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第44話 フェンリル
しおりを挟む「だだだだめだー。」
身体強化のバフをかけて絶賛全力疾走してるんだけれど振り切れない。
クグルイア領内のはずれにある中級ダンジョンの一つに向かう途中の街道から森に踏み込んですぐに強力な魔力を感じて振り返ると白いかたまりが駆け寄って来た。
反射的に走り出すと何故かそいつは猛ダッシュをして追って来た。
巨大で真っ白でふさふさの毛の塊が猛スピードで追ってくる。
強大な魔力を感じる、こいつめっちゃ強い。
追いつかれたら絶対死んじゃう。
離れたところでユリアが大笑いしている。
あいつ俺を鍛えているつもりなのか?
こいつがめっちゃやばいってわかってないのか?
「ユリアー。助けろー。」
「あーははは、あんた手助けされんの嫌いじゃなかったっけー。」
あかーん。
白いのがジャンプして一気に距離を詰めて来た。
「終わったー。」
ウツミは絶望した。
でかい白い奴はウツミにのしかかって顔をペロリと舐めた。
あ、味見?
「勇者?勇者だよね。ユウト以外にもいたんだね。」
しゃ、しゃべった。
白い奴は巨大な犬?
フェンリルだ。
ゲーム中では勇者の移動手段になる奴。
ストーリー上では勇者と出会うのはこのドルツリア大陸の北端でのクエストの時のはず?
「ユリアー。この子まだ弱っちいよ。」
「あんたユウトが最近全然遊んでくんないって言うからウツミに合わせたのよ。弱くてもとりあえず勇者だし。」
「ふーん。じゃあしばらくこの子に遊んでもらおうかな。」
何言ってんだこんなでかい奴に遊ばれたらオレなんかすぐに死んじゃうぞ。
それにこんなでかい奴クグルイア邸に連れて帰れないじゃん。
と思っていたらそのでかい奴がポンっと人化した。
小さな女の子になった。
「リルって呼んでね。」
なんじゃこのかわいいのは?
小さいと言ってもオレと同じくらいの大きさ。
いやオレは中身は14歳なんだけど外見が同じ6歳くらい、あのでかい白いのからは想像もできない。
「フェンリルは神獣だし寿命がどのくらいあるかわからないぐらい長いから2000年ぐらい生きていてもまだ子供なのよ。」
ユリアが説明してくれる。
「またなんか拾ってきた。」
ミュツスがぼそっと言う。
ミュツスから見たらユリアもテルファお嬢様もウツミが拾ってきたみたいなものなんだろう。
「どこの子拐って来たの?ウツミってロリコンだったの?」
テルファお嬢様がリルを抱き上げて言う。
拐ってないし、オレが6歳なのにロリコンっておかしいだろ。
お似合いってところじゃないのか。
「かわいい子ね。ふわふわの耳がついているのね獣人の子?」
「神獣様ーと。」メリとミリが平伏して拝んでいる。
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