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第32話 いつものこと2
しおりを挟む今日もいつもの様にコージが寝付いた頃、そーっとドアを開けてマリタお嬢様がそろそろとベッドに近づいてくる。
マヨネは夜目が効くのでマリタお嬢様が寝室のドアを開いた時から丸見えなんだけどお嬢様は誰にも気づかれていないと思っている。
マヨネはコージを引っ張ってマリタお嬢様の場所を開ける。
マヨネがそんなことをしている事をお嬢様は知らない。
チャオが薄目を開けて必死になって笑うのを我慢している。
マリタお嬢様は暗い中カーテンの隙間から入る月明かりでコージの寝顔をジーっと見てから隣に寝ようと思っていたのに今日に限ってコージがパッと目を開いた。
ビクッととしてのけぞった拍子にバランスが崩れる。
今日はまだベッドの下にクッションは置いていない。
シュッとマヨネが跳び起きてマリタお嬢様の手を取って支える。
危機一髪だね。
お嬢様はドキドキしながらコージの顔を見るがコージにはお嬢様の顔は逆光で分からないようだ。
「マヨネ、どうしたの眠れないの。」
と言ってお嬢様を抱えて寝息を立て始める。
お嬢様にとってはある意味大成功なのだけど予想外な出来事に絶賛パニック中。
チャオがマヨネを抱えて必死で笑うのを我慢している。
しばらくするとマリタお嬢様もあきらめて寝息を立て始める。
今日に限ってはマリタお嬢様の寝相もおとなしくしている様だ。
部屋に陽が差し込むとチャオが起き上がる。
続いて待ち侘びた様にマヨネが起きる。
朝食やお店の準備はトラとハチが初めている。
チャオとマヨネは身繕いをするとお店がある屋敷の周りをぐるりと散歩する。
さすが帝宮付きになった錬金術師の工房兼住居だけあって敷地は広い。
店舗、工房は鍛治と錬金、調薬、工作室、材料庫。
そして厨房、食糧庫、洗濯室、ダイニング、応接室が3室にホール、読書室、茶室。中庭には東屋や植物園などがある。
寝室や個室がいくつかあるしトラやハチの部屋や大浴場もあるので錬金工房猫舌屋は立派なお屋敷だ。
屋敷の外は店舗側が「がらくた通り」右側面が「猫三郎筋」左側面が「野良縞筋。」
裏側と言うか屋敷としては正面に当たるのは錬金通り。
ぐるりと回るだけでも距離はある。
まだ照明に大きなコストがかかるこの世界では太陽という照明が活動の基準になる。
陽が昇るとともに街は活動を始める。
おそらく前世では午前5時頃、この世界では前夜の名残りを片付けて人々は職場に向かい、商店や露店は開店の準備を始める。
残飯やゴミを漁っていた野良の生き物たちも路地裏や建物の床下などに身を隠し始める。
古くからの街の石畳の路面はとりあえず水でも流せば汚物の類は側溝を通じて地下の下水路に消え去り見かけは美しく見せてくれる。
この日は珍しく屋敷の前の通りに寝ぐらに帰り損ねた猫がいた。
運悪くマヨネに捕まったようだ。
何か猫に話しかけている。
猫は迷惑そうだが残念ながらマヨネの方がすばしこい。
逃げようとしてもマヨネに先回りされてしまう。
「この猫、にゃあにゃあしか言わない。喋らないよ。」
チャオが苦笑いして
「普通の猫は喋らないのよ。それから人の姿にもならないわ。」
「ふーん。」
と言ってマヨネは考える。
喋る龍は食べちゃダメ、喋らない竜は食べる.....。喋らない猫は.....?
チャオはなんとなくマヨネが考えている事がわかる様な気がした。
「マヨネ、猫は食べないであげてね。」
「わかったー。」
「やっぱり。」
マヨネはそう返事をしながら視界の端に黒いネズミ達を床下に誘導している白いネズミを見かけた。
ツッピがいる。
ツッピもマヨネに気がついて後ろ足で立ち上がって前足を振った。
ツッピは魔法師ペトロニウス・グローヴズ公爵の使い魔。
公爵は帝国でも活動をしているようだ。
その頃お屋敷では目覚めたコージが自分が抱えているのがマヨネでない事に気がついた。
が、押しのけることも出来ないぐらい女子に対して立派なヘタレ。
一方、目覚めたマリタお嬢様は、ちょっと照れながら達成感に満ちている様子。
落ち着いた振りで身繕いをして部屋を出る。
コージは呆然と見ている事しか出来なかった。
「な、な、何があったの?」
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