……!」
そんな響を見てると、ちょっと笑いをこらえるのが大変だ。

すると、椿芽がくるっと俺の方を向いて、「よし、じゃあそのまま悟くんも相手してやろう!」と自信満々に言い放つ。

「は? これはあくまで二人の痴話喧嘩の決着だろ?」と俺が引き気味に言うと、

「おっと、そのご自慢のムキムキボディは見かけ倒しかい?」
余計な挑発をしてくる。

「やってやろうじゃねーか、この野郎!」
言われるがままにムキになって、俺も台にお金を入れ、パックを手に取った。

──そして、しばらくして……

「お二人さん、弱いねぇ……」

結局、俺も完敗だった。スコアはひどくて言いたくもない。結局、俺は響と同じように床に膝をつき、項垂れていた。

「悟……」
響が俺に手を差し出す。

「すまない……」
俺もその手を握り返して、「大丈夫だ、俺もお前の気持ちわかるぞ」と声をかける。

「俺たちで、エアホッケー上手くなろう……」と響がつぶやく。

「打倒、天野椿芽だな……」
俺たちはガシッと抱き合い、謎の絆が芽生えた気がする。

「エアホッケーで紡ぐボーイズラブ?」
椿芽がハートポーズを作ってふざけてくる。

「「だから違う!」」


「いやー、すまないねえ」
椿芽はもぐもぐと響に奢ってもらったクレープを口いっぱいに詰め込み、幸せそうな顔をしている。

「いいよ、気にすんな」
響は笑って、なんだかんだで満足そうに見える。

俺がスマホの時計を確認すると、そろそろお開きの時間っぽい。

「そろそろ帰るか?」俺が二人にそう告げると、

「だな……俺たちはここの駅から乗って帰るわ」
響が頷き、改札の方を指差す。

「おう、また明日な!」俺も手を振り返すと、椿芽がぴょんと俺の方へ振り向いた。

「悟くん、悟くん」

「ん? 何だ、椿芽?」

「明日は最寄り駅で待ち合わせしよ!ひーくんと私と悟くんで、そのまま一緒に学校行こう!」
椿芽は嬉しそうに提案してくる。

「お、それいいな!」響もすぐさま賛成して、なんだか楽しそうだ。

「お、それは嬉しいな。お邪魔じゃなければご一緒させてもらおう」俺もにやりと笑って、気軽に乗っかる。

「んじゃまたねー!」

「またなー!」

俺は2人が改札をくぐって駅構内に消えていくのを見送る

 さてと、ちょっと遠回りになるけど歩いて帰るか。夜風が心地いいし、たまにはこんな感じも悪くない。

(結局今日、響に接触してきたのは幼なじみの椿芽だけか)

「ハーレムが形成されるかも」なんて言われてビビってたけど、そんな気配は今のところなかったな。クラスの女子がちらっと響を見てるのはわかるけど、なんかこう……特に動き出すような雰囲気じゃなかったし。

(それに、幼なじみが天使とか悪魔ってオチもなさそうだし)

俺はほっと胸をなでおろしつつ、案外この「神の試練」も楽に終わりそうだな、なんて気楽に考えながら、のんびり家路に着いた。
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