魔獣っ娘と王様

第1話●なんでこんなやつに

「うえーっ。」

俺は目を覚ますとすぐに胃や口に溜まっていた生臭い、いろんな匂いと味が混ざったヌルヌルを吐き出した。

急激にいろいろな記憶が頭の中に飛び込んで来て目はぐるぐる回るし、鼻血は出るしで、さらに小汚いことになる。

徐々に頭の中が整理されてすっきり...せんわー。

なんじゃこの人間は。

なんの罰でこんな人間に転生せにゃならんのじゃ。

こいつ自分と同郷の子供、しかも自分を慕ってついて来た子の稼ぎのうわまえはねていた。

バレちゃまずいからってダンジョンに置き去りにして殺そうとしている。

で、失敗して強制労働に連行されている途中で逃げた。

そんで盗賊の仲間になって、また捕まって、また逃げて、同郷の子供に再会したところでサンドワームに飲まれて死亡。

最悪だ、逃亡者じゃないか。
これじゃあ人里には出られない。

転生するにしてもあんまりな仕打ち。

しかも説明なし。

あ、メニュー画面、ああそうか。

ジョブは剣士と、王？　なにこれ？
レベル99
所持金99
インベントリは標準装備なのか。

なんか色々なアイテムがそれぞれ99個入っている。

なんか雑だな。

まあこれならすぐには死なないかも。

改めて現状をみる。

臭いべちゃべちゃな液体は魔法で浄化した。

生活魔法ぐらいは冒険者をやっていれば普通にスキルを持っている。

周囲は岩の壁、床には木の枝や葉っぱ、草などが敷き詰めてある。

サンドワームの断片とでかい黄色い鳥。

なんだか見た目はひよこみたいだがとりあえずでかい。

横たわったまま弱々しくぴーぴー言っているので鑑定すると消化不良で弱っているようだ。

ヒールをかけてやるとムクっと起き上がった。

ジーっと俺を見てくる。

とりあえず具合は良くなった様だ。

俺は持ち物をインベントリから出してみる。

まずはお金。

エリミリア金貨か、現行のドルクル金貨の100倍の価値がある。

価値は高いけど両替しないと使えん。

いわゆる古銭だ。

面倒くさい。

貧乏人が持つ様なもんじゃない。

急に鳥がキューと言う。

何かと思って見ると鳥は金貨を見ている。

鳥は光るものが好きで集める習性があるらしいから欲しいのかと思った。

鳥の前にエリミリア金貨を差し出してやる。

すると鳥と金貨が一緒に光り始める。

鳥が徐々に小さくなって人間の子供になった。

子供は自分の手足を確認するように動かしている。

「やっと人化出来る様になった。人間、礼を言うぞ。」

小さい女の子に偉そうに言われた。

俺はインベントリから服を出す。

「おいヒナ、人化出来たら服を着た方がいいと思うぞ。」

と言って渡してやる。

ヒナはなんか顔を赤くして服を着る。

都合よくサイズは着る者に合わせる様になっているようだ。

鑑定ではこいつはロック鳥の雛だ。
ヒナって呼んだところでこいつの名前はヒナになってしまった。

成鳥になったらどうすんだと思ったがコイツの寿命は何万年もある。
成鳥になる頃には俺は居ないだろうからまあいいか。

「お腹空いた。」

ヒナが言うのでインベントリからパンを出してやる。

「美味しいね、あるじー。」

ああ、俺はこいつをパンで餌付けしたのか。

この体の持ち主を喰ったサンドワームをこいつが喰ったんだろう。

そこへ俺が転生して来たわけだが、なぜかこいつが消化不良をおこしてゲロを吐いたってところだろう。

吐いたゲロが主人ってどうなんだ？
まあウンコで無くて良かった。

「ピー。」
突然ヒナが甲高い声をだした。

「うるさいよ。他の魔獣がやってきたらどうすんだ。」

とは言うもののすでに沢山の魔獣が集まってしまった。

しかも見たところかなりレベルの高い奴ばかり。

こりゃ死んだかも。

「それ貸して」とヒナがエリミリア金貨を手に取って集まった魔獣達にかざす。

みんな人化した。

？　

金貨を鑑定したらソロモンの石の粉ってのが混ざっている。
これと俺のジョブのせいの様だ。

と言うわけで俺は魔獣達の王になってしまった。

解せん。

しかしそれならそれで人里から出来るだけ遠くに離れないと…。

騎士団や勇者が討伐に来るとかは嫌だし。